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竜のもうひとつの瞳

作者:夜霧
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第十二章~そうだ、本能寺に行こう~
  第六十一話

 甲斐を離れてやって来たのは京の町。
本能寺に入る前に一回くらいはまともなところで寝て休もうってことで、やってきたわけだけど……

 実を言うと、この時点でお供の四人がボロボロです。

 「ちょっと~、何でアンタ達がそんなボロボロのヨレヨレなのよ。しゃんとしなよ、しゃんと」

 「何であんな生活してて景継様は平気なんすか!!」

 涙目で、しかも声を合わせてそんなことを言う四人に、私はこめかみを押さえて溜息を吐いた。

 奥州から京に辿り着くまでの間、宿には泊まらず野宿を繰り返した。
そして懐かしい雑草を食む生活を繰り返し、完全に自給自足を繰り返してここまで来たわけだ。
一応小十郎がいくらか持たせてくれたけど、数日宿に泊まればなくなっちゃうくらいの金額しか無かったんだもん。
私もいくらかは持って出たけど、今回は目的があっての旅だからさ、そんな豪華に振舞うつもりは無かったからこれでいいと思ってたのよね。

 いや~、これも修行の一環だとか言って、肉が食いたけりゃ自分で獲って来いと言ったわけだけどもさ、
山の中で肉を求めて獲物を追い回す四人が小十郎よりも怖かったこと怖かったこと。
人間追い詰められるとなりふり構わなくなるっていうけど、全く本当だね。

 「一年あんな生活してれば慣れるわよ、いい加減。それにアンタ達もいろいろと鍛えられたんじゃないの?」

 鍛えられたんだからいいじゃないの、そう言って宥めてみるけれど四人は引き下がらない。

 「確かに鍛えられたっすけど、人として大事なものを失くしたような気がします!!」

 「これならまだ遠征中の野宿の方がマシっす!!」

 「まともなもんが食いたいっす!!」

 「景継様は鬼っす!! 小十郎様軽く超えてるっすよ!!」

 おおっと、良直。小十郎を超えてるとか夏のボーナスは大幅カットだわね。ご愁傷様。

 こんな調子なもんだから、京にやって来た、ってのはある。
大盤振る舞いは出来ないけど、ここまで来たんだし一泊くらいなら安い宿に泊まっても良いかもね。
折角お金使わないでここまで来たんだからさ。

 「あれ? 小夜さん?」

 さて、何処に泊まろうかな、なんて思っているところで誰かに呼ばれて何気なく振り向いた。
するとそこには慶次がいて、驚いた顔をして私を見ている。

 「あれ、慶次? どうしたの……って、もしかしてこんなところまで飛ばされたとか?」

 越後でとにかく何処かに向かわせてやろうと力任せに全力でぶっ飛ばしたんだけど、
まさか京にまで飛んでっちゃったとか想定してなかったもんだから、ついついそんなことを聞いてみたわけ。
全力でぶっ飛ばしてもせいぜい隣国に墜落するくらいじゃないのかと思ってたからさ。
すると苦笑してそうじゃないよと手を振っている。

 「京で花火大会があるっていうから、上杉でそれを見に来たのさ。今は場所取りで動いてるんだよ」

 花火大会ぃ? この関ヶ原の戦いが勃発しそうなタイミングで花見見物っすか。

 「へぇ~、花火大会ねぇ~。つか、この御時勢に花火見物とは流石軍神、格が違うわ」

 半ば嫌味でそんなことを言ってやったんだけど、慶次は苦笑するばかりで反論しようとはしない。
この様子を見れば案外同じことを考えてるのかもしれないね。口に出さないだけで。

 「甲斐の虎と戦えないんなら、興味が無いんだってさ。それに越後に攻めてこようって動きも今のところないし」

 「この隙を狙って攻めてくるんじゃない? 例えば奥州とか」

 「どうかねぇ……奥州も内乱が酷いっていうから、当面は動けないと思うけどね。
今、独眼竜が躍起になって奥州統べ直してるっていうしさ」

 慶次の情報に私は目を細めていた。独眼竜が、ってことはやっぱり政宗様の目が覚めたんだ。

 この情報を聞いてどういうことかと詰め寄る四人に事情を話している慶次を横目で見つつ、
現状ではまだ政宗様のストーリーの序盤辺りであることを予測する。

 確か甲斐に攻め込んで、幸村君を叩き切ろうとしたところで小十郎が止めに入るのよね。
そこで徳川からの同盟を受けて正式に東軍に組することになる、と。
それまでの間にあちこち戦を仕掛けてフラグを立てていくわけだけど……こうなると、越後には行かない方向になるのかしら。

 「ところで、皆は何しに来たのさ。花火見物、ってわけじゃなさそうだけど」

 そんなことを考えているところで、慶次が私に尋ねてくる。
別に慶次相手なら喋っちゃってもいいかと、旅の目的を話すことにした。

 「織田の残党が不穏な動きを見せてるって話、知ってる?」

 「……織田が?」

 私の話に表情を引き締めた慶次は、詳しくどういうことかと聞いてくる。
急に真面目な顔をした慶次に戸惑いはしたものの、とりあえず話を続けることにした。

 「最近西国と関東で行方不明事件が多発してるのは知ってるかな」

 「ああ。村全体から人だけが消えるっていう奇妙な事件だろ?
一説じゃ、黒い手が人間だけを飲み込んでいったって聞くけど、どうも眉唾物だね」

 流石は風来坊、そこまで知ってますか。
まぁ、聞いただけじゃそうなんだけど、目にしている立場としては嘘じゃないんだな、これが。

 「その行方不明事件、第六天魔王を蘇らせようと織田が儀式の為に村人を攫ってるって話なのよ。
ここに来る前に立ち寄った甲斐でもそんな事件があって、躑躅ヶ崎館が黒い手に襲われて被害を受けた。
どうもこの黒い手ってのが市姫の婆娑羅技っぽくてね……連中、本能寺をねぐらにしてるっていうから、
奥州でそんな事件が出てくる前にと調査に来たわけ」

 「……その話、本当かい?」

 「確証はないから推論の域を出ないけど、かなり可能性は高いわね」

 慶次は眉を顰めて腕を組み、何事かを考えているようでもあった。
いつもおちゃらけた表情ばかりを見せている慶次がこんな顔をするなんて、ちょっと意外。
慶次もこういう真面目な顔をすれば、魅力がぐぐっと上がるのに。
……いや、それは利家さんに服を着ろと言うのと同じくらいの無理難題か。

 「小夜さん、その話謙信にも聞かせたい。一緒に来てくれるかい?」

 いや、来てくれるかいって……少し前に殺されかかったの、知ってるっしょ?
それで行く行く、って言う方がおかしいでしょうが。大体、私なんか肩貫かれてるわけなんだし。
この怪我だって最近になってようやく塞がったのよ?
もっと言うと、まだ何となく違和感があっておかしいくらいだってのに。

 「あ……大丈夫だって。今回は事情が違うから、謙信だって襲い掛かったりしないからさぁ。
……というよりも、第六天魔王が本当に復活されると俺達も困る」

 流石に私や四人が嫌そうな顔をしているので気付いたのか、慶次が苦笑してそんなことを言う。
でもまぁ、利害関係が一致してるって言うのなら……それに、そこまで言うのならついて行っても……。

 「……ってなわけだから、アンタ達刀なんか抜かないように。小十郎だって負けるんだからさ、下手なことしないでよ?」

 そう言ってやると、四人は少しばかり釈然としない顔をして従ってくれた。
こいつら、大丈夫かしら。何かこのままだと軍神の顔見た瞬間に切りかかりに行きそうだよ。
ならばここは、絶対に黙らせる方法を取っておきますかね。

 「……もし勝手なことしたら、減給だからね」

 「ぜ、絶対しないっす!!」

 声を揃えて言った四人に、私は満足そうに頷いてみせた。
雇われの身分で減給を口にされると、従わないわけにはいかないのよねぇ~。
こいつらの直属の上司は小十郎だから私に直接の権限はないわけだけどさ、
小十郎が基本的に私には逆らえないってのが分かってるから、大人しくなってくれるわけだ。

 「よし、じゃあ慶次。連れてって」

 「了解!」

 慶次に案内されるままに私達は軍神がいるという宿に案内された。

 ……これで上杉の連中に襲い掛かられたら、慶次の服ひん剥いて、慶次も服もどっかに売っ払ってやる。

 ここは京の町、慶次くらいの甘いマスクなら買ってくれるところもあるでしょう。
例えば、男を相手にする商売のとことかね! 
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