戦国異伝供書
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第百一話 出雲攻めその九
「城を攻めよ」
「兵糧攻めではなく」
「そうせよ、そのことを太郎達にも伝えよ」
三人の息子達にもというのだ。
「その様にな」
「わかり申した」
「その様にな、しかしな」
「しかしとは」
「ここまで戦ってきたが」
元就は感慨を感じて弟に話した。
「お主がいてくれてじゃ」
「それで、ですか」
「よかったとな」
その様にというのだ。
「思うわ」
「そう言って頂けますか」
「実際にな、さもないとな」
それこそというのだ。
「わしはずっと苦労しておった」
「それがしがそこまで、ですか」
「その武勇と采配でわしを常に助けてくれた」
だからだというのだ。
「まことにな」
「それで、ですか」
「こう言うのじゃ」
「そうなのですか」
「若し尼子家の策でお主を失っていれば」
今では遥かな昔のことだ、だがそれでも言うのだ。
「そう思うと恐ろしいものがある」
「それがしもそう言われますと」
「思うな」
「はい」
まさにという返事だった。
「尼子家の甘言に乗ってです」
「謀反をしていればな」
「今頃この世にはいませんでした」
「あの時早く気付いてよかった」
元就が心から思っていることだ。
「実にな」
「左様でありますな」
「そして策を防いでじゃ」
「我等が共にあって」
「そして家中が常にまとまってきたからな」
「我等の今がありますな」
「うむ」
まさにというのだ。
「この通りじゃ」
「安芸一国を手中に収め」
「そしていよいよ山陽と山陰の十国を治めるが」
「そうなったこともですな」
「家中がまとまっておったからじゃ」
それ故にというのだ。
「そしてその第一歩がじゃ」
「兄上とそれがしのことですか」
「そこからじゃ、ただな」
「ただといいますと」
「わしも歳を取ったな」
元就は遠い目になって述べた。
「気付けば不惑を越えてな」
「それを言うとそれがしもです」
「歳を取ったな」
「気付けば」
「そうであるな、息子達も大きくなり」
「孫もですな」
「出来る様な歳になってきたわ」
気付けばそうなっていたというのだ、元就は今はこのことを振り返ってそのうえで弟に対して話した。
「元服した時を思えばな」
「随分とですな」
「歳月が流れた」
「気付けばここにいますな」
「あっという間であったが」
それでもというのだ。
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