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曇天に哭く修羅

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第三部
  主義主張 6

 
前書き
_〆(。。) 

 
新たな能力に目覚めた《立華紫闇》に《九月院瞬崩》は何ら対抗策が浮かばない。


(【魔晄神氣/セカンドブレイク】さえ使えたら逆転の目が有るのに……)


今の瞬崩は【反逆者の灼炎/レッド・リベリオン】を使えなかった。

どういうことなのか。

それは先程の話で紫闇に明かしていない反逆者の灼炎の情報に有る。

24時間で8分しか使えないという以外にも、もう一つ弱点が存在したのだ。


(少しでもダメージを受けたら8分しかない制限時間が更に減る。今のぼくが魔晄神氣を発動すれば死んでしまう)


だから紫闇にやられている。

しかしそれ以上に不愉快なこと。


「何で殺さないッ!? 直ぐに殺せるだろうッ! 侮辱しているのかッッ!!」


瞬崩には解っていた。

紫闇は手を抜いている。


「本気で戦る価値が無い相手だとでも思っているのかッ!? ふざけるなッ!」

「殺ろうと思えば出来る。だがしない。もう一人の俺なら今でもそうしてる」


紫闇の足が瞬崩の胴を蹴った。

彼の動きが一瞬止まる。


「俺はお前を殺さない。敢えてこういうやり方を通させてもらう。俺はどうしても凜音からお前を奪いたくないんだよ」


瞬崩の鼻に拳がめり込む。

190㎝近い体が宙を舞う。

背中から地面に落ちる。


「ふっざけるなぁ立華紫闇ッッ!!」


頭に血が昇った瞬崩は直ぐに立ち上がり槍を突き出すも、命中した途端に【融解】を付与された血液で槍が溶かされてしまう。

カウンターの顔面パンチ。

瞬崩は張り子の虎が首を振るように頭部が後ろの方へ飛ぶように跳ね上がる。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


今更ながら紫闇は理解できた。


(俺には明確な方向性が無かったけど、もう一人の俺にはそれが有ったんだろうな)


もう一人の彼は[殺人拳]

闘争と殺傷を楽しむ。

紫闇はそれを否定しない。

しかし自分は違う。


「俺は憧れの大英雄《朱衝義人(あかつきよしと)》を目指して同じ[活人拳]の道を歩む」


瞬崩は紫闇のことを、自分と同じく強さと力を求めて他の全てを捨ててでも悪鬼羅刹となり、修羅の道を往く者だと思っていた。

しかし違ったのだ。

彼は輝く人生を歩む星の(もと)に生まれた人間であり、自分とは違う。

瞬崩の心が折れかけている。


(これまで発狂しそうな苦痛や漏らす程の恐怖に耐えてきた。その末に今が在る。なのに何で屈してしまいそうに……)


彼は紫闇に勝ちたかった。

それは何故だろうか。

何の為に勝ちたかった?

どうして地獄を乗り越えられた?


『ほどほどにしときなさい』


そうだ。

治療中の母に胸を張るため。


「何でこんな大事なことを……」


忘れていたのだろう。

瞬崩が《佐々木青獅》だった頃、《流永/りゅうえい》に弟子入りすると【死視刎神】で肉体の成長と引き換えに激痛を味わった。

そこからは只管に修練の日々。


『死にたくなければ余計なことを考えず、生き延びることだけ考えろ』


瞬崩は流永の言葉に従う。

それが正しいと思ったから。

少なくともその時は正しかった。

だが生存することのみを考え続けたせいで母への想いを忘れてしまったのだ。

日々の修業はそれほどの地獄。

そうしなければ死んでいたほどに。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


立華(こいつ)の拳はぼくが忘れ、消し去ってしまったものを思い出させる)


しかしそれだけではない。

瞬崩が努力できた理由は母の為だけではなくもう一人の為でもある。


『初勝利おめでとう!』


凜音が居たから頑張れた。

子供の頃に父から家庭内暴力を受けて震えるしか出来なかった自分を庇ってくれた妹。

彼女の為に父へ逆らう。

包丁を振り回して追い出してやった。

それから二人の為に強くなろうとした青獅は数年後に魔晄が宿り魔術師となる。

離婚後の母は働き通しで痩せ細って病気になり、凜音も中学を出たら働くと言う。


(看護師の夢を諦めて家族の為に働くと言った凜音の顔は哀しかった。でもぼくが魔術師として活躍して、いっぱいお金を稼げば夢を諦めずに済むと思ったんだ)


母も働かせずに済むし莫大な治療費だって青獅が賄うことが出来る。

二人とも養ってみせると決めた彼は何度倒されても立ち上がれた。


(人との繋がりがもたらす力か)


瞬崩は転がって紫闇を見上げる。


「……立華(きみ)の言ったことが理解できた。ぼくは、前へ進む度に何かを捨ててたんだ……。お陰でぼくは空っぽな人間になっちゃってたよ……」


残ったのは努力した過去。


「積み重ねたものが土壇場で支えになるって言うけどありゃ嘘だね。努力は『過去』のことだから『現在(いま)』の自分を支えてくれない」


現在を支えるもの。

それは現在自分の周りに在るもの。


(ぼくがこいつに勝てる道理なんて無い。こいつは色んなものを背負って周りに色んなものが有り、色んな人が居る。プラスと言って良いような奴だ)


対する瞬崩はゼロ。

何より大切な二つを捨てたから。

空っぽで何も無い。

立ち上がる気にもなれなかった。


(この勝負、ぼくの負けだ)


瞬崩が降参しようと口を開く。


「おにいちゃんっ! 大丈夫!?」


妹の声。

フィールドには《佐々木凜音》と彼女を連れてきた《黒鋼焔》の姿が在った。
 
 

 
後書き
_〆(。。) 
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