| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

ペルソナ3 ファタ・モルガーナの島(改定版)

作者:hastymouse
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
 

【 転 】

 
前書き
今回はパレスの主との対面です。本来、ゲームの「異世界ナビ」ではまず「名前」が必要になるのですが、「ナビ」を手にする前のモルガナは別の方法でパレスに潜り込んでいたはずです。その場合、パレスの主が誰なのか分からずに潜入することもあったんじゃないかと思います。そこで今回はパレスに入ってしまってから、主を探す展開にしました。
尚、オタカラについても、予告状を出さないと実体化しないはずなのですが、この時点のモルガナはまだそのことに気づいていないという設定です。 

 
しばらく休息して気力と体力を回復させ、その後、再びモルガナの導きで先に進むことになった。
歩き出していくらもしないうちに、広い空間にあるひと際豪華な扉の前に出る。
この場所にも銅像が数体立っていた。
その一つに、みんなが注目する。
「これって、校長先生ですよね。」ゆかり が言った。
「プレートにもそう書いてあるな。」真田が確認して答える。
ここまでくると、慣れてきてそれほど驚きがない。
いつも精一杯 教育者らしく胸を張ろうと、傍から見ても涙ぐましい努力をしている校長の像は、打ちひしがれたように肩を落とし虚ろな表情を浮かべている。
「ここに像がある人って、このパレスの主と直接関係ある人達なんでしょうか。」
『彼』が美鶴に語りかけた。
「私もそれが気になっていた。まったく無関係な人間と考える方が不自然だ。しかし『我々の協力者である警察官』『桐条の屋敷のメイド』『月光館学園の校長』。全てに関係する人物などそう多くはないだろうな。」
どうしても、ある人物の顔が浮かんでくる。絶対にあり得ない人物の顔が・・・。
「まあいい。目的地はすぐ目の前だ。ここで考えていないで先に進もう。」
美鶴が決着を付けるためにドアに向かおうとすると
「待てよ。真正面から入るつもりか? これだから素人は・・・。」とモルガナが声をかけてきた。
全員が彼に目を向けると、モルガナがすぐ横の通路の陰にある目立たないドアに向かう。
中に入るとそこは物置部屋らしく、掃除道具などの雑多なものが棚にぎっしり並んでいる。
モルガナは鋭い目つきで見回し、部屋の片隅に置かれた大きな額に入った絵を横にずらした。
そこには腰高くらいの小さな隠し扉があった。
「扉の位置からみて、目的の部屋に通じてるはずだ。」
モルガナはまたニヤリと笑って見せた。
「よくこういうものを見つけられるな。」
真田があきれたように返す。
「まあ、この手のパレスには抜け穴や隠し扉がつきものなんだ。ワガハイくらいになると、カンが働くのさ。」
モルガナは得意気に言うと、慎重に扉を開けて潜り込む。
「いいぞ。ついてこい」
彼の合図で、全員が順に扉を潜り抜けた。

そこは大きなホールの物陰だった。全員、そこに身を潜めながら慎重に中の様子を伺う。
広く天井が高い。2階分ほどの高さだろうか。豪華なシャンデリアがいくつも下がっている。壁沿いには大きな銅像が間隔をあけて立ち並んでいる。それはキリストのように十字架にかけられた人の像だった。
「なんで、十字架が並んでるんだろ。教会なの?」
声を抑えて ゆかり が囁く。
「いや、あれはキリストなんかじゃない。」
『彼』に言われて、近くにある十字架をよく見てみると、その十字架にかけられている人物はスカートを穿いている。それは月光館学園の制服だった。
そしてその姿は、髪型から言って・・・
「えっ・・・あれって、まさか・・・美鶴先輩?」
ゆかり は茫然として声を洩らした。
「そのようだな。向こうには帽子をかぶっているやつがある。あれは順平だろう。こっちの少し小さいのは天田か・・・。おそらく俺たち全員分あるんだろう。」
真田も興奮を抑えきれない様子で言った。
自分たちが十字架にかけられた姿の銅像が飾られている部屋。不気味なことこの上ない。
「僕らが十字架にかけられたのって・・・。」
『彼』がそう言うと、皆の脳裏にあの日の出来事がまざまざと蘇ってくる。背筋が寒くなり、不安げに顔を見合わせた。
十字架は3つずつ向かい合うように壁際に並んでいる。その中央に、入口から赤いカーペットがまっすぐに敷かれていた。そして、その先の一段高くなったところに玉座はあった。
玉座の前に数人の人影が見える。
ふいに声が響いてきた。
「侵入者はまだ見つからないのかい? 馬鹿に手間取るじゃないか。そんなことでこの宮殿の治安が守れると思っているのかい?」
蔭から覗くと、おかしな扮装をした男が玉座に座ったまま、並んだ5体のシャドウ・アイギスに説教をしている。
「あの声・・・」『彼』がつぶやいた。
「まさか!」真田も驚きの表情が隠せない。
「やはり・・・幾月だ。しかし、あの男がなぜ!」
美鶴が絞り出すような声を出した。
彼らにとっては絶対に許すことのできない因縁の男。そして美鶴の大切な父を殺した張本人だ。
しかし幾月は死んだはずだ。それは確実なことなのだ。
一体どうなっているのか。美鶴はその場に飛び出したい気持ちをぐっと抑えた。
幾月はシャドウ・アイギス達に語り続ける。
「僕はね。この宮殿に賊が入り込んでると思うだけで、ゾクゾクしちゃうんだ。」
シャドウ・アイギス達が爆笑した。
「うわー、あの寒いギャグ。間違いないわー。」
ゆかり が顔をしかめる。
「しかも、ギャグに反応するよう、シャドウに仕込んであるみたいだね。」
『彼』もあきれたように声を洩らす。
「知ってるやつなのか?」モルガナが興味深げに訊いてきた。
「裏切り者よ。もともと私達の活動の顧問だったけど、実は私達を利用して世界を滅ぼそうとしていたの。美鶴先輩のお父さんはあいつに殺されたし、私達も危うく殺されるところだった・・・十字架にかけられて・・・ね。」
ゆかり が手短に説明した。
「そうだったのか・・・。」
モルガナは驚いたように美鶴に目を向ける。美鶴は思いつめたような険しい表情を浮かべていた。
「俺達の十字架の像も、幾月ならば納得がいく。しかしあいつは死んだはずだろう。死んでもパレスは残るのか。」
真田が不思議そうに尋ねた。
そう、そこが問題だ。美鶴もモルガナに目を向ける。
「いや、そんなはずはない。死ねばその人間のパレスは消滅するはずだ。もしかしてその男、まだ死んでないんじゃないのか?」
モルガナが首を振りながら、逆に問いかけてきた。
「いや、それはない。死亡は確認されている。しかし・・・それならば、なぜ奴はここにいる!」
美鶴が厳しい表情で身を震わせた。
「そこに何か裏がありそうだな。お前たちと因縁がある奴ということは、お前たちがこのパレスに迷い込んできたことにも理由があるのかもしれない。」
モルガナが考え込む。
「考えたところで答えは出ないだろう。本人に確認するのが一番だ。そもそも奴が本当は何をしようとしていたのか、それもわからないままだしな。いい機会だ。きっちり吐かせてやろう。」
真田が不敵に両こぶしを合わせた。
「まあ、待て。オタカラが先だ。」モルガナが慌てて制する。
「それ、どこにあるのかわからないんでしょ。」ゆかり が言った。
「いや、今ははっきりと感じる。玉座の後ろにある扉。あの奥だ。奴に気づかれずにあの奥に入るルートを探そう。」
確認すると、確かに玉座の後ろに豪奢な両開きの扉が見える。
「まだるっこしいな。俺達が奴を問い詰めて注意を引き付ける。その間にお前がオタカラとやらを奪いに行け。」
真田が闘志を燃やして言った。とても止められる雰囲気ではない。
「荒っぽい作戦だなあ。怪盗はもっとイキにやるもんだぜ。」
モルガナが呆れたような声を出した。
「あいにく怪盗とやらになる気はない。障害があれば正面から叩き潰す。」
「そうだな。私も奴には問い質したいことが山ほどある。この期に及んで後回しにする気はない。」
普段冷静な美鶴も、怒りに震える声で同意した。父の仇であり、裏切り者でもある幾月を前にして、これ以上は心を抑えきれなかった。
「どうする?」といった表情で ゆかり が『彼』を見る。
「先輩達だけに突入させるわけにもいかないし・・・。」彼が肩をすくめて答えた。
「そうね。・・・まあそういうことだから、モルガナ。敵はこっちで引き付けるから、そっちはよろしく。」
ゆかり が申し訳なさそうにモルガナに言った。
「しかしなあ・・・」モルガナが渋る。
どうしても怪盗というスタイルに拘りがあるようだ。
その時、「ここはもういいから、お前達も侵入者を探しに行け。」と幾月の声が響いた。
シャドウ・アイギスたちは礼をすると、全員 部屋から出て行った。ホールに残っているのは幾月だけとなった。
「ふむ。うまいぞ。ヤツが一人になった。」モルガナが笑みを浮かべた。
「よし、その作戦で行こう。ワガハイが先行する。気をつけろよ。」
そう言い残すと、モルガナは物陰から素早く這い出して、幾月に見つからないよう身を潜めつつ進んでいく。
モルガナがある程度進んだところで、今度は真田が物陰から飛び出して幾月の正面に立った。取り残された3人が慌てて後に続く。
突然目の前に現れた4人を見て、幾月が驚きの表情を浮かべた。
「幾月!」
美鶴が厳しい声で呼びかける。
「おやおや、君達・・・。これは驚いた。まさか侵入者が君たちだったなんて・・・。」
幾月は芝居がかった様子でそう言いながら立ち上がった。
絵本の王子様のごとくきらびやかな服装。頭にはキンキラの大きな王冠。カボチャパンツに真っ赤なマントというふざけた出で立ちだ。
その瞳は金色に光っていた。
「僕の宮殿にようこそ。なんだ・・・君達なら、こそこそと忍び込んだりする必要なかったのに・・・。正面から来てくれれば大歓迎したんだよ。」と手を広げてにこやかに語りかけて来る。
「ふざけるな。お前は私達をだまし、お父様を殺し、世界を滅ぼそうとした。何が目的だ。説明してもらうぞ。」
美鶴が前に進みながら、怒りを込めて厳しい口調で問い質す。
「世界を滅ぼす? とーんでもない。そんなことするものか。ただ僕は世界を作り替えようとしただけだよ。まあ・・・僕の都合の良いようにだけどね。」
幾月は相変わらずゆったりとした口調で穏やかに話し続ける。
「なんだと。」
「全てのアルカナのシャドウを揃えることで、全ての人間からシャドウが抜け出し、世界は意志力を失った影人間だけになる。そこから作り直すのさ。僕の思い通りの世界に・・・。桐条君。これはもともと君のお爺様である桐条鴻悦の発想なんだよ。」
「な・・・」美鶴は絶句した。
「前回の試みは、岳羽君のお父さんのせいで台無しになってしまったけど、10年間 ひそかに準備しながらリトライのチャンスを待っていたのさ。邪魔な君の父上、武治氏ももういない。今度こそ、うまくいく。世界を思い通りに作り直して、僕はその新世界の皇子となるのさ。」
幾月は嬉しそうにそう言うと、両手を広げたままマントを翻し、舞い踊るようにくるくると回った。狂気の沙汰としか言えない。一同、唖然としてその異常な姿を見つめた。
「お前はもう死んでいるだろう。」
真田があきれたように言った。
「僕が?・・・何を言ってるんだい?」
幾月はぴたりと動きを止めると、不思議そうに真田の方に顔を向ける。
「覚えていないのか。お前は学園の天文台から落ちて死んだんだ。死亡は確認されている。」
真田が厳しい声で決めつける。
「なにを馬鹿なことを・・・そんなこと・・・。」
幾月は笑い飛ばすようにそう言いかけて、そこで言葉を切った。
そして、いきなり動揺した表情が浮かべる。
「そんな・・・ばかな・・・。」
みるみる青ざめていく。
「そうだ・・・僕は・・あの時落ちて・・・。」
次第に何かを思い出してきたのか、口を開けたまま凍り付いたように動きを止める。
やがて「あああああ・・・。」と声を張り上げながら頭を抱えてうずくまった。
突然の変貌に美鶴は真田と顔を見合わせた。
「どういうことだ。」と美鶴が眉をひそめてつぶやいく。
「つまり、こいつも幾月本人ではないということだろう。幾月は死んだんだ。」
真田が答えた。
「このパレスの主は幾月ではないということなのか・・・それならばいったい・・・。」
その時、突然、玉座の背後にある豪奢な扉が、爆発音とともにふっとんだ。重たい扉が地響きを立てて倒れる。同時に扉を失ったその奥からモルガナが転がってきた。
「モルガナ!」
倒れたモルガナに『彼』と ゆかり が駆け寄る。
モルガナが体を起こして叫んだ。
「気をつけろ! あれは・・・あれはオタカラなんかじゃねえ。宝箱に入ってたのはもっととんでもない何かだ。」
いっせいに振り向くと、扉を失った空間から、黒っぽい何か巨大なものが膨れ上がるように出てきつつあった。
「あれは・・・。」
その姿を見て『彼』が眉をひそめる。
「知っているの?」ゆかり が訊いた。
「いや、でも・・・なんだか見覚えあるような・・・。」
『彼』の表情が険しくなった。何かが頭に浮かびそうになるが、形にならずに消えてゆく。
やがてドアを抜け出したそのモノは、さらにぼこぼこと膨張し続けた。
それに伴い、ただならぬ威圧感が押し寄せてきて、全員が表情を引きつらせる。
【我はオイジュス。苦悩の神である。】
突然、頭の中に重々しい声が響き渡った。
その威圧的な声は人の恐怖心を揺さぶり、ゆかり は思わず震えが走る自分の体を抱きしめた。
「・・よく思い出せない。でも・・以前、戦った気がする。誰かと一緒に・・・そして倒したはず。」
『彼』が記憶をさぐりつつ声を洩らす。
【神は簡単に滅びはしない。】
『彼』の言葉に応えるように、再度声が響く。
いつしか見上げるほど巨大になった、大きさの異なる青黒い球の集合体。体からは更に次々と新たな球が膨れては消えている。その球の一つ一つに、目のようなものが一つずつ赤く光っている。
オイジュスと名乗ったそのモノは、ゆっくりうごめきながら前に進んでくると、そのままそこにうずくまった幾月をじわじわと飲み込んでいった。
幾月は身動きもせず、オイジェスの体にめり込んで姿を消した。
「何が目的だ。」
『彼』が叫ぶ。
【お前達の排除だ。】
オイジュスが重々しく宣言した。
 
 

 
後書き
さて、最後に出てきた黒幕についてですが、実は以前書いた「夢幻の鏡像」からの再登場です。(といっても、別にそちらを読んでなくても全然支障ないです。)
やはりペルソナと言えば、ボスキャラを倒した後の黒幕登場が定番でですよね。
ちょっと大物っぽいオリジナル敵として考えてみました。調べたらニュクス関連の神様の中に「苦悩の神オイジュス」というのがいましたのでこれをピックアップ。ニュクスの滅びを助けるために暗躍し、主人公の邪魔をするという設定です。 
ページ上へ戻る
ツイートする
 

全て感想を見る:感想一覧