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月面ツアー

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第一章

                月面ツアー
 人類が宇宙に本格的に進出して間もなくの頃のことである、月への旅行は非常に高価なものだった。
 それこそ資産家が行くもので世界一周の方が遥かに安価なものになっていた。
 それでローマに住む自動車の修理工場で働いている青年ルイージ=マリオッティは友人達にこう言った。
「月に行くなんて夢だよな」
「行ける様になってもな」
「滅茶苦茶高いからな」
「シャトルに乗って月に行くだけでも高いしな」
「月に到着とかな」
「凄いかかるからな」
「俺も月に行きたいさ」
 マリオッティはこうも言った、黒髪はやや茶色がかっていて伸ばしている。顎には少し髭を生やしている。面長で目ははっきりとしたグレーで眉は細い。背は一七二位ですらりとした身体で青のつなぎの作業服がよく似合っている。趣味は旅行と酒を飲むこととドライブで今は友人達に仕事の合間に話している。
「旅行好きだしな」
「それでもだよな」
「やっぱり高いからな」
「月に行くなんてな」
「本当に夢だな」
「ああ、そのうち安くなるかも知れないけれどな」
 それでもというのだ。
「今はな」
「俺達じゃとても行けないな」
「お金持ちでも」
「とてもな」
「だから俺もな」
 旅行が好きでもとだ、マリオッティは友人達に話した。
「今度はサンクトペテルブルグ行くな」
「ロシア行くんだな」
「そうするんだな」
「それであの街の景観楽しんでな」
 サンクトペテルブルグの美しいというそれをというのだ。
「サウナ入ってウォッカ飲んでな」
「楽しんで来るか」
「そうするか」
「EUの中は楽に行き来出来てな」
 そうしてというのだ。
「俺も結構色々行ってるしな」
「お前ちょっとした休暇あったらすぐに旅行行くからな」
「学生の頃からそうだよな」
「だからか」
「もうEUの中は色々行ってるか」
「それで今度はちょっと冒険してな」
 気分的にそうしてというのだ。
「ロシアに行って来るな」
「そうするんだな」
「じゃあロシアも楽しんでこいよ」
「そうしてこいよ」
「そうするな」
 こう言って実際にだった。
 彼は次の休暇の時にロシアに旅行に行って楽しんだ、間違っても月に行くことはないと思っていた。だが。
 ある日本料理のレストランの中でやっていた抽選の特賞の月面ツアーにだった。
 彼は当選した、それで思わず店の中で店員に言った。
「おい、本当かよ」
「嘘だと思うならです」
 店長その店の親会社が日本の企業なので日本から来た黒髪の中年男が信じられないという彼に真顔で答えた。
「サン=タンジェロ城の屋上から飛び降りて確かめて下さい」
「それ死ぬだろ」
「夢なら死にません」
「それ言いたいんだな」
「尚私は他の方に自殺を勧めたりはしません」
「あんた冗談きついな」
「大阪生まれなので」
「だからかよ、というか夢じゃないんだな」
 マリオッティはまた言った。 
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