最弱能力者の英雄譚 ~二丁拳銃使いのFランカー~
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第二十話
状況を確認するように、彼の攻撃を遮蔽物から確認する。
すぐ近くからは、鉄とコンクリートの弾けるような音が聞こえてきた。
銃弾は、こちらを狙って連射による手数を知らしめていた。
――――アサルトライフル。
それが今戦っている敵の武器である。
自身の力が、表面的に表すことができない能力者の大抵は重火器を使って戦いを繰り広げる。
俺もこの二丁の愛銃で、ここまで勝ち上がってきた。
奴も同じ系統の武器である。
それは、一昔前の能力者が戦場を闊歩していない時代の戦いと、同じである。
しかし、この戦いは前時代の戦いとは決定的な違いがあった。
その”決定的”な違いとは、この常識はずれな攻撃だ。
奴が持っているのは確かにアサルトライフルだ。
しかし、とある特殊な能力者が使うとこのようになる。
三時の方向にリズミカルな銃声、同時に薬莢がコンクリートの地面に落ちる音。
コンクリートを突き抜けて俺の腕を貫通した。
すぐさま、2発、三発と身を隠しているにも関わらず当たる。
肘に当たった一発はそのまま腕を貫通して飛んで行った。
そして、肩に当たった二発は骨へと直撃したのか、貫通はしていない。
奴の指がトリガーが離れたと感づき、次の障害物へと身を隠す。
そう、この能力の前で隠れるなど、小さな息抜き程度にしかならない。
「いつまで隠れているんですかタスクさん!! 僕はあなたを倒し、越えてみせます」
コンクリートの遮蔽物の後方から聞こえるのは、明確な答えと宣言である。
俺の左肩を抱えながら荒く息を吐く、肩は使い物がならないほどにダメージを負っていた。
肩と腕をつなぐ関節に、盲管銃創のダメージがあるからだ。
再生しようにも、体内に弾が入っていては、その効果は、無に等しい。
コンクリートを突き抜けることはできるが、体内では弾の形を変形させて、俺の体をむしばむように痛みがある。
「――――ハァッ、ハァッ」
激痛と、無理な再生が俺を苦しめていた。
大きな息づかいとともに、額にある大粒の汗を左腕でガシガシとぬぐう。
だが、畑井ゴウの攻撃とは天と地ほどの痛みだ。
まだこちらの痛みの方が、精神的には圧倒的に楽である。
”普通”ではない考え方に、口元が緩んでいた。
そんな自分を観察しながら、片手で愛銃のリロードを済ませる。
◇ ◆ ◇
畑井ゴウを倒し、順調に敗者復活戦を勝ち上がっていった俺は、次の対戦相手と戦うためにランク祭会場へと足を運んでいた。
激闘という激闘はなかったが、ランク上昇のために、血眼になって向かってくる彼らの姿。
今日行われる戦いに勝てば、敗者復活のトーナメントに組まれることができる。
そんな戦った彼らのためにも、俺はやらなければならないと、改めて身を引き締める。
それが今俺にできることだ。
そして、絶対に成し遂げるんだ。
決意を新たに、ランク祭会場のドアを開ける。
開けたと同時に、凄まじい人だかりがあった。
盾田剣士戦と同じくらいには、人数が埋まっていたからだ。
俺がここに来る前に、決戦があったということもあるためだろう。
本日敗者復活戦、最終本場2回戦目ということもあり、会場の人数を高い位置で一望する。
次の俺の戦いを楽しみにしているんだろうか? それはさすがに自意識過剰か……
それほどまでに関心を持ってくれていることに、心の中で感謝をして、待合室の裏手の方へと歩いていく。
ああそうか今日は敗者復活戦最終日だからな……
そう思いながら丁字路を抜けると、選手待合室の前のドアで剣先生が待っていた。
ドアによっかかりながら、不快考え事をしているのか、煙草を咥えながら遠くを眺めるようにして地面を見ている。
そんな彼女に声をかけた。
「こんにちは先生、こんなところでどうしたんですか?」
そんな質問を投げかる、それと同時にタバコの灰が、彼女の服に落ち、風に乗って地へと飛ばされる。
「おう、タスクか。お前を待っていてな…… 話があるから中で話さないか?」
そう返すと、靴の裏で煙草の先端にある火を消す。
消した煙草をポケットの中に入れると、待合室の中へと右手の親指で指した。
「うっす」
二人は待合室の中へと入った。
中にある時計を見ると、戦闘開始まであと50分もある。
剣先生は、二つの椅子が向かい合っている、入ってきたドアが近い椅子の方へと腰かけた。
話は10分ほどでいいかと考え、愛銃のSIG SAUER P228 XX⦅ダブルクロス⦆の整備を机に置いて始める。
「ここもあまり変わらんな」
彼女はその待合室を一望して、俺の方を見た。
そうこのESP学園の元は、この島にあった中学を取り壊して新たに整備された学校だ。
彼女は、そこの学校の生徒であったらしい、二人で訓練をしていた際に話してくれた。
もとは柔道部の部室だったらしく、このような待合室に変えたと言っていた。
島の住人は、機関がESP学園を作るために、都会へと移住させたらしい。
「そういえば話って何ですか」
そんなことを聞きながら、特注のフォーミングボアクリーナーを銃身の中へと軽く噴射させて中を洗浄する。
「まずは…… そうだな。よくここまでこれた、さすがは私の教え子だな」
手を腰に掛け、どんなもんだと胸を張っていた。
「まだ敗者復活戦ですよ。先生」
そう答えながら持ってきた使わない荷物を、椅子の横に置いてゆっくりと腰かける。
「なにか困ったことや、体のどこかがおかしいといったことはないか?」
彼女は腕を組む体制になると、大きなバストを抱き上げるように椅子へとかける。
うーん…… 特にこれといった異常はないな。
「とくにはありませんけど……」
最近ち〇この様子がおかしいと思っていた。
しばらく悩むようにして顔を曲げる。
うーんこれは話した方がいいのか?
そう思った俺はおもむろに彼女にち〇こを見せた。
「見てくださいよこれ」
鉄拳が飛んできた。
「誰がドリチンを見せろと言った?」
しかも小さすぎると付け加えて、彼女は煙草を取り出し、火をつける。
「てへぺろこつーん」
あ、いっけなーいとベロを出して、しまったアピール。
これでだいぶ彼女が和んだのか、口から笑みがこぼれている。
「とにかくだ…… お前は能力を酷使する戦闘が多すぎる」
そういうと彼女は煙草を大きく吸い込んだ。
ジリジリと音を鳴らし、肺いっぱいに溜め込むと大きく煙を吐いた。
「はい」
俺は不死身をいいことに、食らわなくてもいい攻撃を食らって喜んでいた。
それは、新しいおもちゃを持った子供のようでもあるため、そのための忠告だろう。
「大きな力を持ったものは、それ相応の使い方をしなければならない。わかるな」
子供を忠告するように彼女は言った。
畑井ゴウ戦では、あまりにも俺が攻撃を受けすぎたため、審査員が機能をしていないという珍事件があったらしい。
たしかにあれは、誰もが俺が死んだと思っただろう。
そして俺のゾンビのような立ち上がりに、S’ESPではないかとあるところでは噂が流れている。
まああながち間違いではない噂である。
「ただえさえお前は無能力者だと周りは認知している。それがどういうことかわかるな?」
はい、と答え整備をする手を止めた。
ここはESP学園。俺のようなS’ESPの所属するようなところではない。
なぜ俺がここにいるのか、それは分からないが、郷にいては郷に従えだ。
「極力あのような戦闘は避けようと思います」
いくら戦った相手の意識喪失を待っていたとは言え、一人の戦士としてはあってはならない戦闘だ。
わかってはいたが、畑井ゴウとの根競べのような気がしていて、あの時の俺はどうかしていた。
「わかっているならそれでいい。いつも言っていたが、分が悪いと思ったならば引いてもいいのだ」
前かがみになり、俺の顔をじっとみつめて彼女はそう告げる。
FPSでも引くことを覚えろカスと、チームメンバーにも言われていたこと思い出した。
熱くなれば突っ込んでいく、それが俺の悪い癖でもあった。
しかしそれが功を奏したときもあった。
盾田剣士戦に、卍城王也戦だ。
あれは自身の能力も分かっていない時期だったため、ただ運が良かっただけだと自分でもわかる。
「ではこれで行くとする。あまり無理はするなよ」
その一言を発して、彼女はこの部屋から出た。
彼女が出て静まり返った室内で言っていた言葉を胸に刻んだ。
いつものように愛銃の整備を終えた俺は、担当の矢吹が来るまで待っていた。
静まり返る室内でいつものように目を瞑り黙祷をする。
「佐部タスク、準備を」
ドアが浅く開くと彼の声が聞こえた。
その水たまりの中に放たれた、一つの小石のような声に目を開ける。
ほっぺたを両手で思いっきり叩いた。
両方にあるホルスターに、愛銃を入れて立つ。
集中力が増してきたため、そのままの勢いで待合室から出た。
――――やってやるぜ。
この戦いに勝てば敗者復活できるんだと、自分に言い聞かせ、鉄でできたドアをくぐった。
「おまたせしました。左手に来るのはは不滅の無能力者ァ!! 佐部タスクだあああああああああああああ!!」
外のまぶしい光が目の裏側に焼き付く。
あまりのまぶしさで腕で目を覆っていた俺は、ゆっくりと腕をどけ目を開いた。
目の前に広がっていたのは、歓声と熱狂。
その熱狂からジンジンと体が揺れているのを感じる。
な、なにがあってこんなにも人がいるんだよ。
いつもはこんなにもいない観客に、不思議に思った俺は、キョロキョロと見渡しながら白線へと向かう。
観客に圧倒された意識をもう一度立て直して、対戦相手の入場を待っていた。
「左手に来るのはDランクから這い上がってきた男、西田アクトだああああああああああああああ!!」
実況の声が上がると、正面のドアから一人の男が出てきた。
その髪は、目元を隠すように前へと伸ばして、人に顔を見せないようにしている。
背は一回り小さいく、スラっとしてはいるがしっかりとした筋肉の付きだ。
「両者、最底辺から成り上がってきた真のスペシャリスト!! その勝敗はどちらに傾くのか!!」
いつもの爆音実況が、観客の歓声よりもドームを震わせていた。
「佐部タスクさん、あなたと戦えるだなんて僕はうれしいですよ」
唯一見える口から彼はそんな言葉を言った。
「そうか、お互い頑張ろうか」
いい子のようで反応に困った俺は、そんなありきたりの言葉しかかけることができなかった。
俺は完全に彼のことを多少下に見ていた。
どうも油断体質な俺はそれを戦闘で思い知ることになる。
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