水着だけは嫌
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第一章
水着だけは嫌
海東優子はアイドルである。高校入学と共に街でスカウトされそこからデビューした。それから三年経って今ではトップアイドルになっている。
アイドルはよく歌唱力はまだまだだが優子は歌が上手かった。ダンスも見事で小柄だがはっきりとした顔立ちのルックスとあいまってそこから人気が出た。
バラエティーでもひょうきんなところがあり真面目で気のつく性格がファンからも共演者からも人気だった。今度はドラマにも出演するという話だった。
だがその彼女にもいぶかしまれていることがあった。それは何かというと。
「水着になってないよな」
「グラビアの仕事はしていてもな」
「水着はないよな」
「下着もないぞ」
最近のグラビアでは下着姿も多い。アイドルも大変だ。
「とにかく露出の多い衣装ないよな」
「今時水着にならないアイドルってな」
「ちょっと珍しくないか?」
「いや、昔からだろそれは」
アイドルは水着になることも重要な仕事だ。肌も見せねばならないのだ。
しかし優子は水着にならない。当然下着にもだ。グラビアで制服姿になることはあってもそれはなかった。
そのことは彼女の事務所のスタッフ達も不思議に思い仕事の合間にも時々ふとこのことについて話すのだった。
「優子ちゃんどうしてかな」
「そうよね、水着とか下着にはならないのよねえ」
「話をしただけで凄く嫌がるから」
「それどうしてかしら」
「コスプレはいいのに」
体操服、流石にブルマではないが半ズボンでグラビアに出たことはある。
「コスプレでもバニーは流石にするつもりはないけれど」
「レオタードもね」
こうした水着に近いのはやはりNGだった。
「それでもね。水着とか下着のグラビアが今時できないって」
「アイドルとしてどうなのかな」
「折角売れっ子で業界でも評判がいいのに」
「水着と下着がNGだと」
「写真集も売れないし」
何故アイドルの写真集や雑誌のグラビアが人気なのか。水着、より刺激的になれば下着もあるからである。
特別な用途もある。しかしそれにならないし用途の目的にならないとなると。
「アイドルって結局は見られるお仕事だから」
「どういった目的で見られるかは言うまでもないしね」
この辺りは本当に言わずもがなだ。
「その辺りは優子ちゃんもわかってるでしょうし」
「というかもう十九だからね」
知らないふりをしていても知らない筈のない年齢だ。
「コスプレにしてもとどのつまりファンのそうした要望に応えるものだし」
「だったらね」
「アイドルはそうした対象に見られるのも承知のうえ」
「それでお仕事をするものだから」
「水着も下着もね」
「なって曝け出してのことだから」
「なったら優子ちゃんなら絶対に話題になるのに」
「ベストセラーになるよ」
それは確実視されていた。しかしだった。
だがそれでも優子は水着になること、ましてや下着になることは嫌がった。そうした仕事はとにかく断った。
実際に事務所で今マネージャーに泣きそうな顔で言っていた。
確かに小柄だがスタイルはいい。ミニスカートから見える脚も見事だ。目は大きくはっきりとしていてきらきらと輝いている。
白い顔は人形の様に整い唇はやや大きめではっきりとしている。髪は茶色にして波立たせて伸ばしている。
その彼女がだ。ソファーに座り自分の向こう側にいる中年のややあだっぽい女、マネージャーの常盤志津子に言うのだ。
「ですから水着駄目なんですよ」
「またそう言うのね」
「はい、どうしても」
「前から思ってたけれどね」
志津子もわかっているがそれでも困った顔になって優子に問い返した。
「優子ちゃんどうして水着嫌がるの?」
「嫌だからです」
「それ返答になってないから」
志津子はズボンに包まれた長い脚を組んで難しい顔になって返した。
「全然」
「それはそうですけれど」
「とにかく。水着はね」
「アイドルの必須ですよね」
「デビューの頃から言ってるわよね」
「はい」
その通りだとだ。優子も答える。
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