夏に来ない理由
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第二章
「さっきシベリアって言ったけれど」
「はい、そこで過ごしています」
「そうなの」
「シベリアは寒いので」
だからだというのだ。
「そうしています」
「そうなの、というか青森といい東京から遠いけれど」
満里奈は今度はこのことについて述べた。
「どうして来ているの?」
「飛べますので」
「飛べるって」
「はい、ですから」
それでというのだ。
「すぐに青森から東京に行くことが出来て」
「それでなの」
「はい、シベリアにもです」
「飛んで行くの」
「そうしていきます、ですから」
それでとだ、雪子は満里奈にさらに話した。
「すぐに行けます」
「あの、貴女人間?」
満里奈はどうかという顔になって雪子に問い返した。
「そもそも。飛べるとか夏に弱いとか」
「つらら女です」
「つらら女って?」
「雪女の親戚でして」
「妖怪なの」
「はい、実は私は身体はつららです」
雪子は満里奈にあっさりとした口調で答えた。
「それで、です」
「夏に弱いの」
「夏に暑い場所にいると溶けてしまいます」
「つららだからね」
それは満里奈にもわかった、つららは即ち氷である。
「それはね」
「はい、ですから」
「それでなのね」
「どうしてもです」
「暑いと溶けるのね」
「左様です、ですから住むところも」
そこもというのだ。
「冷凍庫、若しくは冷蔵庫がです」
「いいのね」
「はい」
「そうだったの」
「ですからお願い出来ますか」
雪子は満里奈にあらためてお願いした、表情もそうなっている。
「採用して頂けるなら」
「冷凍庫でなのね」
「お願いします、あとお風呂も」
これもというのだ。
「お湯ではないです」
「水風呂なのね」
「さもないと溶けて」
お湯の中に入ると、というのだ。
「それで寒くなってつららになるまで出られないです」
「大変ね」
「そうなるので。ですから」
それでというのだ。
「お願い出来るでしょうか」
「わかったわ」
満里奈は雪子の話をここまで聞いて言った、そして雪子に答えた。
「貴女を採用することは決めていたから」
「では」
「そうした事情ならね」
満里奈はここで笑って答えた。
「冷凍庫にいてくれるかしら」
「それでは」
「そういうことでね」
「有り難うございます」
「ただ。春と秋は大丈夫なのね」
満里奈は雪子にこの二つの季節のことを尋ねた。
「その時は」
「過ごせます」
「そうなのね」
「青森も日の下に出ないなら」
夏でもというのだ。
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