戦国異伝供書
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第百二話 家臣にしたい者その十一
「妻とも話していますが」
「お茶はですね」
「それがしにとっては実によいものです」
「お酒は毒になりますが」
「茶は薬です」
元々そうしたことでも飲まれていた、そのうえでの言葉だ。
「ですから」
「飲むといいのですね」
「はい、ですからこれからも」
「飲まれますか」
「自由にも飲める様になったので」
このことがあってというのだ。
「そうしていきます」
「それはいいことですね、では私よりもです」
「それがしが自分で、ですか」
「飲む様にして下さい」
「いえ、それはなりませぬ」
元就は杉大方の今の言葉には毅然として返した。
「やはり茶はです」
「私がですか」
「まず飲んで頂くということで」
「されますか」
「これからも」
「そうですか、では」
杉大方は元就の言葉を受けて述べた。
「その様にさせて頂きます」
「それでは」
「そこまで言われるのなら」
「そして近頃は甘いものもです」
こちらもというのだ。
「柿や蜜柑、瓜以外にも菓子が出ていますので」
「あの様な高いものも」
「義母上に持って来ます」
「その様なことまで」
「ははは、遠慮は無用です」
「お茶と同じですか」
「まずは義母上が召し上がって下され」
是非にという言葉だった。
「そちらも」
「そうですか」
「上方からも入って来ますので」
「上方からですか」
「あちらは泰平が戻り」
そしてというのだ。
「茶だけでなくです」
「お菓子もですか」
「昔より安くなりまた入る様になったので」
「だからですか」
「当家も取り寄せますので」
だからだというのだ。
「お楽しみを」
「そうですか。もう老齢になって後はこの命を終えるだけだと思っていましたが」
「そこで、ですか」
「これ程までの果報があるとは」
「それがし義母上に孝行出来て」
「それで、ですか」
「満足です」
こう言うのだった。
「義母上に」
「そう言って頂けますか」
「はい、ではこれよりも」
「私にですね」
「孝行させて頂きます」
こう言ってだった、元就は杉大方への孝行も忘れなかった。その彼の顔は非常に晴れやかなものだった。
元就は以後攻めることはしなかった、そして織田家とも水軍同士の戦になるまで衝突することはなかった、そうして戦国が終わっても毛利家は残ることになった。
第百二話 完
2020・6・15
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