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私利私欲

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第二章

「これがです」
「勿論金も払っていません」
「そうした素振りも見せません」
「ラヴェンナの守りを固めてです」
「そうして寄せ付けませんが」
「馬鹿な、我々は金さえ貰えればだ」
 アラリックは難しい顔で話した。
「それでだ」
「いいですが」
「それで我等の領地に戻りますが」
「ローマ皇帝はそうした態度ですか」
「金は払わぬ」
「そうなのですね」
「その金はご自身の贅沢に使われるか」
 アラリックはこう考えた。
「そのおつもりか」
「もうローマに軍はありません」
「だからブリタニアもガリアも兵が退かされました」
「アフリカの叛乱も抑えられていません」
「それでもこれまでは何とかなりましたが」 
「スティリコ殿がおられたからな」
 アラリックも彼の名前を出した。
「あの方は立派だった」
「全くです」
「ローマへの忠義のお心は絶対で」
「そしてどの様な寡兵でも勝たれました」
「立派な方でした」
「あの様な方はおられませんでした」
「だがそのスティリコ殿をだ」
 苦い、これ以上はないまでにそうなった顔でだった。アラリックは彼の末路のことを話した。
「ローマ皇帝は処刑した」
「それも一族郎党」
「周りの佞臣の言葉を聞いて」
「あの方の忠義を知らず」
「そしてローマがどうなるかもわからず」
「もう帝国に兵はない、あってもだ」
 実はあるにはある、しかしだった。
「ローマ皇帝はご自身の為に使っている」
「ラヴェンナを護る為に」
「自分自身を護る為に」
「しかし国を護る為には使っていない」
「それも一切」
「帝国は終わりだな」
 アラリックはこの言葉も出した。
「これでは」
「皇帝が約束を守らない」
「国を守ろうとしない」
「自分自身のことだけでは」
「それではですね」
「あの皇帝は自分だけだ」
 それしかないというのだ。
「頭の中にな」
「全くですね」
「どう見ても」
「どれだけ不誠実や無道をしても何とも思わない」
「自分さえよければいい」
「そうした御仁ですね」
「見るべきところなぞない」
 今の皇帝にはとだ、アラリックは今度は吐き捨てる様にして言った。自分との約束を破り守ろうとしないだけでなく。
 国もその権益も民も守ろうとせず自分だけ贅沢に耽る皇帝の行いを見て言うのだ。
 そしてだ、彼はさらに言った。
「その周りもな」
「スティリコ殿だけでしたね」
「心ある御仁は」
「元老院も皇帝の側近も自分だけです」
「己の財と贅沢だけあればいい」
「権益を貪り」
「他には何もないですね」
「そうだ、最早ローマは私利私欲に満ちている」 
 そうした国になっているというのだ。
「皇帝だけでなくな」
「それではですね」
「我々との約束も守らず」
「国も民も守る気はない」
「それでは」
「我々は富さえ貰えればいいが」
 それでもというのだ。 
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