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竜のもうひとつの瞳

作者:夜霧
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第七十四話

 開戦が間近に迫ったある日の夜、小十郎と二人で月を見ながら酒を飲んでいると、かすがが目の前に現れた。
いつものばっくり開いたボディラインがよく見えるコスチュームではなくて、きっちり着物を着ているのが何か悔しい。
だって眼福じゃないっすか。あんなの男臭い城に勤めてりゃ、そう見れるもんじゃないし。

 「かすが、どうしたの?」

 今回上杉はどちらの軍にも属さないと決めて、中立の立場を守っている。
だからそのかすががこんなところにいるってのは、どうにもおかしい話なわけで。

 「織田の協力者、ようやく洗い出しが終わった。魔王の妹を預かっている以上は、知っておく必要があると思ってな」

 「……ちょっと待ってくれる? 今、お市を保護してんのが家康さんなのよ。
私達にだって全く無関係な話じゃないし、場所移して話さない?」

 私達は揃って家康さんのところに行って、織田の協力者についての情報があると伝える。
それに眉を顰めて私達を部屋へと招いてくれた。

 部屋には私や小十郎、家康さんにホンダム、そして無理矢理叩き起こされた政宗様とお市がいる。

 「織田の残党の協力者なのだが、裏で手を引いているうちの一人に、西軍の小早川秀秋に仕える天海という僧が浮かび上がった。
少し気になって素性を調べてみたのだが、天海などという僧はどの宗派にも属しておらず、小早川に仕える前は何をしていたのかも定かではない。
小早川は近年稀に見る暗愚な国主だ。天海が裏で操っているという噂もある。小早川を利用して織田に手を貸すのも難しい話ではないのだろう」

 天海、ねぇ……。その小早川ってのの背後に、怪しい奴がいるわけかぁ。
……ん? 小早川秀秋? 何かどっかで聞いたような覚えが……。

 「それで、他には?」

 「西軍の総大将である石田三成の配下、今回の戦では軍師を務める大谷刑部という男が動いている」

 おいおい、また大物が出てきたな。石田の配下ってことは豊臣の人間なのね、その人も。

 「大谷刑部、か……」

 家康さんが大谷の名を聞いた途端、随分と渋い顔をしていた。

 「御存知なのですか?」

 「……ああ。豊臣に従っていた頃に会った事があるんだが、陰陽道に精通しているようで随分と不思議な術を使う男だった。
病に冒されているとかで自力で歩くことが困難だそうでな、いつも宙に浮かぶ輿に座って移動をしていた」

 宙に浮かぶ輿って。また不思議なもんが出てきたな。でもまぁ、ホンダムに比べりゃインパクト薄いか。

 「赤子の頭ほどの大きさの珠を複数操って攻撃を仕掛けて来るんだが……これがまた厄介なものでな。
予測の付かない攻撃で何人もの人間がやられたものだ」

 ふぅん……? 輿に乗って珠を操って……なんか陰陽師っていうよりも妖術師っていう方が合ってるような気がするけど。

 「西軍は総大将が機能していないから、事実上大谷と毛利が動かしていると言っても過言ではない。
互いの間には何か密約があるらしいが、その内容は定かではない……が、毛利も一枚噛んでいる可能性は否定出来ない」

 かすがの報告を聞いていると、まだ不確定要素が大きいような気がする。
っていうか、総大将が動いてないってのは佐助からも聞いてたけど、やっぱりそうなんだ。
影の総大将は大谷吉継か。なるほど、そういう人間が絡んでるともなれば全国的に人を襲わせることも出来るわね。

 「……調べられたのはそこまでで、具体的な中身は分からないに等しい。
調べようと動いてはいるが、余程極秘事項なのか、どうにも身動きが取れずにいる。
織田の動向を探って、今回の戦に参加しない武将達に呼びかけ、どうにか魔王復活を阻止するべく動いてはいるが……
現状でどの程度準備が整っているのかの把握が出来ない」

 ……ってことは、もう準備万端でいつでも魔王を呼び出せるようになってるかもしれないってこと?
豊臣がお市を攫おうとしているってのも、ひょっとしたら準備が整ったからなのかも……。

 「西軍の動きはどうにも不可解だ。東軍のように絆を重んじているわけではないから、仲間同士の連帯感も無ければ信頼関係も無い。
それに、策略によって貶められたところもあるようだ」

 「策略?」

 「詳しくは分からないが、徳川の仕業に見せかけて戦を起こし、西軍に引き入れた、ということもあると聞く」

 その言葉に家康さんが眉間に皺を寄せている。ホンダムもなんだか機嫌が悪そうだ。
そりゃまぁ、やってもいないのに自分らがやったように見せかけられりゃ、機嫌も悪くなるわ。

 「……雑賀衆からの情報は?」

 「それが、雑賀衆の姿がここ数日見当たらないのだ。西軍に組したとは聞いたが、大阪城にいる気配も無い」

 それは怪しいな……これは、何かあったと考えた方が良さそうだ。
開戦まではあんまり時間が無いけど、まだ間はある。重力の力を使って移動時間を短縮すれば、どうにかいけるか。

 「政宗様、開戦までには戻ってくるので、しばらく離れる許可を」

 政宗様はしばらく考えた後、諦めたように溜息を吐く。

 「……OK、必ず開戦までには帰って来いよ。景継、小十郎を貸してやるから連れて行け」

 「政宗様!?」

 これには流石の小十郎も驚いてる。
そりゃ、小十郎はこれから開戦の準備を進めなきゃならないわけだし、こんなところで離れるわけにはいかない。
貸してくれるってんなら有難いけど。

 「そいつは俺の妻にしたい女だ。きっちり守れよ、小十郎」

 「しかし」

 「さっさと調査を終えて戻ってくれば良いだけの話だ」

 聞く耳持たない、そう言いたげな政宗様に、小十郎も引き下がるしかない。
てか、説得させてる時間が惜しいから早々に礼を述べて小十郎を引っ張っていく。

 着替えを済ませて荷物を纏め、庭へと飛び出す。

 「私も行く。少しでも情報が欲しいからな」

 「ありがと! あ、空飛んでくけど大丈夫?」

 「ああ。飛行忍具を使っているからな。……差し当たって何処へ行く」

 「雑賀衆のアジトに行きたい。ひょっとしたら戻って来てるかもしれないし、何か手がかりがあるかも」

 分かった、と言ってかすがが素早く上空へと舞い上がる。
ハングライダーみたいなものを使って飛んでいるのを見て、私は思わず口笛を吹いてしまった。

 「アレいいなぁ……コントロールが楽そう」

 私の婆娑羅の力と併用して使えば、負担が少なくて済むかもしれない。まぁ、今は無いから仕方が無いけど。

 小十郎の腰に手を回して、地面を軽く蹴る。かすがの後を追うようにして私達も空を飛んだ。

 開戦まであと四日、それまでには戻らなければならない。少しでも手がかりを得て、阻止出来るのならば阻止しないと。
何となくだけどこれがラストチャンスのような気がするし。

 ……しかし、どうでもいいけど本当腰が細いな。男の癖にくびれがあるってどうなのよ。

 「畜生、ムカつくな……」

 軽く舌打ちをして腰を触る私に、小十郎がびくりと身体を震わせて恐る恐るといった様子で私の顔色を窺ってくる。

 「あ、姉上?」

 「……男のくせに胸はあるわ、お尻は張ってるわ、腰は細いわ、くびれはあるわ……許せん!」

 「ちょ……まっ、や、やめっ……」

 空の上で抵抗出来ないのを良い事に、かなりのセクハラを働いてやりました♪

 悔しいなぁ~……何で小十郎にこんな条件が揃ってて、私にはないのよ。
スットントンでお尻も小さいし張りもあんまりないし……あーもう!! 自分と比較したら余計に腹立ってきた!!
涙目になって許しを請う小十郎を完全に無視して、あのけしからん尻を鷲掴みにしてやる。
変な悲鳴を上げてたけど、雑賀衆のアジトまでの道のりは長い。覚悟しとけよ? お姉ちゃんを怒らせた罪は重い!

 ちなみにかすがにはかなり白い目で見られたけど、そんなん知りません。
こんなメリハリのある身体をしてる小十郎が全て悪いのよ。 
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