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幻想の艦隊

作者:相模艦長
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第1話 開通

魔法。それは古き時代において、世界の理を目に見える形にするための理論。



まだ人類の叡智が総てを知るに足るものではなかった時の、神話とともに世界の仕組みに形を与えたそれは、人類が科学技術を発展させるに連れてその力を失い、古の人々が生み出した幻想として忘れ去られていった。



しかし、その存在は完全に忘れ去られた訳でもなければ、存在する事の無い『まやかし』でもなかった。



そして人類は、魔法が幻想ではない事を思い出す事となる。



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西暦2000年1月1日 日本国 東京湾上

 『それ』は、突如出現した。

 東京湾のほぼ中央に、水晶で出来た巨大なアーチが現出し、その中央より次々と船が現れる。

 その船の姿は、中世ヨーロッパの帆船そのものである上に、傍には全長30メートルの巨大な烏賊や蛸が付き従い、お台場を訪れていた人々はその異様さに唖然となる。

 すると、帆船からは多くの飛竜が舞い上がり、海魔は湾岸部に向けて進撃する。

 20世紀最後の正月を楽しもうとしていた人々は逃げ惑い、それを海魔の軍勢が蹂躙していく。

 この帆船の群れとアーチはアメリカのニューヨークや北海の中央、黄海の遼東半島沖合にも出現し、各所の都市を襲撃する。

 被害は日本だけで死者3000人、行方不明者6000人というすさまじいものであり、世界全体では2万もの死者を出し、20世紀最後の年の初めは血に染まるのだった。

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西暦2000年1月5日 日本国 東京都 国会議事堂

 その日、時の内閣総理大臣はこの様に述べた。

「東京湾上に浮かぶ、全く別の世界に通じる『回廊』の先に、東京湾に面する全ての都市を襲撃した『武装勢力』の本拠地がある事は明らかである。我が国は同盟国たるアメリカやイギリス、ドイツ、同じく被害を被った中国にロシアとともに、『回廊』の先にある『武装勢力』を排除すべく、自衛隊を派遣する事も辞さない。これは決して『侵略』ではなく、真の平和を得、世界の新たなるステージに進むための『通過儀礼』であるのだ」

 すでに安全保障理事会でも、『回廊』と名付けられたアーチの向こうに存在する『武装勢力(敵国)』に確実な裁きを下すための決議が下され、アメリカは独自に日本に対して軍事支援を行うとともに、中国・ロシア両国に対する技術的制裁の緩和を実施。

 世界は一つにまとまって、『回廊』の向こうの世界にある『武装勢力』を下そうとしていた。

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 『回廊』の向こうに存在する世界。その世界に存在する大陸、フィラデストロ大陸の一角に、『帝国』はあった。

 『帝国』の首都たる『帝都』。その中央に位置する、白く輝く立派な建造物の中では、多数の人が何やら話し合っていた。

 「大失態でしたな、皇帝陛下。我が帝国の保有する総戦力のなんと6割が喪失。さらに、『回廊』を設けた聖地、『クロナス島』を敵に奪取されるという事態。この未曽有の被害と新たに降りかかった危機に対し、如何なる対策をご講じられますかな?」

 古代ローマと中世ヨーロッパの建築様式を組み合わせた様な、円形状となっている議場で、元老議員のナヴァル侯爵は、目前の一際高い段に据え付けられた席に座る者に尋ねる。

 その彼の眼の前にいる、金髪で他の元老議員や将軍達とは明らかに立派な服を身に纏い、頭には王の証である王冠が被さっている男は、一つため息をついた。

 この『帝国』の皇帝、ムルタ・フォン・イズラエールは、3代前の初代皇帝の時代より続く国是である、大陸の統一と周辺島嶼の征服にて一番多大な成果を上げている『名君』で、帝国に忠誠を誓う者には寛大な慈悲を与え、逆らう者には冷酷に死を賜る者として、畏怖と崇敬を抱かれていた。

 ムルタ帝は頭を少しだけ抱えながら、ナヴァルに話しかける。

「ナヴァルよ、卿の心中は察するものである。此度の損失によって、我が帝国の軍事的優位が薄れたというのは確かだ。外国や諸侯達が一斉に反旗を翻し、一斉に帝都に攻め込んでくるのではないかと不安なのであろう?まことに、痛ましいことである」

 自らの頭を抱えていた手を離したムルタ帝はナヴァルを見るが、それは決して悲痛な顔つきではなく、どちらかといえはからかっているかのような表情をしている。

「我が帝国は、此度のような未曾有の危機に直面する度に皇帝、元老院、そして国民が一致団結して更なる発展をしてきた。如何なる精強な軍勢であろうと百戦百勝は存在せず、必ずや敗北を経験せざるを得ん。故に此度の敗北の責任を追求はせぬ。まさか他国の軍勢が帝都を包囲するまで『裁判ごっこ』に明け暮れようとする者はおらぬな?」

 ムルタ帝がそう言い放つと、周りの議員から少しばかりの笑い声が聞こえる。その様子にナヴァルは不満な顔で呟く。

「自分の責を不問に…」

「それに、対応策も然り講じておる。確かに『回廊』を開いたのは我が国であるが、属国や周辺諸国は真実をよく知らぬであろう。直ちに周辺国に使節を派遣せよ。現在、聖地クロナスを侵略し、この世界そのものを我が物にせんとする蛮族の集団が現れた。大陸侵略を目論む賊徒を撃退する為に、我が国に援軍を派遣せよ、とな!我等、連合諸王国艦隊(ゴトゥ・レイグ・フルツ)を糾合し、クロナスへと攻め入る!」

 ムルタ帝が立ち上がり、数百年前のお伽噺として名高い『連合諸王国艦隊』という軍勢の助力要請を宣言すると、元老議員達が拍手しながら一斉に立ち上がった。

「皇帝陛下に忠誠を!」

「偉大なる帝国に栄光あれ!」

 多くの議員が賛辞の言葉を言う中、ナヴァルはムルタ帝に向けて皮肉を言った。

「皇帝陛下―クロナスの海は、海魔で埋まりましょうぞ?」

―その皮肉が、果たして連合諸王国艦隊の使役海魔か、『血肉』に群がる野生の海魔を表すのか、そのどちらなのかが分かるまでには、かなりの(とき)を要した。
 
 

 
後書き
次回、戦闘開始。 
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