竜のもうひとつの瞳
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第六十三話
軍神に小隊を預けられた慶次と命の恩人とを連れて、本能寺跡へと向かっている。
いろいろと話をしていくうちに分かったんだけど、私の命の恩人こと立花宗茂さんは、大友家の家臣らしい。
まだ年端もいかないうちに当主になってしまった大友宗麟はザビー教に狂ってるらしくて、
このままザビー教にのめり込んでいては御家の一大事と横っ面引っ叩いて島流しにされたんだとか。
いや~、漢ですね。うちの小十郎なら横っ面叩く前に刀向けるけど。
いやいや、そんなことはどうでもいい。っていうか、そんな悪影響になるようなこと言っちゃ駄目だ。
「これからのことを考えて、とりあえずはと京の町に足を伸ばしたのですが……そこでたまたま上杉殿と出会いましてな。
酒などを酌み交わすうちにすっかり気が合って宿に招かれたのです」
「へぇ~、ホイホイ着いて行って食べられなくて良かったですね」
そんなことをさらりと言えば、その場にいた全員が顔を引き攣らせて私を見てくる。
上杉謙信って史実じゃ確か男色家じゃなかったっけ? それって養子の話だったっけ?
てか、どっちにしろBASARAでもその流れ汲んでたら、今頃立花さんの貞操が危なかったかもしれない。
アーッな世界に御招待だったかもね。
いや待て、それ以前にあの軍神の性別がいま一つよく分からないから、そっちの世界に御招待にはならないかも。
寧ろ、立花さん的には美味しい展開になっていたかもしれないしね。
まぁ、軍神の性別は少し置いといてだ。
いくらBASARAの世界で現代チックになっているとはいえ、ここが戦国時代であることは変わりない。
つまり何が言いたいのかというと、現代とは道徳観念が違うということ。
現代なら異性愛者以外は異常者みたいな目で見られるけどもさ、戦国時代である程度の階級になると
バイセクシャルが普通だから、男同士で絡んでても何ら不思議はないわけで。
特に主と身体の関係を持つってのは、家臣にしてみりゃ出世のチャンスを得られるわけだし、
それだけ信頼されてるってことだから寧ろ喜ばしい限りなんだけど……ちなみに私は嫌だ。
ついでに小十郎もそれは嫌がった。
つか、小十郎も政宗様も、そういう関係でもないのにどうしてあんなにべったりくっ付いてられるのかしらね。
お互い普通に恋人くらいのパーソナルスペースに踏み込んでるしさぁ。
小十郎は神職の出のせいか完全に異性愛者だし、政宗様は戦馬鹿だからあんまり色事には興味が無いし。
ある意味では寵愛されているとも言えるんだけど、身体の関係がないってのは不思議なもんでさ。
プラトニックに互いに愛し合ってるのか、って小十郎に聞いたら拳骨貰って説教されました。
珍しく私相手にマジ切れして怖かったこと怖かったこと。
ここで余計なことを言わなきゃ良かったんだけど、そんだけ怒るってことは図星なんじゃないの、
って言ったらあの子極殺入って刀向けてきたからね。そういうのは嫌みたい。
「ちょ、小夜さん! そんなこと謙信やらないよ!」
さらりと言ってやったら慌てて慶次が否定してきたけど、私の勢いは止まりません。
「え~……っていうか、軍神ってそもそも性別どっちなのよ。男だか女だかはっきりしないし……慶次、知らない?」
知ってるわけ無いか、なんて思って聞いたんだけども慶次はかなり気まずそうな顔をして目を私から逸らしている。
「……知ってるけど禁句だから言えない」
禁句って何のこっちゃ。つか、どうしてそんな禁句な話を慶次が知ってるわけ。
「もしかして、押し倒したりとか」
「してない!! 一緒に風呂に入ったから知ってるんだよ!!」
風呂、その言葉に上杉の小隊がどよめいた。しまったとばかりに慶次が口を塞ぐが、すでに後の祭り。
一体どういうことなのかと、自称無敵こと直江兼続を始めとした小隊が詰め寄っている。
「……いや、ほら、上杉に温泉があるだろ? そこに入ろうって誘われて……」
「食べられた?」
「食われてない!! ただ二人で酒を飲みながら話をしただけだよ!!」
ほへ~、どういう理由でかは知らないけど性別不明のそんな人と風呂に入れるだなんて、慶次って結構侮れないわね……。
というか、それってお誘いを受けたと解釈して良いのか、それとも男として魅力を全く感じてないのか、一体どっちなのか。
まぁ、どちらにせよ軍神が女だった場合、慶次がチャンスを逃したのは確かだからこの際何も言うまい。
言ってやると可哀想になるし。
しかし温泉か~……いいなぁ、温泉入りたいなぁ~……。
ここ最近、風呂なんて入ってないし、身体洗うって言ったら専ら川だったから、いい加減しっかりお風呂に入りたいよ。
「温泉と言えば、景継様もよく入ってましたよね。小十郎様連れて」
何気なく言った良直の言葉に、今度は慶次が詰め寄ってくる。
「ちょ、どういうこと!? 竜の右目と二人で素っ裸で風呂入ったの!?」
ちょっと待て、どうしてそれで慶次が詰め寄ってくるんだっての。大体何を考えてるんだね、君は。
「……あのさ、小十郎の身体見て欲情するわけないでしょ。向こうだってこっちの裸見たって全然意識してなかったし」
考えてみれば、惚れてるってんならそんな相手と一緒に風呂に入って欲情しないわけがない。
まぁ、私の身体見ても堂々と全部見せんなって顔はしてたけどもさ、欲情してるとか一切無かったし。
はっきり言って恋する男の目ではなかったわよねぇ……今になって冷静に思い返してみれば。
だから告げられるまで気付かなかった、っていうのはあると思うけど。
なんて考えてると、今度はお供四人も私に詰め寄ってくる。
「ってことは、こ、小十郎様は景継様の、はっ、裸を見たってことっすか!?」
「景継様の裸を嘗め回すように見てたとか、ないっすか!?」
「つか、お互い何もつけずに風呂入ってたんですか!?」
話を振った良直もそこまでは知らなかったと動揺してるし。
てか、何で小十郎が私の裸を嘗め回すようにして見なきゃならないのよ。
そんなこと小十郎の耳に入ったら、間違いなく極殺で追い掛け回されるよ?
「……あのね? 小十郎は弟だよ? アンタらじゃあるまいし、そんなことするわけないじゃん」
つか、寧ろそういうことは私がやってましたけどね。
いい身体してんじゃないって言って嘗め回すように見てやると、顔真っ赤にして身体を見られないように
丸くなってガードするのが面白くって面白くって。
「まぁ、あっちは前くらいは隠してたけど、それを剥ぎ取ろうとして小十郎追い回すのが楽しくてね~。
どのくらい成長したか、お姉ちゃんに見せてごらん?
なんて言って取ろうとすると、涙目になって逃げるからさぁ~、笑えること笑えること」
風呂以外でもいきなり背後から気配消して近寄って、あの無駄に張りのある尻を鷲掴みにしてやったりとかして
小十郎の反応を楽しんでるんだけど、あんまり言い過ぎると大事になりそうだから黙ってる。
ってか、コレくらい普通に姉弟の戯れじゃないですか。ねぇ? 弟はからかって遊ぶものでしょ? え、違う?
「……それ、ただの痴女じゃないっすか」
孫兵衛ったら~、そんなこと言って減給だからね、この野郎っ☆
「てか、何で小十郎様と風呂入ってんですか。女風呂行けばいいでしょ、女風呂に」
「男風呂の方が広いしさぁ、それに下手に女風呂行ってんの見られて男じゃないってバレても困るでしょ?
小十郎がいれば一緒に入ろうとする奴いないしさ。兄弟で入ってるならおかしいこと何も無いし、虫除けになってもらってたのよ」
何だか納得したんだかしてないんだが、五人が揃って引いていく。
俺も小夜さんと風呂に入りたい、と言った慶次の言葉に同意していた四人も纏めて重力で軽く潰しておきました。
小十郎だから一緒に入るんであって、誰がお前らなんかと入るかってんだ。
何となくギスギスした空気のまま、本能寺跡へと到着する。
夕暮れ時でカラスが夜が来ることを告げており、何となく辺りは戦の余韻を残しているのか煙たいような気がする。
史実ならば、ここで織田信長が討たれたんだけど……
「ここで魔王が討たれたんだ」
やっぱりここで魔王が討たれたんだ。ってことは史実通りの展開、ってことなのかね。
「第六天魔王がですか? 魔王は、安土城で討たれたと聞きましたが」
立花さんの言葉に慶次が眉を顰めていた。私もまたそれには眉を顰めている。
「うん。そうなんだけど、命からがら魔王が脱出を試みてね。本能寺まで逃げてきたんだよ。
明智の謀反で既に本能寺は焼け跡になっていてさ、身を隠す場所も無かったからすぐに見つかってね。
……それでも強い相手だったよ。幸村も伊達男も手負いの魔王相手に辛勝だったからね」
明智の謀反? 本能寺の変が起こったってこと? にしては、少し変だ。
「明智が謀反を起こしたって……何で信長が到着する前に焼け跡になってるのよ」
「安土城に入る前に魔王は本能寺に詰めている、っていう偽の情報が流れたんだ。それに明智が踊らされて本能寺に攻撃を仕掛けたわけだ。
俺らも踊らされたわけだけど、結局あの場は個人的に恨みがあるからと、竜の右目が明智を倒す役目を買って出てくれてね。
安土城へと急いだのさ」
「……個人的な恨み、ね」
個人的な恨みに心当たりのある私は思わず渋い顔をしてしまった。
まぁ……アイツだけは叩き殺したいでしょうよ。私だって目の前に現れたら切り殺したいもん。
小十郎にしてみれば、危うく貞操を奪われそうになった相手なわけだしね。
しかもかなりアブノーマルな方法で。
「なるほど……だから連中、信長が死んだこの場所で儀式を行おうと」
「それに、豊臣が織田の残党狩りをやったもんだから安土城はここよりも酷い有様になってる。
とてもじゃないけど、人が踏み入れるほど原型を留めちゃいないよ」
なるほどねぇ……。織田の残党狩りをやることで豊臣は力を示した、そういうわけかな?
とりあえず、調査をしてみないと何とも言えない。私達は揃って本能寺へと踏み込んで行った。
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