狐火
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第二章
吉兵衛は女を部屋に案内させてから店の者達とこう話した。
「どう思うかい?あの人は」
「そうですね。何かね」
「何かっていいますか」
「妙に怪しいっていいますか」
「普通の人じゃないですね」
店の者達は主に首を捻りながら話した。
「どう見てもあれは」
「普通の人じゃないでしょ」
「ただの祓い師かっていいますと」
「どうも違いますね」
「そうだね。あの人は絶対に只者じゃないよ」
吉兵衛もこう言う。いぶかしむ様な怪しむ様なそんな顔である。
「どっからどう考えてもね」
「ですよね。まあただで狐を退治してくれるなら」
「それでいいですけれどね」
「退治できなくてもあの狐は誰かを殺す狐じゃないですし」
「悪い奴じゃないですからね」
「だから特にですね」
「困りませんね」
「まあ退治できたらそれでよし」
吉兵衛は袖の下で腕を組みながら言う。
「退治できなかったらね」
「帰ってもらって、ですね」
「本当に犬か坊さんですね」
「そうだね。じゃあそういうことだね」
吉兵衛はどちらの流れになってもいいと言った。女が狐を退治できてもできなくてもそれでもだったのだ。
どちらでも手を打つことにしてそれで今は待った。
やがて部屋の方からどすんばたんと音がしてきた。店の者達はその音を聞いてこう吉兵衛に対して言った。
「はじまりましたね」
「狐とのやり取りがですね」
「今からはじまりましたよ」
「それじゃあ」
「ああ、まあなるようになるさ」
吉兵衛は店の己の座布団の上に正座したまま述べる。
「あたし等は今は待つしかないよ」
「退治も何も出来ませんね」
「それじゃあここは」
「待っておきますか」
「ああ、そうしようね」
こう話してだった。彼等は成り行きを待った。
そしてそのどすんばたんとした音を聞いていた。音は暫く続いた。
だが急に静かになった。店の者達はそれを聞いてこう言った。
「終わりました?」
「どっちが勝ちましたかね」
「女の人か狐か」
「どっちですかね」
「さてね。迎えに行こうか」
案内をした者は女が部屋に入ったのを見届けてすぐにこっちに戻って来ている。その者に対しても言ってだ。
店の者達を連れて部屋のところに行こうとした。だが、
彼等のところに急に女が来た。見れば一匹の大きな狐を首の後ろをむんずと掴みそのうえで引き摺ってきている。
店の番頭がその狐を見て言った。
「尻尾が二本ありますよ」
「じゃあ猫又かい?」
「それと同じですね」
「尻尾が増えると化けるんだね」
「はい、九尾の狐でもそうですし」
番頭はこう吉兵衛に話す。
「それですね」
「それかい。じゃあこいつが悪さをしていたんだね」
「どうやら」
「退治はされたってことかね」
「はい、無事に」
その狐を引き摺ってきた女もにこりとして言ってきた。見れば狐はあちこち傷だらけですっかり打ちのめされた感じだ。
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