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おっちょこちょいのかよちゃん

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80 親戚の家へ

 
前書き
《前回》
 三河口の過去話が始まった。彼は小学生の頃、些細な事で激怒し、気付かぬうちに能力が発動して児童や教師を傷つけて行き、家族からも嫌われるようになり、少年院生活を経験していた。だが、親戚のおばさんの救いで少年院出所後は横浜の実家ではなく清水で暮らすようになったのであった!! 

 
 三河口の話を聞いた一同はこの時から武装、見聞、覇王の能力(ちから)を発動させていたのかと知ると、少年院送りは確かに辛いだろうと思った。
「お兄ちゃんは少年院で自分を変えようとしてたんだね」
 かよ子は感想を述べた。
「うん、もしかして少年院帰りだから俺が恐ろしく思うかい?」
「ううん、そんな事、気にしないし、どうでもいいよ。お兄ちゃんが変われたならそれでいいよ」
「じゃあ、ここに来てからの話をしよう」

 少年院を出所した三河口は父の姉である叔母の家に居候する事になり、清水市内の中学校に通う事となった。荷物の移動は引越センターにも協力してもらったが、三河口自身は叔母の自動車で清水へ行く事になった。
 そして叔母の家に着いた。門をくぐり、叔母の主人とその娘、すなわち三河口の従姉のさりがいた。
「やあ、よく来たね」
「よ、宜しく、お願いします」
 三河口は利治とさりに挨拶した。
「健ちゃん、これから一緒だね」
「こら、さり」
 さりの父は軽く注意する。
「ごめん、ごめん」
「さりは健ちゃんに凄く会いたがってたんよ」
「だってあり姉もいなくなって一人になっちゃったからね」
「喧嘩もしたくせに」
「でも、俺と兄貴の喧嘩と比べるとそんな激しいものではないのでは・・・」
 三河口は急に畏まった。
「まあ、気にしないで」
 羽柴家の家族は三河口を疎ましく思う事はなかった。三河口は空き部屋となっていた長女・ゆりの部屋を借りる事となった。
(ここで新しい生活が始まるのか・・・)
 三河口はそう思うと、さりが部屋に入ってきた。
「健ちゃん、今日は来た記念に一緒に寝てあげる」
「え!?」
 さりは自分の布団をわざわざ持ってきた。
「でももう中学生になるんだし、今日だけよ」
「はい・・・」
 三河口はさりと雑談しながらやがて眠りについた。

 その翌日、隣の家の人が来た。
「あら、まきちゃん」
「こんにちは」
「そうだ、昨日からね、ウチの甥っ子が住む事になったんよ」
 三河口は居間に入った。
「この子が横浜から来た三河口健ちゃん、健ちゃん、お隣の山田まき子さんよ。私の古い友達なんよ」
「始めまして、三河口です。宜しくお願いします」
「宜しくね、そうだ、ウチの子も紹介するわ」
 まき子は連れて来た幼稚園児くらいの女の子を紹介した。
「娘のかよ子よ。おっちょこちょいだけどよかったら一緒に遊んでね」
「はい、よろしくね」
「こ、こんにちは」
「そうだ、健ちゃん、かよちゃんとも一緒に遊ぼうよ」
 その場に一緒にいたさりが提案する。
「うん」
 三河口はさりにかよ子と双六したり、ビー玉を弾いて遊んだりした。

「そういえばその時がかよちゃんと初めて会った時だったな」
「あ、そういえば・・・」
 かよ子もまたその時を思い出した。
「まあ、話を続けよう」

 中学校生活は小学校の頃と異なり、難なく過ごせた。皆と遊んだりもしたし、勉強も勿論(おろそ)かににせず取り組んだ。やっと自分らしくなれたとも三河口は実感するのであった。そして男女問わず友達ができ、小学生の頃のような凶暴な行為に手を染める事はなかった。自分は更生したのだ、と三河口はそう実感した。

 従姉のさりや、隣人の女の子・かよ子とも交流して三河口はこの清水の生活が最高であると共に、もう二度と横浜の実家には戻りたくないとも思った。だが、それでも実家の家族はやはり年に一度はこの家を訪れる。そんな時は彼らに会わぬようにと、さりの姉であるゆりやありの住むアパートなどに疎開したものであった。ゆりやありも三河口の事を邪険に扱う事なく接してくれた。

 また、さりとの付き合いも永久に続くものではない。三河口が中学三年生に進級すると同時にさりも名古屋の専門学校に進学する為に清水を離れる事になってしまった。
「健ちゃん、ごめんね、離れる事になって。寂しい?」
「はい、でも、また会えますよね?」
「うん、いつでも手紙とか出すし、電話もするわ」
 さりの両親や隣の山田家と共に新幹線の静岡駅にてさりを見送った。もう一人だ。だが、同時に自分は高校受験が待っている。さりが通っていた高校に行こうと三河口はそう誓うのであった(なお、幸いにもさりが通っていた高校は男女共学だった為、問題はなかった)。
 そして、三河口は受験勉強に励んだ。そして、さりが通っていた高校に入学する事ができたのだ。

「・・・という事だ。それで、色んな事があったが、君達にも会えて俺は十分幸せだったよ」
「うん・・・」
「今日は俺の話を聞いてくれてありがとう。長話になってしまったが」
「いいや、俺、アンタの事よく知る事ができてよかったよ」
 杉山が感想を言った。
「だが、俺はまたあの『忌まわしき能力(ちから)』を発動させる事になっちまったんたがな」
「そ、そんな事ないよ!」
 かよ子か抗議した。
「え?」
「お兄ちゃんの能力(ちから)で赤軍をやっつけたし、この前の文化祭だって赤軍相手に必死でその能力(ちから)を使って捕まえたよ!後で逃げられちゃったけど」
「ああ、そうだったね」
「それに私も忌まわしき能力(ちから)だなんて思わないわ」
「奏子ちゃん・・・。それでも、俺は少年院入りを経験しているんだが・・・」
「そんなこと気にしないわ。ね、皆?」
「ああ、そうだな」
「俺も!」
 皆はそれでもこんな白い目で見られてもおかしくない経歴の自分を受け入れてくれた事にありがたく感じた。
「ありがとう、皆」
 その時、叔母が入って来た。
「皆、もう5時過ぎたよ」
「ああ、そうだね。皆今日はありがとう」
 三河口と叔母は皆を帰らせた。
「あ、かよちゃん」
「え・・・?」
 かよ子は三河口から呼び止められた。
「この前の文化祭に来てくれてありがとう。午後は大変な目に遭わせちまったけど」
「ううん、私も楽しかったよ。それに、藤木君と笹山さん、なんか前より仲良くなったみたいなんだ」
「ああ、あの二人が・・・。そっか、良かったね。そうだ」
 三河口が思い出すように言う。
「そのお返しとして来月の運動会、応援に行くよ」
「え?うん、ありがとう!じゃあね」
「ああ」
 かよ子は隣の高校生ともっと関係を深める事ができたと改めて思うのであった。

 そして、時はまた進んでいく。 
 

 
後書き
次回は・・・
「運動会に向けて」
 かよ子の通う小学校では運動会が近づいていた。それぞれの役割、そして行う競技が決定し、大野がクラスの隊長、杉山が副隊長を担う事になる。そして毎朝、運動会に向けての早朝練習が始まった・・・。 
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