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戦国異伝供書

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第百十八話 水色から橙へその十二

「敵に切り込むぞ」
「それでは」
「そしてじゃ」
「敵を崩しますな」
「その様にするとしよう」
「では」
「お主には頑張ってもらう」 
 家久にこうも言うのだった。
「よいな」
「存分に働きます」
「お主には主に先陣を頼む、そしてな」
 今度は義弘を見て言った。
「お主は戦の場では大将としてな」
「戦えというのですな」
「うむ、わしも出陣するが」
「兄上が出陣されることは」
「わしは戦も大事であるが政がある」
 こちらのことがというのだ。
「それ全体のことをしてじゃ」
「そうしてですな」
「国と家をまとめる」
「そうしますか」
「うむ、そして又六郎はな」86
 歳久にも顔を向けて彼にも話した。
「戦の場で軍師としてな」
「働けと」
「お主の策は見事じゃ、張子房の様にじゃ」 
 漢の高祖劉邦に仕えた彼の様にというのだ。
「働いてもらうぞ」
「それがしがあの軍師の様な者と言われますか」
「そうじゃ、言うなら又四郎が韓信でな」
 義弘は彼でというのだ。
「そして又七郎は樊噲じゃ」
「あの豪傑ですか」
「そうじゃ、だがわしはな」
 ここで義久は難しい顔になってこう言った。
「漢の高祖となるが」
「そうなりますな」」
「今の話の流れですと」
「そうなりますな」
「しかし漢の高祖は皇帝になってからが悪い」
 劉邦についてはこう言うのだった。
「そうであるな」
「ですが、功臣達を次々に殺し」
「やたらと疑い深くなっていました」
「それまでのよさがなくなっていました」
「だからな」
 それ故にというのだ。
「漢の高祖にはなりたくないのう」
「では戒めとされては」
「そうされてはどうでしょうか」
「その逆に」
「そうであるな」
 義久は弟達の言葉に頷いた。
「そうすればよいのう」
「悪いと思うならです」
「そうならぬ様にすればよいのです」
「悪い意味での手本として」
「その様にする、しかし高祖は皇帝になるまではよかった」
 それまでの劉邦はというのだ。
「それならな」
「その頃の高祖を手本として」
「そしてですな」
「やっていかれますな」
「これよりな、お主達をまとめてな」
 そうしてというのだ。
「皇帝になるまでの高祖になろう、しかしな」
「しかし?」
「しかしといいますと」
「何かありますか」
「考えが出来た」
 義久は弟達に笑顔で言った、そうしてだった。
 その考えを実行に移すことにした、彼は島津家の主としてさらに動くのだった。


第百十八話   完


                  2020・10・15 
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