八条荘はヒロインが多くてカオス過ぎる
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第二百七十七話 期末テストを前にしてその七
「あの様な人の方がです」
「よかったりしますか」
「はい、私はあの人の様には出来ないです」
長谷川平蔵、通称鬼平というその人の様にはというのだ。時代劇でだけじゃなくて実際に清濁併せ呑む人だったらしい。
「ですから松平定信公には嫌われていました」
「出来る人でも」
「元々田沼派でしたね」
この人に見い出されて出て来た人らしい。
「それで、でしたね」
「あの人にも嫌われていました」
松平定信、杓子定規で有名なこの人にだ。
「そうなっていました」
「まあ確かに合いそうにないですね」
「そうですね」
「しかし」
「しかし?」
「私の理想の人の一人です」
「あの清濁併せ呑むところは」
僕もこう言った。
「凄いですか」
「ああなるにはです」
「やっぱり人生経験もですね」
「相当必要です」
そうだというのだ。
「まことに」
「そうですか」
「はい、ただ」
「中々ですか」
「あの様にはです」
その長谷川平蔵の様にはというのだ。
「出来ないです、もうあの人よりも遥かに長く生きていますが」
「それでもですか」
「辿り着けていません」
「畑中さんは立派な人だと思いますが」
「とてもです」
畑中さんの返事は首を横に振るものだった、その声で僕に話してくれた。
「あの人には及びません」
「畑中さんは畑中さんでは」
「確かにそうですが」
「目標とする人にはですか」
「及ばないです、そして及ばないとです」
その様にというのだ。
「思うことがです」
「そう思うことがですか」
「かえっていいかも知れないですね」
「ああ、及ばないと思うから」
「人は辿り着こうと努力するので」
そうするからだというのだ。
「ですから」
「それで、ですか」
「よいともです」
「お考えですか」
「はい、人は尊敬する人は高く持って」
「その人を目指して努力する」
「そして辿り着けないと思って」
畑中さんが今言う様にだ。
「努力し続けるからこそです」
「成長していきますか」
「そう考えます」
「そうした考えもありますね」
「そして高いところにいる人は決して自分を尊敬しろなどとは言いません」
「普通の人は言わないですよね」
冗談で言うことはあっても本気でもだ。
「それこそそんなこと言う人は」
「尊敬されないですね」
「逆ですね」
そんなことを他人に言う様な馬鹿な人はだ。
「軽蔑されますね」
「確実にそうなりますね」
「そうですよね」
「私もそうした人は見てきましたが」
「誰からも尊敬されなかったですね」
「誰からも軽蔑されていました」
尊敬されるどころかだ。
「そして忌み嫌われていました」
「自分を尊敬しろって言う位尊大なら」
「かえって自分を落としていきます」
そうなっていくというのだ。
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