八条学園騒動記
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第五百九十一話 巨匠の嫉妬その五
「それで三十五歳で亡くなるまで」
「数多くの作品をだね」
「残したんだ」
「そうだったね」
「だから手塚治虫とはね」
「また違って」
「嫉妬とはね」
モーツァルトの場合はというのだ。
「無縁だったんだよ」
「そうなんだね」
「ただこれはベートーベンも同じで」
この作曲家もというのだ。
「嫉妬はしなかったそうだよ、ワーグナーもね」
「その人達の場合は違うよね」
すぐにだ、ジョルジュは言葉を返した。
「嫉妬しなかった理由は」
「二人共自信家だったからね」
それも絶対と言っていいまでにだ、ベートーベンは自分の音楽は万人がひれ伏すものだと確信していたのだ。
「それもかなりの」
「それでだよね」
「もうこうなるとね」
「他人に嫉妬しないよね」
「嫉妬するどころか」
この感情はないが、というのだ。
「もう他人をね」
「見下していたよね」
「そうだったんだ」
ベートーベンもワーグナーもというのだ。
「二人共ね、ただね」
「ただ?」
「ワーグナーは自分の音楽を何か言われるとね」
「ああ、怒ったんだ」
「それで批評家は嫌いだったんだ」
その為ある批評家を作品で貶めたこともある。
「ハンスリックって人とかね」
「批評されることが嫌いで」
「そうだったんだ、マイスタージンガーで」
「ニュルンベルグの」
「そこでこの人モデルにしたキャラ出してるよ」
「そのハンスリックって人だね」
「うん、それでこき下ろしていたんだ」
ジミーもこう話した。
「そんなこともしていたよ」
「そこはベートーベンと違うね」
「ベートーベンはそういうことしなかったよ」
「批評家に言われたら怒らなかったんだ」
「まあね、何か言われると怒ったと思うけれど」
癇癪持ちであったという。
「僕としてはね」
「そうした話は知らないんだ」
「うん」
ジミーは答えた。
「別にね」
「そうなんだね」
「まあ兎に角この二人もね」
「嫉妬はなかったんだ」
「もっと困った人達かも知れないけれど」
下手に嫉妬を持つ方がというのだ。
「それでもだよ」
「そうだったんだ」
「まあ三人共凄かったから」
「音楽の歴史に名前が残っているからね」
「それも永遠にね」
「それだけはあるね」
ジョルジュも頷いて言った。
「本当に」
「そこまでなるとね」
「もう嫉妬なんてだね」
「意味ないかもね、ただ手塚治虫はお友達になりたいと思えるけれど」
「三人はね」
「ちょっと、だよね」
「そうだね、三人共ね」
ジョルジュはまた頷いたが先程とは違う頷きだった。
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