| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

カーク・ターナーの憂鬱

作者:ノーマン
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
 

第24話 夢見た漢

 
前書き
     【原作年表】
宇宙暦640 ダゴン星域会戦
宇宙暦669 コルネリアス1世の大親征
宇宙暦682 フェザーン成立
宇宙暦696 シャンダルーア星域の会戦
宇宙暦720 ★第一話スタート
宇宙暦726 730年マフィア 士官学校へ入校 
宇宙暦728 ジークマイスター亡命事件 
宇宙暦728 フォルセティ会戦    
宇宙暦730 730年マフィア 士官学校卒業  
宇宙暦738 ファイアザード会戦   
宇宙暦742 ドラゴニア会戦     
宇宙暦745 第二次ティアマト会戦  
宇宙暦751 パランディア会戦 ミヒャールゼン提督暗殺事件
宇宙暦765 イゼルローン要塞完成
宇宙暦767 ヤンウェンリー誕生
宇宙暦770 シェーンコップ 祖父母と亡命
宇宙暦776 ラインハルト誕生

※星間図は『銀英伝 星間図』で画像検索すると出てくる帝国軍が青、同盟軍が赤で表現されている物を参照しています 

 
宇宙暦727年 帝国暦416年 12月末
惑星オーディン ミヒャールゼン男爵邸
クリストフ・フォン・ミヒャールゼン

「いよいよ実行する機会が参りましたな。決行される御つもりですか?」

「そのつもりでいる。こちら側は貴殿がいれば大丈夫だろう。それに私の旗艦にも数名同志が配属されている。戦況にもよるが、シャトルで艦隊を離脱するのはそこまで困難ではないはずだ」

「それにしてもフォルセティですか。軍首脳部は叛徒ども以外は帝室に忠誠を誓うものだと疑っておられないようで。まあ、おめでたい限りです」

「そう言うな、侯爵様、伯爵様と崇められて育つのだ。せいぜい経験するのは貴族同士のじゃれ合い位であろう?同盟が防衛主体で戦争を進める以上、彼らにとっては自領の反抗的な領民を殴りつける感覚なのだ。だからこそ、我々の組織もうまく動けるというものだ」

お互いにグラスを掲げ、乾杯をしてワインを流し込む。目の前に座る一回り以上年上のジークマイスター大将に声をかけられ、スパイ網を作り始めてどれ位の時間がたっただろうか?社会秩序維持局の目を掻い潜りながら拡大していく組織は、俺に暗い喜びをもたらしてくれた。同志ひとり一人の動機までは深くは聞いていない。
私の場合は、親族との財産争いがきっかけだった。権利を声高に主張し、後ろ盾の意向を傘に着て、財産をむしり取ろうとする。何が貴族だ。選ばれし者などと鼻にかけてはいるが、法的根拠の有無はあれど、やっている事は強盗に等しい。そう考えたら、疑うことなく帝室に忠誠を叫び、同盟の討伐など容易だと叫びながらしたたかな反撃を受ける連中を見ていて気分が良かった。

鼻につく連中を叩きのめし躾け直す。時には挫折すらさせてくれる同盟はむしろ私の味方だった。国内に諜報網を作り、情報を同盟に流せばもっと奴らを痛めつけてくれるだろう。多かれ少なかれ同志たちは似たような理不尽や貴族社会の醜さに触れ、暗い喜びを感じながら、せっせせっせと帝国の足元に泥沼を作ろうとしてきた。

「フォルセティ星系が帝国軍の手に落ちれば、同盟とフェザーンの交易に支障が出るでしょう。メイン航路から数星系の所に敵軍がいれば、商船の航行などおぼつきません。軍首脳部からすれば同盟の経済に打撃を与えるつもりなのでしょうが、フェザーンとしても交易は命綱。何かしら動くでしょうが、こちらからも情報を流すようにいたします」

「そうだな。大敗しては私が戦死しかねんから、適度に頼むぞ。退路はイゼルローンしかないからな。パランティア辺りで艦隊を離脱し、アスターテまでいけば同盟の哨戒網に引っかかるだろう。まぁ、世の中には知らない方が良い事もある。彼らはそれを知らず、我々はそれを知っている。それだけの事だろう」

やや遠い目をしながら話す、ジークマイスター大将を見ていて、私は今まで聞かなかった事を聞いてみたいと思った。男爵家の分家とは言え帝国騎士の身分もある。46歳で大将ともなれば、帝国では成功したと言えるキャリアだ。それを放り捨てる動機は一体なんなのか?亡命が成功すれば、もう会って話す機会もない。そうした状況も、背中を押したのかもしれない。

「動機か......。言葉にするには難しいが、父親への反抗心と、共和主義の理想社会を見てみたいという2点に尽きるかもしれんな。父は社会秩序維持局の職員でな、職務に精励し何度も表彰されたが、家庭では暴君だった。幼いなりに私は共和主義者どもが父の鼻を明かして、逃げおおせてしまえと思った記憶がある。暴君の父から逃げたいと考えていた自分と重なったのかもしれんな。
物心つく頃には、自然と同志のように思っていた共和主義者に関心を持った。幸い、我が屋には共和主義者から没収した発禁書が多数存在したからな。理解するのにそう苦労はなかった。帝国は貴族制の膿に犯されている。何とかしたいと思っているうちに同志のような存在が増え、ここまでになった。マンフレート2世陛下の治世が長くなっていれば、我々もこんな苦しみから解放されていたかもしれんが......」

「マンフレート2世陛下ですか。同盟で成人され開明的なお考えをお持ちだったと聞いております。まだ成人前でしたが、お噂は聞いておりました」

空になった2つのグラスにワインを注ぎ、献杯をする。陛下の治世が長いものになっていれば、もしかしたら貴族社会の膿のような醜さは排除され、もっと生きやすい帝国になっていたのだろうか?

「そのような陛下を育てた社会だ。それだけでも死ぬ前に見ておきたい。手土産も用意できたし、我々が協力すれば、同盟に十分貢献できるはずだ」

「確かに。敗戦が続けば鼻持ちならない貴族層が軍から減り、下級貴族や平民を実力主義の下、抜擢することもできるでしょう。そうなれば彼らの発言力も増します。爵位が無視される事は難しいでしょうが、爵位だけが重視される今の有り様も変わるでしょう。閣下の動きは、帝国にとっても無駄にはなりますまい」

その後も様々な話をしたが、お互いに貴族社会の不条理や組織の話はしなかった。そうした物に触れることのない社会をつくる。そんな思いをお互いに察していたのかもしれない。ジークマイスター大将は年明け早々に出征されたが、私は見送りには行かなかった。もう送別の儀は済ませている。願わくば、亡命が成功することを......。私の日課に、成功を祈る時間が追加されるのは、もうしばらく後の事になる。


宇宙暦728年 帝国暦417年 4月末
アスターテ星域 外縁部
マルティン・オットー・フォン・ジークマイスター

『所属不明艦へ、動力を停止し所属を明らかにせよ。さもなくば攻撃する。繰り返す、動力を停止し所属を明らかにせよ。さもなくば攻撃する。』

『動力を停止する。攻撃は控えられたし。繰り返す、動力を停止する。攻撃は控えられたし。こちらは帝国軍ジークマイスター艦隊旗艦所属のシャトルです。貴国への亡命を希望します』

パランティア星域で口実を設けて旗艦をシャトルで立ち、そのままアスターテ星域へ向かって10日あまり、なんとか同盟軍の哨戒網に入る事が出来たようだ。

「閣下、事は成りました。おめでとうございます」

「うむ。短いようで長い10日間だった。君たちの尽力に感謝する」

そういって敬礼すると、感極まったのか、副操縦士は涙を浮かべた。視線を向けるとこちらを見ていた操縦士も、涙を浮かべている。彼らにとっても、理想の国家への10日間の旅路は、緊張に満ちたものだったようだ。同志たちを代表して、私を送り届けるという意味では、もしかしたら私以上にプレッシャーを感じていたのかもしれなかった。

キャビン前部の操縦席越しに見える同盟軍の駆逐艦の艦影が大きくなるのを横目に、今後の事を考えていた。私が同盟へ亡命した事は、おそらく帝国軍には気づかれていないはずだった。艦隊を率いて参加したフォルセティ星域での会戦は、出征軍首脳部にとっては予想外に、有力な敵との遭遇で始まった。ミヒャールゼンも情報を流しただろうし、交易に支障が出る状況をフェザーンが許すはずもない。私にとっては想定内だ。
出征軍の分艦隊司令の多くが、士官教育も受けていない爵位持ちの貴族の子弟、私たちは『名ばかり少将』と呼んでいたが、そういう人材が多数を占めていたのも私にとってはうまく働いた。領民を殴りつける感覚で同盟軍に突撃しようとする旗下の彼らを、敢えて好きなようにさせたのだ。そうなれば他の艦隊の名ばかり少将達も動き出す。舐めてかかった素人の突撃を、本職の同盟軍はきれいに粉砕してくれた。

戦力的に劣勢になった帝国軍は撤退を開始する。艦列を立て直し、パランティア星系に入ったあたりで、出征軍総旗艦での会議を具申した。爵位持ちの子弟を戦死させたとなっては善後策を検討しなければならない。後は同志とシャトルに乗り込み、ちょうど艦隊と艦隊の間に入ったあたりで、用意していた時限爆弾をハッチから放出し、慣性航行に移行する。
観測班が分析すれば、おそらく私たちのシャトルが何らかの事故で爆発したように見えるだろう。撤退中の敵国領域で、救援を出すのも困難なはずだ。慣性航行を24時間続け、その後進路をアスターテ星域に向けた。あれから10日間。思い返せば人生で一番長い10日間だったかもしれない。

「私は亡命が受け入れられれば、同盟軍に協力する予定だ。だが、夢見た理想の国に我々はついに到着した。願わくば貴官らの協力が欲しい所だが、理想の国で新しい人生を歩みたい気持ちもあるだろう。亡命受け入れに際して、調査も受けるはずだ。素直に応じるとともに、貴官らの素直な気持ちを私も尊重するつもりだ。我々の新しい門出に」

そう言って敬礼すると、二人も敬礼した。そのタイミングでドッキングが完了したのだろう。ガタンとエアロックから音が響いた。帝国軍大将の亡命ともなれば、情報部でもそれなりの役職者が対応するはずだ。対応を間違わなければ分室のひとつも任せてもらえるだろう。同盟の実情を理解する意味でも、情報機関に所属しておきたい。

「とは言え、ちゃんと通じるだろうか......」

帝国では、密かに同盟語を学習してきた。ただ、実際に話したことはない。何から露見するか分からなかった以上、私は用心に用心を重ねて来た。やっと学習教材の音源以外の人物と同盟語を話せる機会が来たと思うと、それはそれで感慨深いものがあった。
 
 

 
後書き
という訳で、この時代の原作、最後のキーマンの登場です。ジークマイスター提督とミヒャールゼン提督に関しては、原作でも明確に触れられてないので、半分はオリジナルです。
ってか、登場人物の男性率がすごいな。ハーレム要素は書ききれないから想定にないんだけど、女性増やした方が人気出るんかな......。でも美人な艦長、副官とか出してもなあ。ヒロインいるんですよね。無理せず書き進めてみます!

※日間トップ頂いたので一章まで追加投稿しました。(20/7/31) 
ページ上へ戻る
ツイートする
 

全て感想を見る:感想一覧