少女A
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第三章
「普通の女の子じゃない」
「普通って?」
「そう。普通じゃない」
自分でそう思っていた。心から。
「背は低いし。胸もそんなに大きくないしウエストだって太いし」
自分でわかっている。私はスタイルはよくない。
「足も短いわよ。しかも髪の毛だってそんなに輝いてないし。それに」
「それになんだ」
「そうよ。目だってはっきりしてないし顔立ちだってアイドルみたいじゃないし」
自分でもこれでもかと言っていく。自分で冴えないっていうのはわかっているから。
「そんな私に何でなのよ。あなたは声をかけてくる訳?」
「だから可愛いから」
「そいじょそこいらにいる女の子でしょ。というか平均以下でしょ」
「全然違うよ。それはね」
私がこう言ってもだった。彼はというと。
にこりと笑ってそうして。それでまた言ってきたのだった。
「俺にとって君は特別な存在だよ」
「何処がなのよ」
「俺は君は凄く可愛いよ」
「だから。スタイルも悪いし顔だってぱっとしないし」
「凄く奇麗だよ。俺が言うから間違いないよ」
「そう言うのね、あくまで」
「言うよ。何度でも何時までも」
満面の笑顔で本当に言ってくれた。眉を顰めさせている私に。
「君は自分のことがわかっていないんだって」
「そうかしら」
「そうだよ。だからね」
「だから?」
「俺と交際してくれるかな」
ここでにこりと笑ってきたのは反則だった。その何の淀みもない笑顔を向けられると。
これまで言われてきた言葉もあって。それでだった。
仕方ないわね、という顔になってそれから彼に言った。
「断ってもよね」
「そう。何度でもアタックするから」
「それだけ私のことが好きだっていうのね」
「俺にとっては特別な存在だからね。君はね」
「わかったわよ」
降参、そうなった。
「私でよかったら。お願いするわ」
「有り難う。じゃあこれからも宜しくね」
「本当にこれからもよね。ただ私ってそんなに特別かしら」
「自分でわかっていないだけだって。君は凄く可愛いよ」
「あなたから見ればそれならもうそれでいいわ」
本当に心から白旗をあげて彼に言ってあげた。そうしてだった。
私は彼の申し出を受けた。自分では普通の、若しくはそれより下だと思っていてもこの子がそう思わないのならそれでいいと思ってだった。
私は彼の笑顔を見た。本当に何がそこまで嬉しいのか、その淀みのない満面の笑顔を見て思った。けれどその笑顔を見て私も自然に笑顔になった。彼と同じ笑顔になった。
少女A 完
2012・4・4
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