魔法少女リリカルなのは~無限の可能性~
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第8章:拓かれる可能性
第252話「闇が示す光」
前書き
―――行かなくちゃ。私が私であるなら、止めないと
余談ですが、緋雪復活→優輝撃破までの間も他のメンバーはずっと戦闘中です。
倒すにしても、倒されないようにするにしても、時間は掛かるので。
「なっ………!?」
イリスは驚愕していた。
消滅させたはずの優香と光輝が生きていた事や、優輝が敗北した事に……ではなく。
優輝を支配していたはずの“闇”との繋がりが、不安定になった事に。
「シッ!」
「くっ……!」
驚愕による隙を、優奈は見逃さずに斬りつける。
しかし“闇”に阻まれ、祈梨の追撃は転移で躱された。
「あら、焦っているわね?どうしたのかしら?」
「っ……!」
「大方、司達が上手くやったんでしょうね。それも、貴女の想定を上回る形で」
「そうなのですか?」
創造魔法や理力による遠距離攻撃で牽制しつつ、優奈は言う。
その言葉に、祈梨も疑問に思ったのか尋ねてくる。
「おそらくはね。少し様子を見てみたけど、戦闘が終わっていたわ」
「よく言いますね……!その可能性を見越していたくせに……!」
「あら、じゃあ賭けに勝ったって所かしら?」
戦闘自体はイリスに余裕があるが、精神的には優奈の方が余裕があった。
その差が、さらに優奈を後押しする。
「侮っていたつもりはありませんでしたが……やはり、油断がありましたか」
「優輝を手に入れた事で、計画もほぼ完遂だったものね。……結果、余裕が生まれ、油断に繋がり、“可能性”を見落とした。まごう事無き貴女の失敗よ」
「……ですが、まだ修正できます」
その言葉と共に、イリスから殺気が溢れ出る。
「貴女達を突破し、再度“闇”を注げば済む話です」
「それをさせるとでも?」
「貴女達に止められるとでも?」
どちらも不敵に笑うが、余裕がないのは優奈達だ。
イリスは転移を無制限に使えるのに対し、優奈達は連続で使えない。
足止めにおいてその差は絶望的なまでに酷い。
逃げや強行突破などの手を取られれば、二人に追いつく術はない。
「祈梨!!」
「足止め、ですね!」
優奈の言葉と同時に、祈梨が仕掛ける。
だが、その全てを転移で躱され、司達の方へと向かっていく。
「ふっ!」
「甘いですよ」
優奈が転移で回り込むも、それも転移で躱される。
祈梨も転移で追いつくが、すぐに転移で引き離された。
「置き土産でも置いて行きましょうか……!」
「ッッ!!」
さらに、“闇”が放たれ、二人は足止めされる。
このままでは、後数秒もしない内に司達の元へ辿り着いてしまうだろう。
「ッ……!?」
「そうは、いかないってな……!」
「なっ……!?」
だが、そこへ割り込む者がいた。
上空から雨霰の如き気弾が降り注ぎ、イリスを足止めする。
そして、それを撃った張本人はイリスの前へと一瞬で移動してきた。
「間に合ったようね。帝」
「ああ。後は任せろってあの二人に言われたからな」
そう。上空で多数の神達と戦っていた帝だ。
既に半数以上は仕留めてきたのか、もうミエラとルフィナだけで十分となっていた。
そのため、こうして帝はイリスとの戦いに参戦してきたのだ。
「もう一人の想定外。忘れたとは言わせないわよ?」
「っ……!」
今度こそ、イリスは苦虫を噛み潰したような顔をする。
物理的な速度で言えば、この場では帝が一番速い。
転移を使おうと、それを上回る速度で動かれれば、突破出来ない。
「二人から三人に“領域”も増える。……これで、転移の制限も飽和するわ」
「………」
“領域”を主張する事で、イリスの力を弾く。
今までのように二人だけでは、転移が単発で使える程度しか抵抗出来ていなかった。
だが、帝が来た事で、連発とまでは行かないものの、転移が容易になった。
これで、足止めもよりやりやすくなる。
「ならば、倒すまで……!」
「やれるものなら……やってみろ!!」
無視する事は最早不可能と、イリスは断じる。
そうなると、次にやろうとするのは優奈達の打倒だ。
時間稼ぎを目的とする優奈達からすれば、そうなるだけで十分だった。
帝も加わった事で、戦況はより劣勢から覆していく。
「た、倒した……?」
一方、司達は。
司による浄化の極光により、優輝は戦闘不能になっていた。
辛うじて立っているが、それも念入りにバインドで拘束した結果だ。
抵抗らしい抵抗もなくなっていた。
「……でも、洗脳は解けていなさそうね」
椿の呟きに、解きかけていた警戒態勢を整える。
そう。未だに司達に向ける優輝の目は、冷たいままだ。
「それどころか、再び“闇”が湧きだしているよ」
「優奈の言った通り、外部からは解く事が出来ないって訳ね……」
緋雪が破壊し、司が浄化した。
それでも洗脳の原因たる“闇”は残っており、さらには未だに湧き出していた。
「“瞳”も小さくなってる……でも」
―――“破綻せよ、理よ”
緋雪が“瞳”を握り潰す。
しかし、“闇”は消え去らない。
「……核は、イリスが握ってると見るべきかな」
「なるほど。司が世界そのものの“領域”と接続したように、イリスも優輝と繋がりを持つ事で、洗脳を維持している訳ね。……本当、用意周到ね」
「じゃあ、どうすれば……」
司が困ったように呟く。
すると、何を思ったのか優香と光輝、そして緋雪が優輝に近づく。
「優輝……」
「優輝、聞こえる?」
語りかけるように、二人は呼びかける。
だが、優輝の返答は、創造魔法による攻撃だった。
「ッ……!」
「大丈夫」
「でも、雪ちゃん!」
咄嗟に葵がレイピアを生成して相殺する。
さらに無力化のために行動を起こそうとして……緋雪に制された。
「私が、受け止めるから」
「いや、緋雪だけじゃない。俺達も、親として受け止めて見せる」
「娘にだけ、無茶はさせないわ」
覚悟の決まったその言葉に、椿達はそれ以上何も言えなかった。
「……司、転移だけは絶対に阻止しなさい。他は、私達が抑えるわ」
「ここは、雪ちゃん達に任せるのが最善、だね」
「……そうだね」
家族だからこそ、響くものがあるかもしれない。
椿はそう判断し、だからこそ逃げられないように警戒する事にした。
「……でも、それでも……私達だって、優輝さんを想ってる。だから……!」
それでも、と奏が声を上げようとする。
直後、創造魔法の展開とそれを緋雪達が弾く音が響き渡る。
だが、弾ききれなかったのか、一つの剣が奏に向かって飛んでくる。
「っ……!」
「……本当、長年生きてると一部の視野が狭まるわね。……何を遠慮しているのかしら、私。そうよ、私達だって、優輝の事が大切。そこに家族かどうかなんて、関係ないわ」
しかし、それは奏が迎撃する前に、椿が割り込んで短刀で弾いた。
「優輝!!いつまでもイリスに良いように使われてるんじゃないわよ!!貴方は……!貴方は、そんな風に終わる人じゃないでしょう!?」
「か、かやちゃん!?」
そのまま、椿は言霊と共に優輝へと呼びかけた。
優輝への想いも込めたその言葉が、優輝の心を揺さぶる。
「奏の言う通りよ。私達だって、優輝を想ってる。……だったら、黙って三人を支援するだけじゃあ、気が済まないでしょ!?」
「―――」
椿の言葉に、葵だけでなく奏や司も言葉を失い、息を呑んだ。
同時に、“確かにその通りだ”と納得した。
「……優輝君」
再度、創造魔法が展開される。
今度は、緋雪達が迎撃する前に司が全て撃ち落とした。
「以前は、心を閉ざした私を助けるために、凄く無茶をしたよね。私は、まだその時の恩を返せてないと思ってる。……だから、私にその恩を返させて。親友として、貴方を想う一人として……。そのためにも、お願い……戻ってきて……!」
祈りの籠った言葉が、優輝へと届く。
天巫女の力が、優輝を覆う“闇”を僅かに祓う。
「優ちゃん。あたしは……あたしも、皆と同じように貴方を想ってるよ。いつも態度に出さないようにしてるけど……傍にいられれば、嬉しいしドキドキする。……だから、ね?また一緒にいるためにも……戻ってきてよ……!」
打って変わった葵の悲痛な言葉が響く。
真剣な時はあっても、葵が悲しみに満ちた言葉を発するのは今までなかった。
だからこそ、その言葉が優輝をさらに揺さぶる。
「……優輝さん。私は前世で、貴方の心臓に助けられた。その鼓動は今も私の中に残ってる。……だからこそ、絶対に諦めないわ。貴方が前世の時に、教えてくれたから……!」
かつて、奏は心臓病で人生を諦めていた。
それを立ち直らせたのが、当時の優輝だ。
そんな優輝と同じように、奏は優輝の事を決して諦めない。
恩人で、憧れたからこその言葉が、優輝に響く。
「……これだけ言われる程、お前は慕われているんだ。優輝」
「だというのに、何も応えないというのは、些か無粋じゃないかしら?」
二人の言葉への返答は、創造魔法だった。
だが、葵や奏が放ったレイピアや魔力弾が弾き飛ばす。
「俺達は、あまりお前や緋雪に親らしい事をしてやれなかった。だけど……いや、だからこそ!親として今ここでお前を止める!」
「いつも貴方は一人でも頑張ってた。……でも、いい加減周りを頼ってもいいのよ。だから、戻ってきなさい!」
続々と展開される創造魔法による武器群を、優香と光輝は撃ち落とす。
しかし、数が多く弾ききれない。
「……お兄ちゃん」
そこへ、緋雪の魔力弾が飛来し、残りの武器群を打ち砕く。
「っ、……―――」
そのまま、皆と同じように何かを言おうとして、言葉を詰まらせる。
何かを言おうとした。だが、今の優輝を目の前にして、頭が真っ白になった。
「お兄、ちゃん……お願い……戻ってきてよぉ……!」
辛うじて言葉に出来たのは、懇願の言葉だった。
涙が溢れ、それ以外の言葉を言えなかった。
「ッ――――――」
だけど、だからこそなのか。
冷たいままなはずの優輝の眼差しが、僅かに揺らいだ。
「―――させませんよっ!!」
その時、“闇”が空から圧し潰してきた。
すぐさま司の天巫女の力と、椿の霊術を基点に、警戒していた者達が迎え撃つ。
「っ……イリス……!」
「このっ……!彼を元になんて戻させませんよ……!それ以上の“想定外”は、もう起こさせません!疾く、呑まれなさい……!」
「させねぇっ!!」
優奈達を撒いてきたためか、イリスは焦ったようにそう叫ぶ。
そんなイリスに、帝が追いついてきて飛び蹴りを繰り出した。
「くっ……!他人の力ばかり使う人間が……!邪魔を……!」
「洗脳した奴を都合よく扱ってるてめぇが言えた事かよ!」
途轍もない速度で帝はイリスを攻め立てる。
しかし、“闇”の防御が突破しきれないのか、攻撃は通らない。
「ッ!」
「私達も忘れてもらっては困るわね」
その“闇”を、極光が貫く。
すぐさま飛び退いたイリスの背後を、転移で優奈が取った。
だが、直後の攻撃は同じく転移で躱される。
「そこだ!」
「いい加減、貴方の速度にも慣れました!」
「なっ……!?」
即座に帝が転移先を見つけ、そこへ気弾を放つ。
だが、それは“闇”で弾かれ、同時に帝は“闇”に包まれた。
「っ、ぉおおおおおおお………!?」
「耐えはするでしょうが……そこでじっとしておきなさい。……ッ!」
「くっ……!」
優奈や祈梨が攻め立てるも、イリスは司達に干渉してくる。
圧し潰してくる“闇”を、さらに後押ししてくる。
「邪魔です!!」
「ぐっ……!?」
そして、優奈と祈梨も引き剥がされる。
まだ戦えはするが、イリスの進行を阻止するには間に合わない。
「っ、緋雪!優輝は任せるぞ!」
「私達で止めるわ!」
圧し潰してくる“闇”で、椿達は手一杯だ。
ならば、イリスを足止め出来るのは優輝の傍にいる優香と光輝だけだ。
後を緋雪に託し、二人はイリスへと斬りかかる。
「邪魔だと言っているでしょう!?」
「ッ……!一点!」
「突破!!」
放たれる“闇”に二人は真正面から立ち向かう。
砲撃魔法と魔力弾に合わせ、魔力を纏わせたデバイスで突貫する。
「がぁっ!?」
「っ、う……!?」
少しは拮抗した。……が、相手はイリス。
すぐに吹き飛ばされてしまう。
「お兄ちゃん!!」
イリスを阻む者がいなくなり、緋雪は思わず優輝に抱き着く。
そこへ、イリスが襲い掛かり―――
「ぉおおおおおおおおおおおおおっ!!!」
「ッ……!?」
―――横合いから神夜が突っ込み、イリスを吹き飛ばした。
「くっ……正義感に溺れているだけの、人間が……!」
「うる、さい……っ!ぉぉおおおおおおおお………!」
今の神夜は、転生特典の力を全て失っている状態だ。
魔力はある程度残っているとはいえ、その力は弱い。
それでも、イリスを無理矢理押し留めた。
「ぉおおっ!!」
「はぁあああっ!!」
そして、そのおかげで首の皮一枚繋がっていく。
優香と光輝がすぐに復帰して食らいつく。
「ッ……!」
二人の視線が、緋雪と優輝に向けられる。
それを受けて、緋雪は皆を信じて優輝と向き直る。
「お兄ちゃん。……私の、大好きなお兄ちゃん」
「………」
「……お願い。いつもの、私が好きなお兄ちゃんに、戻って……!」
懇願する。変に言葉を並べるよりも、ただ真っ直ぐに懇願する。
「ぁ、ぐ……!?」
しかし、返答は創造魔法による串刺しだった。
正面から串刺しにされ……しかし、それでも緋雪は再度優輝に抱き着く。
「行かせない!」
「行かせません!」
「行かせるかぁあああああ!!」
一方で、イリスの方も優奈、祈梨、帝が追いつき、食らいつく。
先に食らいついた三人と違い、優奈達はイリスとまともに戦う事が出来る。
イリスも警戒していたのか、思わず距離を取っていた。
「……どうか、お願い……」
「ッ……!」
串刺しになったまま優輝を抱きしめる緋雪が、弱弱しく呟く。
その呟きを、司が拾う。
イリスの“闇”を押し留めているため、緋雪の所には行けない。
だが、“祈り”を現に変えようとする、天巫女の力が反応する。
「……チャンスは、ここですね……!」
祈梨もまた、その呟きを拾い、天巫女の力を使っていた。
ジュエルシード……否、プリエール・グレーヌも淡く輝く。
「戻ってきて、お兄ちゃん……!!」
―――“道を拓く、破壊の瞳”
“祈り”としては、そこまで強くはない。
だが、優輝を……愛する人を“助けたい”という想いが、そこに実現した。
その祈りが緋雪の“破壊の瞳”と合わさる。
「(これでも、ダメなの……!?)」
確かに優輝の“闇”は弾けるように吹き飛んだ。
しかし、それでも祓いきれなかった。
それを横目に見ていた司は、歯噛みする。
「………」
緋雪も、再び優輝に纏わりつく“闇”を呆然と眺めていた。
「彼から……離れなさい!!」
「ッ……突破された!緋雪!避けて!!」
そこへ、イリスがついにやってくる。
“闇”を手に纏わせ、緋雪に向けて振りかぶった。
……だが、その衝撃はいつまで経ってもやってこない。
「―――そこまでよ。イリス」
まるで、時が止まったかのように、イリスは動きを止めていた。
それほどまでに、イリスはそこに現れた存在に動揺していた。
「え……!?」
それは、緋雪も同じだった。
緋雪を庇うようにイリスの前に立った人物は、意外どころではなかったからだ。
「ど、どういう、事なの……!?」
司が呆然と呟く。
自分達を圧し潰そうとする“闇”は、その人物に吸い込まれるように消えていった。
「ッ……嘘でしょう。なんて、事なの……!?私すら、今まで気づかなかった……!」
絶句する皆の代わりに、優奈が言葉を紡ぐ。
どうしてここにいるのか、どうしてイリスの“闇”を止められたのか。
その答えを。
「―――貴女も……貴女もイリスだったのね……高町桃子!!」
「………その通りよ。もう一人の優輝君……いえ、優奈ちゃん」
そう。イリスの前に現れたのは、なのはの母親である桃子だった。
「なんで……桃子さんは、一般人だったはずじゃあ……」
「簡単な事よ……!なのはと奏に宿っていたミエラとルフィナ同様、イリスも同じように人として転生を繰り返していたのよ!」
本来、桃子は普通の一般人だ。
しかし、なのはと奏のように、イリスが宿っていた。
そのため、同じイリスの“闇”を止めたのだ。
当然、優奈の言葉を聞いて、全員が桃子も警戒する。
……だが。
「は、はは……あはははははははははははははははははははははははははは!!」
その警戒を打ち消すように、イリスが笑う。
まるでおかしなものを見たかのように、攻撃の手すら止めて笑っていた。
「何が出てきたかと思えば!!まさか、あの時打ち砕かれた私の“領域”の欠片ですか!!まるで絞りカスのような貴女が、今更出てきて何の用ですか!?先程の行動を見るに、同じ私でありながら敵対したようですけど?!」
「…………」
嘲笑うイリスに、桃子は何も返さない。
「桃子!」
そこへ、別の人物が……桃子の夫である、士郎がやって来た。
避難場所である幽世から、ここまで走って来たのだろう。かなり息を切らしていた。
「……今までありがとう。士郎さん。……安心して。貴方の妻は、きっちり無事に返しますから」
「えっ……!?」
そういうや否や、桃子は分裂した。
片方は、気絶した状態の普通の桃子となり、士郎に抱き留められた。
もう片方は、姿こそ桃子だが、その体は淡く透けていた。
「私は、数多の“可能性”見てきました。彼女達のように、決して諦めない光の“可能性”もあれば、それこそ闇でありながらも“可能性”示す存在も……」
「だから、何だというのです?先程私の攻撃を打ち消した時点で、既に限界のはずですよ。現に、ただでさえ残りカスのような“領域”が、消え去ろうとしています」
体が透けているのは、“領域”が限界な証だ。
それは、桃子に宿っていた方のイリスも承知のようだった。
「どんな存在であろうと、“可能性”を示す事が出来る。……例え、私のように“闇の性質”であろうと……!!」
「何を……っ、まさか!?」
「なればこそ、今示しましょう!数多の“可能性”の光を!!私が憧れた、私の恋した“可能性”の力を!貴方が魅せてくれた“可能性”を、今度は私が!」
―――“其は、闇が示す光”
「ここに!示します!!」
桃子に宿っていたイリスの体が、光に包まれる。
そして、その光は天に上り、世界中に飛び散った。
「ッ、よりにもよって……貴女が私の“闇”を祓うと!?“闇の性質”である存在が、その“闇”を祓うなど……そんな事が……!?」
「“闇の性質”であるならば……その“闇”を取り除く事も当然可能です。……光と闇は表裏一体なのですから」
もう一人のイリスは、桃子の姿からイリスの姿へと変わっていた。
否、こちらが本来の姿だったのだろう。
「同じ私でありながら……なぜ……ッ!?」
「彼に倒された事で、残った貴女は憎悪を抱いた。対し、飛び散った私は光を……希望を抱いた。ただ、それだけの違いです。本当に、ただそれだけの……」
「ッ……!」
イリスが“闇”を振りかぶる。
「はぁっ!!」
それを、優奈が理力の剣で弾き、庇った。
「……そう。それこそ彼と彼女のように、分裂した時点で私達は別なのです」
「どうやら、そのようね……!」
そう、優輝と優奈も同じ存在だった。
しかし、分裂した後は記憶や考え方に違いが起きていた。
それが、イリスの方でも起きていたのだ。
「ッ……預言の“闇が可能性の光を示す”と言うのは、もしかして……」
「間違いなく、彼女の事ね……」
緋雪と奏が、預言に出ていた存在が転生したイリスの事だと確信する。
一方で、敵のイリスは顔を顰めていた。
「だとしても……そうだとしても!“領域”すら投げ出す程の事を、なぜ……!?」
「……え?」
イリスのその言葉に驚愕したのは、ミエラと知識を共有していた奏だ。
「“領域”を投げ出す……まさか、消滅……!?」
奏が転生した方のイリスを見る。そして、絶句した。
桃子から分離した時点で透けていた体が、もうほとんど見えなくなっていた。
「ええ、その通りです。“天使”ミエラの依り代。……私は、私の“領域”全てを投げうって、私の力を相殺し、“可能性”を拓きました」
「ッ……!?どうして、そこまで……?」
「どうして……ですか……」
もう一人の自分に、そして奏にも問われ、イリスは困ったように笑う。
まるで、その答えを言うのを恥ずかしがるように。
「そう、ですね……言うなれば―――恋、したんです」
体が、存在が消えゆく中。
それでも、イリスは答えを口にする。
「あの時、ただ自身の“性質”に囚われて“闇”を振りまいていた私を、止めてくれた。……私にも、別の“可能性”があると、そう言ってくれた。……ただ、それだけで私は光を、希望を見たんです」
耳障りだと言わんばかりに、敵のイリスが攻撃を放つ。
だが、優奈が、祈梨が、帝が……周りの者が、それを防ぐ。
そんな中で、イリスの言葉は続く。
「道を示してくれたから!私は彼に憧れた!彼の在り方に、魅せられた!まるで、恋に焦がれたかのように……いいえ、事実、私は彼に恋焦がれた!愛そうと思った!ただの人間のように、ただの一人の女として、彼に恋したんです!」
涙を流し、精一杯な満面の笑みを浮かべて、イリスは高らかに言う。
これから、完全に消滅するにも関わらず、何も恐れていないかのように。
「……私が全てを投げうった理由なんて、それだけです」
そう微笑んで、イリスは優輝へと近づく。
「ありがとう、“可能性”の貴方。私にも光を見せてくれて、本当にありがとう」
優輝は沈黙している。それでも、イリスはお礼を言った。
……そして。
「そして、さようならです。気づけなかった私。貴女も、今度はちゃんと気づかされるといいですね」
その言葉を最後に、イリスは跡形もなく消え去った。
「たった……それだけ……?……それだけの理由で、神界の神である存在が、“領域”すら投げ出すなんて……ありえません……!」
敵のイリスは、未だに困惑していた。
ただ憧れた、恋をした。
それだけで“領域”を捨てたのが納得できなかったのだ。
「―――僕も予想外だったさ。でも、それこそが“可能性”ってモノだ」
直後、その声が響くと同時に理力が光の柱となって立ち昇った。
「な、ぁ……!?」
「イリスの示した“光”。そして緋雪の、皆の想い。……しっかり響いたぞ」
その中心に、優輝が立っていた。
後書き
道を拓く、破壊の瞳…“破壊の瞳”の力を、天巫女の力で後押ししたため発現した技。浄化と破壊の力が合わさり、容赦なくイリスの“闇”を祓う。如何なる洗脳であろうと、本心へと声を届かせる事が出来る。
其は、闇が示す光…ギリシャ語で“可能性の希望”(多分)。人に転生したイリスが、人の持つ“可能性”に目覚めた結果、編み出した切り札。“領域”を犠牲にする事で、その“世界”の“可能性”を呼び覚ます。
桃子に宿っていたイリスがやった事は、FGOにおける終局特異点でのラスボスに対して○○○(ネタバレ防止)がやった事に近いです(つまりラスボス特効的なアレ)。
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