人徳?いいえモフ徳です。
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六十三匹目
八月初旬。比較的過ごしやすく気候の安定しているフライハイト王国もそれなりに暑い時期になってきた。
……フローティアの気候は科学世紀に縛られた僕では理解できない所もあるが基本的に日本と似かよっている。
「シラヌイ! 水浴びに行くわよ!」
「行ってらっしゃい」
「貴方も行くのよ!」
と、くーちゃんが態々シュリッセル家まで来たのが今日の昼前。
護衛も無しに来たとこを見るに風魔法で城から抜け出して来たのだろう。
ルイスとティアにくーちゃんの話相手になって貰ってその間に貴族街を駆け回ってメリーちゃんとシャクティを呼んだ。
どうやら二人には話していたようなので直ぐに来てくれた。
向かう先がお城のプールじゃなくて僕の家なのは不思議そうにしていた。
集合したのがちょうど昼食時だったので食堂に通す。
シュリッセル家にはいくつか食堂がありここはその一つで、僕達四人専用になりつつある。
「で、なんで私達を呼んだんだ?」
シャクティがオムライスをぱくつきながら僕に尋ねる。
それを答える為にはまず確認しなければいけない。
「くーちゃん。水浴びってお城のプールだよね?」
「そうよ?」
「格好は?」
「裸だけど?」
まぁ、フライハイトには水着なんて無いのである。
「なんで僕を呼んだのさ」
「シラヌイなら気にしないわよ?」
「僕が気にするの!」
くーちゃんはやると言ったらやるので無理矢理にでも僕を連れていくだろう。
お姫様だよ?
この国で一番偉い家系の女の子だよ?
シュリッセル家(っていうかお婆様)がこの国を動かしてるって言ったって流石に不味い。
「とりあえず、水着作るから待ってて」
ルイス達にデザートのアイスクリームを運ばせ、僕は早々に席を立つ。
自室に戻って作業を開始する。
作るのは所謂スクール水着だ。
素材は4M(クォドム Multiple Magical Molecular bond Material)を応用した炭素繊維。
織り込む魔方陣の効果は『撥水』。
魔力をながし続ける限り水を弾く。
これは意外と単純な術式だ。
魔法障壁の応用…というか劣化版。
スクール水着に張り付けるように展開するから障壁の範囲指定は不要。
水は硬くもなければ速くもない(少なくとも水浴び程度では)ので魔力消費は最小限だ。
それで造ったスクール水着を3着と海パンを一着。
この間ドレスの採寸をした時のサイズ情報は貰っているのでサイズもピッタリの筈だ。
十五分程で食堂に戻る。
「一応、体を隠しつつ水中で問題なく動ける服を造ってきたから」
「ふーん。ま、貴方が来るなら私達はどうでもいいのよ?」
四人で王城へ向かうと、門番や兵士達が迎えてくれる。
くーちゃんがいるのもあるが、僕達は基本顔パスだ。
向かう先は王城の奥。
王城の役所としての機能を持つエリアよりも奥には王族のプライベートスペースがあり、そこは王族を除けば余程の事がなければ入る事が出来ない。
僕?
よく王様とかくーちゃんの部屋でモフられてるよ。
お婆様の部屋もあるしね。
着いたのは風呂場。
そこで着替えてから庭のプールへ向かう。
「ぬいちゃん、こっち」
「ふぇぁ?」
男子更衣室というか、男子風呂に行こうとしたらメリーちゃんに後ろ襟を引っ張られ、シャクティに抱き上げられた。
連れていかれたのは女子更衣室。
「ちょっとぉ!?」
「うるさいわよシラヌイ」
「いやここ…」
「貴方が居ないとさっきの服の着方わかんないのよ」
「普通に足入れて着ればいいじゃん!」
「あら、そ」
シャクティが僕を下ろし、三人が服を脱ぎ始める。
「ぴゃ!?」
咄嗟に後ろを向くとクスクスと笑われた。
「シラヌイ。そう言うのって普通私達側の反応じゃないの?」
「そうかもしれないけどっ!」
「それに私達って王侯貴族なのよ?『そういう』教育もされてるし、シラヌイの裸程度で動じたりしないわ」
「は!? 僕らまだ7歳だよ!? そういう教育は早すぎじゃないかな!?」
いや確かに貴族ならそういう教育もするだろうけど、早いでしょ。
………実践はしてないよね?
いやうん、よそう。
後ろでの衣擦れの音に想像力を掻き立てられる。
「元素だ…元素を数えるんだシラヌイ・シュリッセル…!
水素、ヘリウム、リチウム…」
「バカなことしてないで貴方も着替えなさいシラヌイ」
「君達が出ていったら着替えるよ…」
暫くして三人が出ていったので着替える。
まぁ、履くだけなので直ぐに終わった。
着ていた物はアイテムボックスに放り込んで、外へ向かう。
「私達も貴方のと同じのが良かったわ」
「いやダメでしょ。胸見えちゃうよ」
するとくーちゃんが僕に抱きついた。
「えー? シラヌイって私の裸にこーふんするのー?」
「しないために水着渡してるんだけど?」
僕の性的嗜好というか好みはしっちゃかめっちゃかだ。
転生前の好みプラス体に引っ張られてる好み。
体が未成熟だからそこまで強くないけど、思春期の性欲も少しだけど無いわけじゃない。
「む…、ずるい」
メリーちゃんも僕に抱きつく。
「ちょ…二人とも…」
「ぬいちゃんぬいちゃん」
「何? 離れてほしいなぁって」
成長期前だけど当たってる物は当たってるのだ。
「あててんのよ」
「……どこで覚えたの?」
「お母さんが持ってた小説」
あの人マジでさぁ……。
くーちゃんに案内してもらい、プールへ。
深さは約1.5メートル直径20メートルほどの円形。
手前に階段状になっている部分があり、端には妖精用と思われる階段もある。
屋外プールだけど、流石は王族の所有物。
コケなんて生えてないし、水も綺麗だ。
ヴァンニクが専用階段でぱちゃぱちゃやってるので恐らく彼女等がこのプールの主なのだろう。
ヴァンニクってたしか風呂の妖精だったと思うんだが……水場ならいいのだろうか…それとも夏だから…?
でもシュリッセル家のヴァンニクは今も居るし…。
プールの水に触れて解析魔法を使うと、清潔な水だけどかなり冷たい。
たぶん城の風呂と同じく地下水だろう。
「準備運動忘れないようにね」
三人に伝えながら、屈伸運動を始める。
「ぬいちゃん何してるの?」
「準備運動ってしないの? こんな深いプールで準備運動しないのは危ないよ?」
三人が首を傾げるので取り敢えず真似させる。
「こうやって体の筋を伸ばしておかないと」
しかし考えてみれば今までこの四人で運動することはあったが準備運動をした記憶は無い。
それでも怪我をしたことはない。
まぁ、僕ら若いし。
……………それはそうと、水着の女の子がダイナミックに動いてるってエッチじゃない?
やっぱり面倒くさがってスクール水着にしたのが良くなかったかな…。
ワンピースタイプとか他にも作れなくもなかったけど…。
いやでも時間無かったし…。
一通りストレッチをしてから、プールに足を踏み入れる。
階段に一歩足を入れると地下水の冷たさが上ってくる。
やっぱり冷たい…こまめに休憩を取った方が良さそうだ。
三人の唇の色には注意しておこう。
二歩目を踏み出す寸前。
「いくわよー‼」
僕の横を通り抜けて、くーちゃんが走ってプールに飛び込んだ。
数メートル先でザッパァーン!!! と水飛沫が上がる。
更に羽撃きの音がしたかと思えばシャクティが飛び込んでいた。
水面から顔を出した二人が悲鳴を上げて身を竦める。
「……さむそ」
いつの間にか隣に居たメリーちゃんの呟きが状況を適格に示していた。
ゆっくり、一歩ずつ階段を下りていく。
魔力を全身で活性化させるとある程度冷たさが緩和された。
くーちゃん達も既に身を竦めていない所を見るにやっているのだろう。
肩程まで水に浸かった辺りで床を蹴る。
「ぬいちゃん泳げるの?」
「泳げるよ」
足を平泳ぎのように動かして、立ち泳ぎで体を浮かせる。
「メリーちゃんは?」
メリーちゃんも犬かきみたいにして浮いている。
メリーちゃんは蹄だからバタ足とかは不利かもしれない。
「泳ぐくらい、できる。泳いだこと、ないけど」
天才か?
くーちゃん達の方へ泳いでいく。
くーちゃんは普通に泳げてるし、シャクティは翼も使って上手いこと泳いでいる。
翼人には翼人の泳ぎ方があるんだろう。
僕はといえば尻尾が重たい。
僕の半身よりも大きい尻尾には相応の毛があって、それが水を吸ってるのか動きにくい。
風呂とかでは気にした事もなかったけど、回りが全部水で地に足がついてないといっそう気が向く。
「…………シラヌイ。貴方水の中なら視線同じなのね」
「それは暗に僕がちっこいって言ってる?」
「気にするな狐君。私からすれば三人とも小さいぞ」
最近くーちゃんとメリーちゃんに身長を離されつつある。
まぁ、シャクティは遺伝的に大きいのは仕方ないから気にしないけど…。
「ねぇシラヌイ。尻尾触っていい?」
「いいけどもふもふしてないよ?」
後ろを向いてくーちゃんに尻尾を差し出す。
「…………これはこれで…新感覚」
もふもふしていないがくーちゃんはそれでもいいらしい。
「うゅう……」
この六年間泳いだことはなかったが、体……いや魂は泳ぎ方を覚えていたようだ。
クロール、背泳ぎ、平泳ぎ、バタフライといった四泳法は完璧に覚えていたので三人に教えたりした。
でも体が凄く重くて疲れる。
この体で泳いだことが無いからだろうか?
普段使わない筋肉を使っているから?
「……ヌイ! …………シラ………シラヌイ!」
「ぇ?」
遠くからくーちゃんの声がする。
遠く?
なんで? 目の前に居るのに?
視界が霞む。
気付けば四肢から寒気が上がってくる。
身体強化がいつの間にか解けている?
なぜ?
あれ? 魔力が底をついて………る…?
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