最弱能力者の英雄譚 ~二丁拳銃使いのFランカー~
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第二十三話
ランク祭、対戦エリア。
そこに二人して立つのは、岩山のような肉体の印象が強い巨大な戦士と、一見細身ではあるが、近くによればしっかりとした筋肉がついている男。
両者が並ぶ、対戦するには、細身の方は場違いであるかのようである。
それをボクシングで例えるならば、ミニマム級とスーパーヘビー級のような体格の違いがある。
それほどまでに体格の違いに、一目見ればわかるほどの体格差である。
両者の武器、比較的に体格が小さいほうは、二丁の拳銃を両脇にある拳銃用ホルスターへとしまっている。
その武器の名は、SIG SAUER P228 XX⦅ダブルクロス⦆。
正式名称のSIG SAUER P226を改良したものである。調整は、その者の恩師により、ある程度の移動による戦闘に特化したつくりとなっている。
放たれた後の薬莢は、前方へと飛ばされるような仕組みになっており、連射によるジャムの心配はないように設定されている。
左右、両手にちょうどはまるように、設計されており、薬莢は、体から外側へと排出するようになっている、連射によるやけどの心配はない。
一方、大男はどこかのゲームに出てきそうなキャラが背負ってそうな大剣だ。
その武器の見た目は、彼の体の二倍は優に超すほどの大きさに、塗装は紫をベースにした比較的禍々しい塗装となっている。
その武器の名は、系・神殺斬首刀《ケイ:ディカヴィテイション・ソード・オブ・ザ・ゴッド》。
別名、神首切り殺しの大剣は、その男の目標のために、とある機関から特注で取り寄せたものである。
両者は超能力を使うことができる能力者である。
そうこれはランク祭、能力者どうしが、己の階級、金銭、ランクのために、戦うトーナメント式の大会である。
しのぎを削り、自身の実力と能力⦅さいのう⦆を駆使して戦う。
そこには、まれに死もあり、頻繁に挫折がある。
それが、能力者として戦う人間の運命サガであり、宿命だ。
掛け値なしの実力勝負⦅ガチンコバトル⦆が、そこには広がっているのだ。
戦闘エリアは、直径50メートルほどの円状の形である。
その円を出ると速攻敗北となり、円の中には、均等に、コンクリートで作られた遮蔽物がある。
そして、北東、北西、南西、南東の四つの方角には、膝まで浸かれるほどの水場がある。
誰も使わないような水場に、通称:サルの温泉場と言われている。
今日行われるのは、ランク祭決勝戦。
全ての戦いが終わった選手、暇をもてあそんでいる、他の能力者たちは、この会場へと足を踏み入れていた。
史上最強と呼ばれた男と、最弱無能と呼ばれた男がその決勝で当たったからだ。
前代未聞の強さと、前代未聞の底辺から這い上がってきた、二人の男たちの戦いだ。
集客性、話題性のある二人が戦うのだ。
観客席は満員となり、中継による携帯対端末でさえも、サーバーエラーを起こしている。
それだけに彼らの戦いは、誰もが注目するようなものとなっていた。
しかしその二人はそのような”外部”の情報など微塵にも興味がなかった。
それは、己の信念と、己の目標の戦いだからだ。
そのような自己をかけた、人生をかけた戦いに、外の情報は無用である。
◇ ◆ ◇
目の前に立つのは、見上げられることができる、エベレスト級の体格がある男。
顔は、武士のように、堅苦しい印象があり、誰も彼もが、江戸時代からタイムスリップして飛んできたのだろうと感想が出てしまうほどに、巌窟な顔立ちであった。
体からあふれるオーラは、百戦錬磨の戦士のような、戦いに生まれ、その生涯は闘うことだけが、宿命づくされた人間だとわかる。
それほどまでに、彼の周りは、殺意を隠し切れないほどに満ち溢れていた。
「準備は万全か、まあその様子なら聞く必要はないな」
奴は手に持っていた、最恐にして最凶の武器、系・神殺斬首刀《ケイ:ディカヴィテイション・ソード・オブ・ザ・ゴッド》を持っていた。
全身の筋肉はとあるファンタジーに出てくる巨人岩窟ような肉付きに、腕は大きい丸太のようでもある。
それをその体格に似合うように、堂々と、軽々と持ち上げるさまは、地上にある全てのものを叩き潰しそうなほどの、力強さを感じる。
巨大な”山”と相手をしているような錯覚さえ今の俺にはあった。
だが俺は越えてやる。
――――――この壁を、この山を、この男を。
そうして俺は、両脇にあるホルスターからSIG SAUER P228 XX⦅ダブルクロス⦆という名をした重火器を取り出した。
純銀のような、きれいな銀灰色をしており、会場の天井にぶら下がった、ライトを反射して、その光沢をみせた。
剣を抜くようにして、そして奴のほうへと、二丁の銃を構える。
場の空気は、凍り付きそうな緊張感から、刃の先端のように、鋭利な空気へと変わっていく。
「ああ、いつでも始められるせ」
そう奴に告げ、二丁の銃を強く強く握りしめる。
体の調子は、かなり好調なものとなっており、奴の首をとろうと全神経、血、細胞が獣のように身震いを始めていた。
さらに武者震いをしているのは、この能力印。
体の興奮作用が最高潮なのか、その手に刻まれた刻印さえも赤い光を放ち、戦闘を始めろと訴えているようにみえる。
ああ、そんなに焦るんじゃねえと、刻印に言い聞かせ目を閉じた。
イメージする、自身が有利に立てる姿を。
終幕⦅フィナーレ⦆までの奴の倒し方、体の動かし方まで。
奴は最恐で、最凶な武器を使い、自信すらもまた最強の能力者である。
なら最初から仕掛けてやる――見せてやるよ。
俺の超感覚、圧倒的戦闘センス、超反応、超回復、雄姿を。
「両者準備はよろしいですね」
実況が、お決まりの質問をする。
ランク祭会場は、先ほどの、にぎやかなムードは立ち去り、緊迫した空気がその沈黙で分かる。
――――――勝利を掴むのは……。
この俺だ!!!!!!!!!――――――。
ブウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウ
地面に響き渡るような鈍い始まりの合図が、そのランク祭の歴史に新たに刻まれるような勝負の幕が切って落とされた。
音が反響して、ランク祭の窓が、骨格が、壁が、緊迫した空気にいる観客の心のように揺れる。
鳴り終わりと同時に、俺は声を高らかに、天高く叫んだ。
「覚醒せし感覚《Awake Sinn》!!!!!!――――――」
初めから決めていた、先手必勝の切り札を、始まりの合図とほぼ同時に始動させる。
意識境界は、通常の人の限界を超え、景色は塗り終えた後の水彩絵の具を手で滲ませた様に歪み、その感覚の研ぎ澄まされた景色へと変わる。
ああ、わかっていた俺は、全てを変える存在なんだってな。
だから、まずは全てを背負い込む奴のふざけた主張⦅カベ⦆をぶっ壊してやる。
奴の方へと、全速力で駈けた。
覚醒せし感覚《Awake Sinn》の効果により、全てがスローモーションへと変わっていく。
突っ込んで突っ込んで、再生して、何度でもよみがえり、勝利を捥ぎ取ってやるぜえええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええ!!!!!!!!
「来い!! タスクゥッ!!!!」
奴の背中から、全てを飲み込みそうなほどの理不尽、世界の悪、善を悪へと駆り立てる力の一端を感じた
。
あれは壁だ、限界に挑む者の――誰これ構わず犠牲へと立つ者による――。
んなもん俺がぶっ壊してやるんだよ、そんな世界のお決まり事なんてこの俺がぶっ壊してやる。
この世界は、誰もが自ら幸せをつかみ取れるんだ。
誰かが犠牲になるだなんて、糞くらえだ、唾をぶっかけてやる。
「オラオラオラオアラァ!!!!!!」
正面にいる奴へと走りながら、手に持っていた二丁の銃の安全装置を解除してその壁へと銃を構え、それも奴の急所へとリズミカルに、トリガーを引く。
銃の軌道による、空を切る螺旋状の直線を見ることができた。
「お前は、俺の能力について忘れてたのかァ!!!!」
反発も放たれた銃弾は、殺虫剤を吹きかけられた蚊のように、途中で空中へと止まり、無残にも落ちていく。
そう奴の能力は、超拒絶系統能力、誰にも、どんなものにも壊すことができないバリアだ。
奴はそう叫んでいると同時に、ゆっくりと、その大きな大剣が奴の腰へと回る。
「おめえの能力くらいわかってんだよ!! 黙ってろタボが!!」
頭全体へと巡りに巡っている、アドレナリンに任せて俺は奴へと吠える。
そして、奴へと左足でライダーキックをするように獲物に飛びかかった。
飛びかかる以前に、両手にあった二丁の銃をホルスターへとしまい、太ももにあるナイフを二刀、とっていた。
左肩にあるキテレツスイッチを起動、そのスイッチが発動するのは、この左足のふとももだ。
戦隊ものの、敵を倒した爆発のように、その左足からは、蒸気による煙が、二人の周りに充満した。
煙を切り裂き、奴の頭をめがけて、その流星のような左足を、一つの槍のように伸ばした。
「オラアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア」
バァアン!!
と奴の目の前、俺の足の先に、鉄の板のようなものがあった。
そう煙では、見えなかったものの、奴はその大きな大剣、系・神殺斬首刀《ケイ:ディカヴィテイション・ソード・オブ・ザ・ゴッド》で防いでいたのである。
その固い感触に、かかとの骨を伝い、膝、腰の骨に振動が伝わる。
さらにと、空中にいた俺は、そのまま正面へと体勢を直し、強く踏ん張り、その剣を踏み台にして、奴の上へと天高く飛んだ。
――――その高さ、5メートル弱。
「俺の攻撃を受けきれるかあああああああああああああ!!!!!!」
俺は下にいた人間に大きな声で叫ぶ。
そして5メートル上空からの頂点で失速。
次の落下は、地上にいるすべてのものに、衝撃が来そうなほどに、気迫が入っていた。
「そのまま上空にいろ、貴様の自信ごと、スイカ割のように切り落としてやる!!!!」
彼は俺の方を向くとそう叫んだ。
向くと行動同時に、奴の周りにまとった蒸気は、ティッシュで拭いた水のようにに消えた。
その声で、体の中さえも響くような声でもある。
息が止まりそうなほどに、緊迫したその一瞬の時間、俺は二丁の銃を両方とも放った。
「そのまま死に晒せえ!!」
勝ち負けなんて、ぶっちゃけると心底どうでもいい。
俺は、目の前のこの盾田剣士⦅カベ⦆をぶっ壊したいだけだ!!
「愚直だなああああ!! タスクよおおおおおおおおお!!」
しかし銃弾は、奴の顔面前に制止する。
その壁は、一点集中した衝撃しか受けることができない。
銃弾が、止まりその絶対的に破れない壁は、見事に壊れた。
そう俺は、奴の能力である壁の弱点を知っていた。
奴がシールドを使うのは、平面上でのことであり、縦軸での戦闘では”使ったこと”が無いと。
「ったりめえだ、それが俺だあああああああ」
その言葉と共に、華麗なる流星脚を奴の顔面へとぶち込んでやった。
見事に顔面に当たった攻撃は、奴の右頬へとグミを踏んづけたような柔らかい感触が伝わってきたのだ。
そしてすぐさま、頬骨の鉄のような感触に変わり、その固いものを踏んだ感触へと変わる。
奴は、殴られたように、その首を左へ九〇度回転させると、唾と思われる白い液体とともに、臼歯を吐いた。
――――――そのまま、倒れ掛かると思っていた俺は、奴の胸へと着地しようとした。
しかし、その”壁”は見事に俺の足を掴んでいた――――――。
「浅い、浅い浅い浅い浅い浅い浅い浅い浅い……」
な、なんでそのまま倒れろよ! 化け物がッ!!
その奴が発した、繰り返しの言葉の中、俺は砲丸投げの玉のように奴の腕にがっちりと掴まれて、奴を中心として人間を回しているとは思わないようなスピードで回っていた。
せめてもの抵抗で、しっかりとつかんでいる奴の鉄拳を何度も何度も蹴る。
「浅いわああああああああああああ!!」
その激怒とともに、俺はランク祭戦場エリア白線上ギリギリへと飛ばされた。
脳みそをぐちゃぐちゃにされたような、視界が回っている感覚が、俺の中であった。
その酒を飲んで酔っ払ったような感覚で、奴の姿を地に肘をつけながら見る。
「貴様ごときにこの俺の本気を出さなければならないとはな!!」
そういうと奴は、右腕にある軍服の裾を捲ると、腕についている板状の機械のようなものをいじる。
すると、奴の周りから上記のような白い煙が、爆弾を爆発したように広がった。
いまだ揺れる視界の中、ゆっくりと立ち上がり、奴の様子を見た。
その”体”は、いままでの”盾田剣士”とは思えないような、顔相応の体格へと変わっていた。
しかし、いままでのような、岩山のような雰囲気ではない。
筋肉が何倍にも凝縮されたような、完璧な肉体である。
「見せてやろう、俺の鍛えられあげた肉体の力をッ!!」
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