少女A
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第一章
少女A
いつもいつも。彼は私に話しかけてくる。
もう私しか目に入らないみたいに。今もにこにことして私の前に来てこう言ってきた。
「ねえ、今度だけれどね」
「また?」
「そう、まただよ」
そのにこにことしての言葉だった。
「あのお店行かない?」
「マジックね」
「あの喫茶店いいでしょ」
「まあ悪いお店じゃないわね」
私もこのことは認めた。イギリス風と聞いているその洒落た内装のお店の雰囲気もいいしお茶もお菓子も美味しい。大人の雰囲気がするお店だ。
目の前の彼に紹介、何度もそうされて。
とにかく嫌々店に行ってみたらよかった。けれど今度も彼は私に言ってきたのだ。
「それで、なのね」
「そう。一緒に行かない?」
「一人で行きたいけれど」
私は眉を顰めさせて彼に言い返した。
「もうね。あのお店にはね」
「えっ、じゃあ俺は」
「いいわよ、もう」
嫌々という顔でだ。私は彼にまた言い返した。
「あんたとはね」
「えっ、俺は駄目なの」
「邪魔。っていうか何なのよ毎日毎日」
彼の能天気な顔を見て。私は自分の顔をぐい、と前にやって抗議した。
「私にばかり言ってきて声をかけて」
「だってさ。俺ってさ」
「私のこと好きだっていうのね」
「いつも告白してるじゃない」
「いつも断ってるでしょ」
本当に毎日そうしてる。けれどこの子はいつも私に言ってくる。私の話を聞いているのかいないのか。とにかく毎日私のところに来て言ってくる。
「全く。毎日よ」
「この世に百回打って倒れない木はないからね」
「そんな諺あったの?」
「韓国の諺らしいよ」
お隣の国のことは知ってる。とはいってもアイドルやタレントがとにかく日本に来ていること位しか知らない。焼き肉はあれば食べるけれどキムチはあまり食べない。
「そう言うんだ」
「百回、ね」
「そう、百回ね」
「私一年以上断ってるけれど」
高校一年の入学式から二年の今まで。本当に毎日断ってる。
夏休みの時も冬休みの時も勿論春休みの時も。この子は私の前に来てそうしてデートに誘ってきたりプレゼントしてきたり。それで告白してくる。
私はその度に断る。喫茶店に一緒に行ったのはたまたま。いい加減鬱陶しくなって仕方なくなった。
けれどこの子はそのことに凄く喜んで。それで今日はとりわけ私に言ってきているのだ。
その彼にだ。私はうんざりとした顔で告げた。
「百回じゃきかないわよ」
「じゃあ千回いくよ」
「いかなくていいわよ」
きっぱりと言い返した。今回も。
「そんなの。というかね」
「というかって?」
「何で私なのよ」
これ以上はない不機嫌な顔になって。彼に言い返した。
「そもそも。何でなのよ」
「だって。好きだから」
あっけらかんとして。彼は私に言ってきた。
「一目惚れ?入学式の時にね」
「その時になの」
「そうだよ。君が可愛いからだよ」
「可愛い可愛いっていうけれど」
このこともいつも言われてる。けれどだった。
「あのね。それでもね」
「それでもって?」
「私位の娘幾らでもいるじゃない」
正直言って自惚れていない。自分の容姿のことはわかってるつもりだ。
だから私はむっとした顔になって彼に言い返した。
「そうでしょ。私位はね」
「いやいや、俺にとってはさ」
「違うっていうの?」
「この世で一番可愛いよ」
このこともいつも言われる。本当にいつも。
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