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MOONDREAMER:第二章~

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第二章 勇美と依姫の幻想郷奮闘記
  第36話 外界っ子バトル:前編

 昨日は冥界組と永遠亭との勝負に続き後夜祭となり、大いに盛り上がったのだ。
 そんな余韻を胸に秘めつつも、勇美は今日も依姫と鍛練の日々を送っていた。
「【光符「ラーズミラー」】!!」
 今この瞬間、勇美は自分が扱える最大出力の力で依姫に立ち向かっていた。彼女の放つ強大な光と熱の奔流が依姫に襲い掛かった。
 それが依姫を包むと激しい爆発を起こす。
 直撃である。勇美の攻撃は綺麗に決まったのだった。
 だがその攻撃を決めた勇美は何も言わずに目の前で起こる光の爆ぜを見据えていた。
 そして光は収まる。そこに現れていた光景を見て、勇美はいっそ爽やかな表情で言った。
「やっぱりこうなりますよねぇ~」
 勇美は頭をポリポリと掻いて愚痴る。その先には……刀を構えて立っていた依姫が存在していたのだ。
 ──ものの見事に今の勇美の攻撃によるダメージは皆無のようだ。
 依姫は例によって光の攻撃をその刃で切り裂いたのだった。
「やはり依姫さんには届きませんね」
 やはりこの人は敷居が高い。そう勇美は痛感する。
「いえ、貴方はどんどん腕を上げているわ」
 そう勇美に労いの言葉を掛ける依姫。
「そうはいっても、私の渾身の一撃を軽々とかわしたじゃないですか~」
 その依姫の言葉を単なる慰めのものだと受け取りながら勇美は言う。
 そんな勇美を見ながら、依姫は微笑みを浮かべ続ける。
「確かに、私は今の攻撃はかわしました。でも、それまでの攻撃はどうでしたか?」
「あっ……」
 言われて勇美はハッとなった。
 見れば依姫は、多少であるが服の汚れが見て取れるではないか。
 それは他でもない、勇美の攻撃により負ったダメージの裏付けとなるのであった。
「そういう訳よ。貴方は着実に成長をしているのだから、自信を持ちなさい」
「はい、ありがとうございます」
 そう依姫に労いの言葉を掛けられて、勇美は嬉しくなった。
 こんな素晴らしい人に認められる程に自分は成長していっているのだ。これは勇美にとって誇りとなるのであった。

◇ ◇ ◇

 そして依姫との鍛錬の終わった勇美は、彼女と一緒に人里の茶屋へと赴いていた。これが彼女達の日課となっていたのだった。
 そして、これまた常時的な出来事となっていたのが……。
「依姫さん、確かあの人は……」
 そう、人里での他の勢力の者との出会いであった。
 そして、依姫はその人物の名前を答える。
「東風谷早苗ね、守矢神社の風祝──巫女と同じようなものね」
 依姫が示すその人物は、まず鮮やかな緑髪に、右側の髪に蛇の飾りを巻き付け、頭には蛙の髪飾りを身に付けていた。
 そして問題なのが服装である。それは青と白が貴重の、巫女装束……に似た何かという如何ともしがたいものであった。更に極め付きは、袖が本体から分離していて、腋が露出されている事であろう。
 そんな際立つ召し物に身を包んだ存在──早苗に、勇美は気兼ねなく話し掛けるのだった。
「あなたが東風谷早苗さんですね?」
 呼び掛けられて、その少女──早苗は勇美に向き直り言葉を返す。
「そういうあなたは黒銀勇美さんですね?」
「ええ、まあ」
 勇美の事が知られている、これもお決まりの展開なのであった。
 話し掛けられた早苗は、勇美の意図を汲み取って続ける。
「私に話し掛けたのは、つまり私と弾幕ごっこがしたいという訳ですよね」
「そういう事です」
 勇美はそうはっきりと言った。今回自分から進んで弾幕ごっこを相手にお願いしたのだった。
 今までは依姫に言われる形でやっていたのだが、これからは自分の意思で行うべきだろうと勇美は考えての事であった。
 これは勇美が無理をしての事ではない。彼女自身、早苗から積極的に学びたいと思っての事である。その理由は。
「何故私と勝負をしたいと思ったのですか?」
「それはですね、早苗さんは私の『先輩』になるからですよ」
 その事が理由だったのだ。
 聞く所によると、東風谷早苗は幻想郷の外から来た外来人なのである。それは守矢神社が科学の発達した外の世界では信仰を集められなくなった為であるのだ。
 そして早苗は自分の仕える守矢諏訪子と八坂神奈子の二柱の神と一緒に幻想郷にやって来たのである。
 つまり、同じ外界から幻想郷に来る事になった勇美にとっては、早苗は先輩になるという訳なのだ。
「先輩ですか……」
 その言葉を聞いて早苗はこそばゆい気持ちになった。そう呼ばれるのは悪い気持ちはしないのだった。
 自分はまだ幻想郷にとって新参で、まだ未熟であるけれど、教えられる事があるなら、やれる事はしよう。
 真面目な性格である早苗はそう思い至ったようであった。
「分かりました、私で良ければいくらでも相手になりますよ」
「ありがとうございます♪」
 快く承諾する早苗に、勇美は心弾むような気持ちになりながら返すのだった。
「でも、問題はどこで弾幕ごっこするかですね……」
「確かに」
 早苗の発言に、依姫も相槌を打った。それに対して、どういう事だろうと勇美は思った。
「どこでって、早苗さんの家ですればいいんじゃないのですか?」
 それで問題ないだろうと、勇美は言うのだったが。
「勇美さん、私の家──守矢神社がどこにあるか知っていますか?」
「それは、妖怪の山……って、あ」
 そこまで言って勇美はハッとなった。
「そんな山じゃあ、行くのが大変ですよね」
「そういう事ですよ」
 空を飛べる早苗なら妖怪の山から飛んで人里まで簡単にやって来れる訳だが、それが出来ない勇美では登山という労力の掛かる行為を強いられてしまうだろう。
 だが、その理由は『半分』の正解であった。もう半分を依姫が説明していく。
「それと勇美、妖怪の山に住む天狗を中心とした妖怪は排他的なのも理由なのよ」
「その通りですよ、依姫さん」
 早苗は自分が付け加えようとしたもう一つの理由を、見事に依姫に代弁してもらう形になって感心するのであった。
 排他的……。その歪んだ思想は依姫が自分達月人を見ている事で嫌という程知っているのだった。
 その思想は他を見下し、時に自分達の正義に反するのであれば危害を加える事も辞さない考えを生み出すものであるのだ。
 その事を依姫はよく知っているからこそ、勇美を妖怪の山へは連れて行きたくないのであった。月の思想は反面教師として抜かりなく依姫の役に立っているのだった。
 だが、そこで困ったのが勇美であった。それならばどこで早苗との弾幕ごっこを繰り広げるべきなのかと。
「それじゃあ、どうしますか……?」
(あ、何かこの子可愛いですね……♪)
 う~んと勇美が頭を捻り考えるのを見て、早苗はほのぼのとした気持ちとなってしまった。彼女もまた勇美の小動物性に惹かれたのだった。
 ずっとこのままの勇美を見ていたい衝動に襲われる早苗だったが、さすがにこのままではいけないので、隣にいた依姫に案を聞く事にした。
「どうしますか、依姫さん?」
 それに対して、依姫は何も迷う事はなかったのだった。
「早苗、安心しなさい。勇美、あの時の事を忘れたのですか?」
「あの時……?」
 勇美は依姫に言われても、彼女の言わんとしている事が理解出来なかった。あの時とは何時の事だろうかと。
(やっぱり可愛い)
 そして再び悩む勇美を見ながら早苗は癒されるのだった。この子、お持ち帰りしたいと。
 ちなみに早苗は外界では高校生だったのだ。だから二つ三つ歳の低い勇美が愛おしいと感じてしまう一因となっていたのだった。
 だが、現実とは無情なものである。そんな勇美に対して依姫は助け舟を出してしまうのだから。
「ほら、あの時。慧音さんの申し出で特別授業をした時の事よ」
「あ、あそこですね♪」
 依姫に言われて頭に閃きが走った勇美は、合点がいき、にぱっと笑顔を見せた。それを見て早苗はこの子はころころ表情が変わって、やっぱり可愛いと確信するのであった。
 そんな事ばかりを思っていられないので、早苗や依姫に聞く。
「依姫さん、あそこってどこなんですか?」
「そう言えば貴方は知らないよね。いいわ、案内するわ」

◇ ◇ ◇

 そして依姫に案内されたのは、人里の近くにある開けた空間であった。
 そう、勇美が寺子屋の為に特別授業をした際、自分の分身を恐竜型に変形させながら依姫と戦った場所である。
「こんな所があったんですね~」
 早苗は素直に感心した。
「貴方は幻想郷での経験が浅いですからね、分からない事があったら遠慮なく私や幻想郷の親切な者に聞くのですよ」
「はい……って、依姫さんも幻想郷での経験は少ないのではないですか?」
「確かに……」
 早苗に指摘されて依姫はその通りだと苦笑した。このように物覚えが良い所や、教える事に関して様になってしまうのは依姫の強みと言えるだろう。
 気を取り直して、依姫は話を切り出す。
「それでは始めなさ……」
「始めなさい」と言おうとして、依姫はそこで踏み止まった。何があったというのだろう。
「どうしたんですか?」
 疑問に思った勇美は首を傾げる。何故なら彼女はこの場の二人とは『違う』存在だからだ。
 一方で理由を察した二人は同時に互いにコンタクトを取った。
「丁度良かったわ」
「来てくれたんですね」
 そう言い合う二人の視線の先には、二人の人影があった。
 ──否、『二柱』である。
「早苗~、来たよ~」
「面白そうな事になっているな」
 それぞれ、幼女とババ臭……いや、大人びた女性から声が掛かった。
「貴方方にはお会いしたいと思っていました。守矢諏訪子様……八坂神奈子様」
 そう、早苗が仕える守矢神社の二柱の主であったのだ。
 守矢諏訪子は金髪に紫と白の古風で落ち着いたスカートを含んだ服装に、何と言っても頭の蛙の玩具のそれのような目玉が付いた個性的すぎる帽子が特徴であった。
 対して神奈子は鏡をアクセサリーにし、黒のスカート。後紫の髪と赤い服が原因で、どうしてもオバ……老けて見えてしまう外見である。
「お前か、最近噂になっている神霊使いは」
「はい、仰る通りです」
 珍しく腰が低くなる依姫。
 それもそうであろう。あくまで依姫は神の力を借りる身。対して神奈子は『神』そのものであるのだから。
「まあそう固くならなくていい。幻想郷では神も人間も何もかも平等なのだからな」
「そう言って頂けると嬉しいですね」
 神奈子に促され、漸く依姫も表情が柔らかくなる。
「『この子、可愛い』って、抱きしめるのは失礼になるんですよね?」
 勇美はデザートに存在するはずだったケーキを食べ損ねたかのようにもの惜しそうに諏訪子を見つめていた。
「ええ、失礼も失礼、大罰当たりよ!」
「ですよね~」
 すかさず突っ込みを入れる依姫に対して、勇美は意気消沈する。
「まあ、そう気を張らなくてもいいよ」
 そんな二人に対して諏訪子はニカっと笑みを浮かべる。外見が小学生位の少女に見える彼女がやるのだから、その愛しさは一入であった。
「それじゃあ♪」
 諏訪子の言葉を聞いて、猫科の肉食獣の如き眼光で食い入るように迫る勇美。
「でも、抱きしめるのはNGね」
「あぐぅ~……」
 諏訪子の非情な結論に、勇美は珍妙な呻き声を出してその場に倒れ伏してしまった。
「まあ、そう気を落としちゃ駄目だよ。私達は勇美ちゃんの弾幕ごっこを見に来た訳でもあるんだし♪」
「はい、ありがとう……ございますぅ……」
 勇美は複雑な心境であった。神直々に自分の弾幕ごっこを見に来て貰えたという光栄さと、結局は可愛い幼女然とした諏訪子を抱きしめるという野望が成熟しなかった無念とが頭の中を駆け巡っていたのだ。
「そういう事だ。そうややこしい心持ちとなるな」
 そして、神奈子も勇美を労う姿勢を見せた。
「そうですよ、勇美さんはこれから私と勝負をするのですから。言っておきますけど、私は強いですからね」
 早苗は強気な発言をした、いつもの妖怪退治人としての血が騒ぐようであった。
 それを聞いて勇美は心機一転、早苗と対峙する意欲を強く沸きたて始めた。
「はい、足元掬われないで下さいね、先輩♪」
 対する勇美も意気揚々とするのだった。

◇ ◇ ◇

 そして、勇美と早苗の勝負はここに始まった。
 どちらから先に動くのだろうか? そう思われた矢先。
「早苗さん、私から行かせてもらいますね」
 勇美のようであった。意気込みの良い後輩に対して早苗は気を良くする。
「どうぞご自由に。ここは先輩として後輩に華を持たせますよ」
「そう言ってもらえると助かります。それでは、最近編み出した『とっておき』をお見せしますね」
「とっておき……ですか?」
 早苗はその言葉に首を傾げつつも期待した。一体この後輩は何を見せてくれるというのだろうか?
「では行きますよ。早苗さん、あなたに相応しい神様は決まりましたよ!」
「その台詞ダメです! どっかで聞いたような気がしますから!」
 早苗は慌てて手を振って抗議し、依姫もまたこいつやりやがったと頭を抱えていた。
 ──神をそんな得体の知れない弾薬感覚で行使するなと。
 ちなみに、風の象徴の人が使うのに『土』って意味だったのはどういう事だったのかと。そして大人の事情で打ち切るには惜しすぎたアニメだったとも。
 閑話休題。勇美が神の力を借り続ける修練の内に気付いた事。
 それは彼女が同時に神の力を借りられるのは三柱までが限界という事であった。──それ以上は肉体と精神に負担を掛けすぎてしまうのだった。
 なので、勇美はその制約の三柱の神を選ぶのだ。
「……魔銃っぽく宣言していいですか?」
「ダメです。普通にやって下さい」
「ぇ~」
 早苗にキッパリ言われて勇美は項垂れた。そして傍らで聞いていた依姫も呻く。まだそのネタ引っ張るつもりだったのかと。
 だが、いつまでもネタに走ってもいられないだろう。勇美は意を決して力を借りる神の宣言をする。
「まず石凝姥命、そして天照大神よ、そして……」
(……)
 それを聞き、依姫は首を傾げた。
 その組み合わせは先程も勇美が見せた、彼女が誇る奥の手『ラーズミラー』発動の為のものであるのだ。
 だが勇美は後、もう一柱の力も借りようとしているのだ。一体どうしようというのだろう。
 その依姫の思いに応える形で勇美は最後の神を宣言する。
「そして最後に住吉三神、お願いします」
「それはまあ……」
 依姫は、意表を付かれて色々と感心してしまった。
 まず、住吉三神がかつて霊夢に使役された事により一悶着があった事である。あの時は苦労したが、霊夢達と和解した今ではいい思い出である。
 そして、住吉三神は名前の通り三兄弟の神々を纏めて指す用語である事だ。
 つまり、その三柱を一体の存在として勇美は使役したのだ。
その事に依姫は驚くのだった。
(そんな器用な事が出来るなんてね……。ここから勇美は一体何を見せてくれるのかしら?)
 依姫は期待に満ちた心で勇美の戦いを見届けようと想ったのだった。 
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