さすがお兄様な個性を持っていたけどキモい仮面のチートボスにやられた話
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2話
出久は、ヒーロー公安委員会からそのまま帰路についていた。既に時刻は9時を過ぎており駅を出てからの道は人通りが少ない。
歩きながらこれからのことを思案する。雄英高校に進学し、トラブルに対処する。雄英の教師は皆プロヒーロー。それも実力の高いヒーロー。そこらでパトロールをしているヒーローよりも強い者のたちが多いはずだ。
そんな雄英で彼らが対処できない事案がこれから起こる。この日本を裏から支配し巨大な力を持つ巨悪が平和の象徴を殺すために。全ての元凶。諸悪の根源。兄の仇。
仇討はヒーローからもっとも遠い行い。だから、夢を捨てた。
二年前、兄がその切符をくれたのに。
『・・・・・個性因子移植実験?』
『そうだイズクくん。タツヤは私と共に、他人に個性を移植する研究をしていた』
とある病院の個室の病室、そこでベッドから体を起こしている少年に眼鏡をかけ頭や腕に包帯を巻いた男が答えた。日本人ではなく白人の男は、流暢な日本語で言葉を続ける。
兄さんが死んだと聞かされて一週間後。俺の前に当時兄さんが助手をしていた先生が見舞いに来た。
『将来的には、病気や体を欠損してしまった人間に再生能力やヒーリング能力がある個性を移植する研究だ。そして、タツヤはほぼ完成させ臨床実験を行った。その被験者第一号が君だった』
誰もが一度は考えたことだ。生まれながらにして決まっている個性を後天的に得る。手足や臓器を亡くした人間に再生能力与えることで失った体の一部を取り戻せる。夢のような技術だ。
『博士、どうして、僕が・・・・・?』
『タツヤは言っていた。弟のためだと。弟が、夢を叶えるための手伝いがしたいとね』
そうデイビット・シールド博士は答えた。個性研究の最先端を行く博士の手伝いをしていた兄さんは、博士に協力してもらいながら研究をしていた。
『個性の移植には多大なリスクが存在する。移植された個性因子に耐えきれずに体が壊れる可能性があった。だから、移植元の人間と血縁関係の被験者が必要だった。そして、血清もね』
『血清?』
『体を個性に耐えられるようにする血清。言うなれば超人血清。これへの親和性も必要だ。君はどちらもクリアした。身体能力と耐久性の著しい向上。病気への耐性なども強化される』
昔、兄さんが言っていた。個性は時代と共に強化され、自分の体すら壊してしまう。個性の進化に体が追い付いていないらしい。移植だけでなく強化する薬まで兄さんは作っていた。
『だが、全てデータは破棄された。タツヤはきっと知っていたのだろう。彼の力と研究を奪おうとした、ヤツの存在を!』
『ヤツ?』
『私の友人が倒そうとした敵。強大な力を持つ巨悪の権化。タツヤを殺した男だ。名前は、』
「オール・フォー・ワン。貴様は、俺が殺す。それが兄さんから力を受け継いだ、俺の使命だ」
「ただいまお母さん。遅れてごめん」
家の玄関を開けるとまだリビングの方に明かりがあった。自分が帰るのを待っていたと思い謝罪の言葉を述べる。靴を脱ごうとした時、父とも母とも違う二足の靴と小さな子供用の靴が目に入った。
「お母さん、誰か来てるの?」
「おかえりなさい、出久君」
リビングに入って俺を出迎えたのは父さんでも母さんでもなく、白髪に赤毛交じりの眼鏡をかけた女性。
「冬美さん、お久しぶりです」
轟冬美。兄さんの幼馴染だった人。友達が少なかった兄さんの初めての友達といっていい。昔から家に出入りしていたから付き合いが長い。そして、
「久しぶりね。深雪!出久君来たわよ」
そう言って、ソファの方向かって呼ぶ。見ればお母さんが座っていた。そして、黒髪長髪の小さな女の子がお母さんの膝を枕にして寝ていた。
「おかえり出久。深雪ちゃん、ずっと待っていたけどさっき寝ちゃったわよ」
お母さんは俺に向かってそう言いながら女の子の頭を撫でる。
「ごめんなさいお義母さん!もう、深雪ったら一度言い出したら聞かなくって。お義母さんももう休んでください」
「いいのよ。かわいい孫が来てくれたんだから」
轟 深雪。冬美さんの子供。お母さんの孫。俺の姪。兄さんの、忘れ形見。
二年前、兄さんが死んだことを聞いて冬美さんは心身を病んでいった。周りは気付いていたけど、冬美は兄さんが好きだった。兄さんは感がいいのに自分に向けられる好意には鈍感だった。そのせいか雄英を卒業した後、同居することになってもルームシェア感覚だった。
でも、冬美さんはマジだった。結果、深雪ちゃんが産まれた。妊娠していることがわかると冬美さんは立ち上がろうとした。兄さんは、深雪ちゃんの顔を見ることが出来なかった。
「俺が、守らないと」
奴は、AFOは兄さんの研究と個性を狙っていた。個性は遺伝する。まだ二歳の深雪ちゃんは個性を発現させてない。けど、狙われる可能性は十分ある。
兄さんの代わりに俺が守る。兄さんが俺にしてくれたように、今度は俺が守る。
「出久君ご飯は?」
「帰るときに食べました」
「そっか、今、時間空いてる?実は出久君と話したいって人がいて・・・・」
「話したい、人?」
「遅かったな、待っていたぞ」
少し威圧感のある低い声で呼ばれる。振り向けば俺よりさらに大きく黒いタートルネックを着た、赤毛の男がいた。
「お久しぶりです、エンデヴァー。話とは?」
「ここではそれはやめろ。今はオフだ」
フレイムヒーロー エンデヴァー。最強クラスの発火能力を持ち事件解決数ナンバーワン。ヒーロービルボードチャートJPでは2位。日本のトップヒーローがいた。
「お前の部屋を借りたい。いいか?」
「構いません」
エンデヴァーが俺に用があるなんて珍しい。公安委員会本部で時々会うが、あまり話さない。
「冬美、車を呼んだ。深雪と先に帰ってくれ」
「いいけど、お父さんは?」
「後で行く」
そう言い残して、俺たちは俺の部屋に向かった。
「ずいぶんと殺風景だな。昔とは違うな」
ミニテーブルの前に座ったエンデヴァーがそう言った。オールマイトファンだった俺の部屋は、オールマイト尽くめだった。兄さんが限定グッズを買ってくれたおかげでもあった。一度俺の部屋に来たことがあるエンデヴァーは初めて俺の部屋に入った時、あまりのショックと息子がオールマイトの話で盛り上がっていることに倒れこんだ。
でも、今の俺の部屋は普通になった。勉強机にベッド。ミニテーブルと本棚くらいしかない。
昔集めたフィギュアもポスターもシールも、何もかも片づけた。嫌いになったわけじゃない。むしろ、あの人のすごさが任務を通して身に染みた。だから、俺みたいな復讐者がファンなんてあの人への冒涜だ。尊敬しているからこそ、ファンを辞めた。
「それで話とは?あなたほどの方が俺に用なんて、何があったのですか?」
「次の任務の件だ」
ああ、そういうことか。
天下の雄英が襲撃されるなんて信じられないだろう。まして、自分の母校で息子が入学する予定だ。親として心配しているのか?
「平時は普通科の生徒としています。指令か緊急時には動きます」
「ヒーローは目指さないのか?」
その言葉に、何も言えなくなった。
「俺には、君がヒーローになるというあいつの夢を叶える義務があると思っている」
「義務、ですか?」
「残された者として、いなくなった者の夢を叶える。それは義務だと思っている。俺にとっても君にとってもだ。もし、兄のことを想うなら普通科ではなくここに行くべきだ」
そう言ってテーブルの上に出したのは雄英のパンフレット。それもヒーロー科。かつて自分が憧れた夢の舞台だ。
「俺は、君が公安委員会の諜報員になることが反対だった。だが、君が決めたのなら否定しない。それも、君次第だ」
そう言って立ち上がり、エンデヴァーは、轟 炎司さんは部屋を出た。
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