あつまれおおかみたちの森 ~南の島に流れ着いた俺が可愛いどうぶつたちとまったりスローライフを目指す話~
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お客さんだよ こんにちは!
前書き
島に主人公(オリジナル)がトレバーと流れ着きました。テントで二人が目覚めるとそこにお客さんが・・・。
朝、目が覚めた。
自分がテントで寝ていたことを思い出すのに数秒かかった。決して丈夫とは言えない、狭い入口部分をめくり上げて外に出る。眼前に広がるのは水平線。波が音とともに足元に寄せては返す。空が青く水が透き通っている。おそらくここは日本本土ではない。沖縄か台湾か、あるいはもっと南のどこかなのか?
何をするでもなく、立ち尽くす。するとどこからともなく、スピーカー越しのエコーがかかった、不自然なまでに甲高い声の案内放送が突如聞こえた。ここの管理をしている人間の声と思われるが、残念ながら外国語らしく言っていることがわからない。やはり国外に出てしまったようだ。
実は先ほどのテントで寝ていたのは俺だけではない。俺の隣でもう一人、男が寝ていた。恐らく俺と近からず遠からずの境遇にあると思われる奴で、昨晩初めて出会い、仕事上の成行きでこの砂浜に船でたどり着いた。奴はまだ起きてこないようなので、俺は近くの岩場に座り胸ポケットから安物の煙草を取り出し、火をつけた。不思議と味がしなかった。いや味なんかしなくたっていい。とにかく普段当たり前のことをやっていないと精神がもたなかったのだ。
吸い始めて、先端から5分の1が燃え尽きた頃だ・・・。
「タッタッタッタッタ!!」
誰かが走ってくるような音がする。音からするに子供か?咄嗟に火を消して近くのヤシの木の下の草むらに隠れた。昨晩は船でたどり着いたこの海岸で、たまたま見つけたこのテントの中に入って、疲労のあまり何も考えずに寝てしまった。しかし、当たり前だがこんなところにテントが都合よく建てられていて、そこにたどり着いた俺たちが安穏として寝ていることの方がおかしいのだ。このテントの持ち主か、あるいはここの区域の関係者か、最悪は警察か。俺はヤシの木の陰で小さくなって息を殺した。その段階でテントの中では昨晩の道連れの男が置き去りになっているわけだが、できれば今は起きないで欲しいと思った。もし奴が見つかったならば、いっそう置き去りにして逃げてしまおうか。お互い無駄に現地の人間に見つかってもいいことはない。そもそも助ける義理もない。
駆けてくる足音が大きくなり、いよいよその足音の主が姿を現した。
が、その後の数秒間、俺は思わず息をのんだ。やってきたのは・・・恐らく少年だ。「恐らく」というのはその少年の姿形が、俺の知っている人間の少年とはかなり違ったからだ。その少年は頭の大きさがほぼ胴体と同じ、おおまかに「二頭身」と表現して差し支えない見た目だ。そして、両手足はついているが、体を支えるには心許無いくらい細く、そして短い。何よりも不気味なのはその体の半分近くを占めている顔である。ほぼ球体と言っていいほど頭の形が真ん丸なのだ。さらに違和感を増幅させるのがその目、鼻、口が極めて平面的だということ。バレーボールに大きめの目や鼻、口のシールを張り付けたものを想像してもらいたい。最初それは誰かが着ぐるみか何かの格好をしたものかとも思ったが、よくよく見ると、先ほどから何回かその平面的な目で「まばたき」をしている。つまり、かぶりものではない。恐ろしく滑らかに動く「少年型ロボット?」。混乱した俺の頭が咄嗟にはじき出した最初の認識はそんなものであった。
その「少年型ロボット」はテントをまじまじと見ている。テントの中の隣人は昨晩出会って、二言三言口をきいただけだが、正直どんな人間なのかまでは知らない。何となく気性
の荒いアメリカ人の中年男性だったと記憶している。もっとも朝、目が覚めてロボットの様な、着ぐるみの様な、無機質な二頭身の人型の様な、そんなものが目の前に立っていたとして、平静を保っていられる人間なんていないだろう。テントに近寄ってきた「少年型ロボット」の素性はわからない、昨晩から一緒にいる男の素性もわからない。そんな中、いずれにせよとりあえずは「少年型ロボット」が素通りしてどこかへ行って欲しいと、切に願っている自分がいた。
そんな俺の願いも空しく、次の瞬間彼はテントの入り口をめくり上げて中に入っていった。
数秒の沈黙。
その沈黙を破るかのように、
突如としてテントの中から、乾いた銃声が響く。
しばらくしてテントの入り口が開く。先ほどまで動いていた「少年型ロボット」が、テントの入り口から外へ無造作に放り投げられた。見ると額を撃たれたのであろう、衝撃のあまり顔面がほぼ半分なくなっている。そして、赤い鮮血があたりに広がる。高いところから落ちて粉々になったスイカの様な有様である。「少年型ロボット」は少なくともロボットではなく、少年型の何かだったようだ。
「殺ってしまったかぁ・・・。」
俺は呆然として立ち尽くす。するとテントの中から目覚めたその処刑人がのっそりと出てきた。昨晩は暗くてよくわからなかったが、改めて白昼の下でその人となりを確認する。恐らくはアメリカ人。年の頃30代後半から~40代。人種で言うと白人。手入れの行き届いているとは言えない、そもそも剃る習慣が有るのか怪しい無精ひげ、毛髪が後退した脂ぎった頭部。何年も着続け、洗濯も稀であったろう変色した白シャツ。・・・恐らく世に言う「ホワイトトラッシュ(低所得層の白人)」それが改めてのその男に関する感想であった。
「おい!お前!昨日船で一緒に逃げて来た奴だよな?日本のヤクザだな?」
「まあ、そういう理解で良い。そういうあんたは何者なんだ?」
「俺?俺は・・・トレバー様だ!覚えておけこのクソジ○ップ!」
「んぁあ、トレバーね。わかった。」
「トレバー“様”だ!死にてぇのかこのクソジ○ップ!」
「ああ、わかったよ。ミスタートレバー。これでいいかい?」
「・・・わかりゃいいんだ!でぇ、この良くわかんねぇ珍獣みたいなのは何だ!!」
「知らねぇよ。俺もさっき見つけて謎のままだ。」
「ンンンンンンン!!!!人の眠りを邪魔しやがって!!!ケツにマグナム突っ込んでサプレッサーにしてやろうかぁあ!」
「口がどこだかもう分んねぇから無理だろ。」
「○ァァッッッック!!!ああ、こんな不快な目覚めは久しぶりだぜ!フン!フン!フン!」
そう言ってトレバーと名乗る男は、目の前に横たわる「少年」の残された体の頭半分を全力で踏み潰し始めた。
因みにその時はまだ知らなかったが、後々わかったことが三つある。
一つは俺たちがたどり着いたのが大陸から遠く離れた絶海の島であったこと。
二つめがその島では二足で歩き口をきく、人間ではない獣の様な連中が跋扈しているということ。
三つめがその島でもかろうじて人間と思われる奴が一人いて、そいつの頭を頭のおかしいオッサンが今隣で踏みつぶしているということだ。
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