山爺の声
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第一章
山爺の声
美濃の北の方に伝わる話である。
ある山に山爺がいるという話があった、その話を聞いてだった。
美濃を手に入れ稲葉山城を岐阜城と名を変えたうえで入った織田信長は面白そうに言った。
「この国の北にか」
「実は昔からある話で」
正室である帰蝶が信長に話した。
「それで何時かです」
「わしに話そうと思っておったか」
「殿が美濃を手に入れられ」
「そなたも戻れたしな」
「いい機会と思い」
それでとだ、帰蝶は信長に話した。
「この度です」
「わしに話したか」
「左様です」
「山爺というあやかしの話は知っておった」
信長はその妖怪の話をした。
「わしもな」
「そうですか」
「山にそうしたあやかしがおってな」
それでというのだ。
「一つ目一本足でな」
「それで山にいまして」
「獣もどんなものも頭から丸かじりにするな」
「恐ろしいあやかしです」
「しかし人は襲わず」
信長はその山爺の話をさらにした。
「それでじゃ」
「別にこれといって害はない」
「そうしたあやかしであるな」
「左様です」
「四国の方におると読んだ」
書でというのだ。
「わしはな」
「そうでしたか」
「特に土佐にな、しかしな」
「それでもですか」
「この美濃にもおるか」
「はい、そして」
帰蝶はさらに話した。
「声がとかく大きく」
「それが自慢でじゃな」
「人を見付けると大声の出し合いを挑みます」
「それで人を困らせておるか」
「あまりにも声が大きく」
帰蝶は今度は困った顔になり信長に話した。
「それで、です」
「声の出し合いとなるとじゃな」
「負けるのは常に人で」
「負けた方はその大声に負けてか」
「あまりの声の大きさに気を失い」
それでというのだ。
「山の中で倒れてしまうという」
「難儀な話であるな」
「そうした話です」
「防ぎ方はあるか」
信長はことの次第を聞いてその話をしてくれた帰蝶に問うた。
「それで」
「それがです」
帰蝶は難しい顔になり信長に答えた。
「どうもです」
「ないか」
「左様です、相手の声があまりにも大きく」
それでというのだ。
「何しろ雷の様で」
「それでか」
「誰も勝てず会えばです」
「大声の出し合いを挑まれてか」
「しかも逃げようとしても」
「追い付かれるか」
「山爺の動きはとかく素早いらしく」
「一本足でどんどん来てか」
「はい、そしてです」
そのうえでというのだ。
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