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カルボナーラ

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第一章

               カルボナーラ
 レオ=マリオネッチは第二次世界大戦ではずっとイギリスにいた、爆撃機の基地で整備兵として軍務に就いていた。
 それで戦争が終わってアメリカに帰って本来の仕事である飛行機工場の工員に戻ってよくこんなことを言った。
「いや、イギリスの飯はな」
「まずかったんだな」
「軍隊の飯よりもずっと」
「そうだったんだな」
「軍隊じゃステーキとかドーナツ普通に出たけれどな」
 アメリカ軍ではというのだ。顎が二つに割れ大きなきらきらした睫毛の長い黒い目と分厚い唇の顔で語る。黒髪は天然パーマで背は一七五程だ。全体的に筋肉質だ。
「肉も酒もふんだんになってもな」
「あっちはものもなくてか」
「味付けも酷い」
「そうだったんだな」
「ああ、アメリカのどんなまずい店でもな」
 それこそというのだ。
「イギリス人の料理よりはな」
「ましかよ」
「噂には聞いてたけれどな」
「そうだったんだな」
「戦場には行かなかったけれどな」
 航空基地にいたからだ、攻撃も受けていなかった。
「それでもな」
「イギリスの飯はか」
「本当にまずかった」
「そうだったんだな」
「これには参ったな」
 こう言うのだった、アメリカに帰って。
 そうしてアメリカの食事がどれだけいいかを実感していた、その彼の住んでいたボルチモアのアパートの隣の部屋にだった。
 若い男が引っ越してきた、リトアニア系でイワノフ=コリヤノフといった。薄い金髪で青い目で穏やかな表情であり面長の白い顔だ。背は一七六程ですらりとしている。
 マリオネッチはそのコリヤノフとすぐに親しくなった、彼の仕事はタクシーの運転手だったが戦争中の話をすると。
「へえ、あんたはイタリアか」
「そっちに行ってたんだよ」
 コリヤノフはマルオネッチの部屋で飲んでいる時に彼に話した。
「北アフリカからな」
「シチリアに行ってか」
「イタリアをな」
「ずっと北上してたんだな」
「ああ、ただ俺は補給部隊でな」 
 そこにいてというのだ。
「トラックに乗っててな」
「前線には出てないんだな」
「そこはあんたと同じだな」
「それはよかったな」
「何かと大変だったけれどな」
「戦争で大変じゃないことはないよな」
 マリオネッチはバーボンを飲みつつ言った、肴はスパムを焼いたもので二人で一緒に食べながら飲んでいる。
「本当に」
「そうだよな、それでな」
「イタリアの方もか」
「もういつもトラック乗ってな」
 そうしてというのだ。
「故障したらな」
「なおしてか」
「そうしてな」
 それでというのだ。
「本当にな」
「いつも大変だったんだな」
「ああ」
 実際にというのだ。
「こっちもな、ただな」
「ただ?」
「あんたがよく話してるイギリスの飯な」
 コリヤノフはバーボンを飲みつつマリオネッチに話した。 
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