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戦国異伝供書

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第九十七話 井上一族その四

「そう考えておる」
「ではそこで止まり」
「後は、ですな」
「西国探題となれば」
「それでよしですな」
「そうじゃ」
 まさにというのだ。
「それでよい」
「左様ですか、では」
「まずは備前まで、ですな」
「あの国まで勢力を拡げますか」
「それを目指しますな」
「そうなってこそ大内家にも尼子家にも対することが出来る」  
 そうなるというのだ。
「だからな」
「それで、ですな」
「これよりことを進めていきますな」
「その様にしますな」
「左様、では尼子家への備えをしつつな」
 そしてというのだ。
「東に向かうぞ」
「わかり申した」
 家臣達も応えた、そうしてだった。
 毛利家は安芸だけでなく東にも勢力を拡大していった、お家騒動と元就の策により力を弱めた尼子家は山名家が治める因幡には勢力を拡大出来たが。
 そこからは無理でだ、備後等に勢力を拡大する毛利家に対することは出来ず元就は勢力を徐々に拡大していった。
 そうして十年以上の歳月をかけて備前まで手に入れ村上水軍も味方につけた、だがその間ずっとだった。
 大内家は動かず遂にだった。
「そうか、遂にか」
「はい、陶殿がです」
 部屋に一人いる元就に声が話す。
「どうやらです」
「動かぬ大内殿に業を煮やしてじゃな」
「しきりに直訴を繰り返しておられて」
「十年の間よく耐えたものじゃ」
 元就はこうも言った。
「実にな」
「左様ですな」
「あの血気に逸る陶殿がな」
「はい、しかしです」
「遂にじゃな」
「その陶殿がです」
「大内殿に直訴をされてじゃな」
 そしてというのだ。
「尼子家を討つべきと」
「言われています」
「そうじゃな、しかし」
「大内殿はです」
 肝心の義隆、彼はというと。
「動かれません」
「そうであるな」
「そうです、そして」
 そのうえでというのだ。
「家の中で、です」
「文治を重んじる家臣の方々とじゃな」
「陶殿は対立されて」
 そうなっていてというのだ。
「いよいよです」
「危うくなっておるか」
「はい」
 まさにというのだ。
「そうなっています、ですが大内殿は」
「動かれぬか」
「山口においてです」
「都落ちされた公卿の方々と遊ばれてじゃな」
「そして文治にです」
 それにというのだ。
「励んでおられます」
「そのことはよいな」
 政に励むことはとだ、元就は述べた。
「政に励まれていることは」
「それでもですな」
「武を避けておられる」
「そのことは、ですな」
「危うい」
 やはりこのことが問題だというのだ。 
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