八条荘はヒロインが多くてカオス過ぎる
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第二百九十八話 クリスマスのはじまりその五
「会いましょう」
「その時にね」
香織さんはここまでお話すると八条荘を後にした、そして僕はというと。
すぐにお風呂に入ってそこで身体を奇麗にしてだった。
文字通りの一張羅、水色のブラウスと青のブレザーにベスト、黒のスラックスにだった。
黒の革靴を身に着けてグレーのコートも羽織った、そして。
赤のネクタイを首に巻いた、そうしてだった。
外出しようとすると畑中さんが僕に言ってきた。
「行ってらっしゃいませ」
「はい、行ってきます」
「楽しい一日を」
僕に微笑んで話してくれた。
「お過ごし下さい」
「そうしてきます。畑中さんも」
「私もですか」
「楽しい一日を」
こう畑中さんに話した。
「送って下さい」
「そう言って頂けますか」
「はい、今日は妻とです」
「奥さんとですか」
「過ごしますが」
それでもというのだ。
「落ち着いた静かな」
「そうした夜にですか」
「なる様にします、ワインも飲んで」
「それは欠かせないですね」
「もう歳ですからあまり飲めず食べられないですが」
「そうですか」
「九十を超えますと」
どうしてもというのだ。
「食欲については」
「落ちますか」
「どうしても」
「やっぱり年齢と共にですか」
「四十代の食欲と言われますが」
「ああ、毎日の鍛錬で」
「それでお腹は空いて」
毎朝の千回二千回の十一キロの木刀を振ってヒンズースクワット二千回を行うその鍛錬である。こんなもの若くてもそうそう出来ない。
「食べていまして」
「四十代ですか」
「その食欲と言われますが」
「それでもですか」
「若い時と比べますと」
どうしてもというのだ。
「食欲は落ちました」
「そうですか」
「十代二十代の時はおひつ一つ空けていました」
「それは凄いですね」
「それだけ食べていましたが」
それでもというのだ。
「九十代になりますと」
「流石にですか」
「食欲が落ちまして」
それでというのだ。
「お酒もです」
「若い時よりもですか」
「飲まなくなりました」
そうなったというのだ。
「そうなりました」
「そうなんですね」
「やはり誰でも歳を取りますと」
畑中さんは僕に話してくれた。
「全てが衰えて」
「食事の量もですか」
「落ちます、それが人間です」
「老いは絶対にあるんですね」
「運動能力が落ちて体力もです」
そうしたものは永遠じゃない、どんな凄いスポーツ選手も衰える。王貞治さんも現役最後の二年は打撃部門のタイトルを手に出来ていない。
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