| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

幸せを招く猫

しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
次ページ > 目次
 

第三章

「バイト先、今度就職する先の先輩で」
「おいおい、先輩か」
「歳はあっちの娘高卒で二つ下だけれど」
「それでか」
「年下の先輩で凄くしっかりしていて優しい人で」
「その人とか」
「仕事のこと教えてもらって」 
 そしてというのだ。
「そうしているうちになんだ」
「付き合う様になったんだな」
「ああ、彼女も出来たよ」
「それはよかったな。何かな」 
 このことも聞いてだ、伊丹は。
 笑顔になってそうして荒巻にこう言った、今も荒巻のの部屋にいるが今回はペットボトルの紅茶とクッキーで乾杯している。尚伊丹はもう就職が決まっている。実家に帰って家業である農家を継ぐことがだ。
「運が上向いてきたな」
「そうだよな」
「俺が思うにな」
 伊丹はここでこう言った。
「大吉が来てからな」
「俺にいいことが続いてるんだな」
「そう思うけれどな」
「そうかもな」
 荒巻は微笑んで伊丹の言葉を肯定した。
「実際にな」
「自分でもそう思うんだな」
「本当に大吉が来てからな」 
 ここでその大吉を見た、見れば。
 大吉は今も彼と共にいる、彼の傍で座布団の上に寝ている。表情はにこにことした感じだ。長い毛は艶やかだ。
「俺にいいこと起こってるしな」
「そうだよな」
「それに大吉がいるとな、いい子なんだよ」
 大吉を見て笑顔で話した。
「優しくて賢くてな、家じゃずっと一緒にいてくれるし」
「そうなんだな」
「先輩にも懐いてくれてるし」
 彼女となった女性にもというのだ。
「本当にな」
「いい子なんだな」
「大吉自身な、だから大吉といたら」
 それこそというのだ。
「本当に楽しいよ」
「大吉自身といても幸せなんだな」
「そう思うよ」
「何かな」
 伊丹はその大吉を見つつ荒巻に言った。
「大吉は玄関の前にいたんだよな」
「そうだけれどな」
「神様が不幸続きのお前に幸せをもたらす為に送ってくれた猫かもな」
「それが大吉か」
「ああ、そうかもって思ったけれどな」
「そうなのか?大吉」
 荒巻は伊丹の言葉を受けてその大吉に冗談半分に尋ねた。
「お前俺に幸せをくれる為に来たのか?」
「ニャア」
 大吉は笑顔で一声鳴いた、荒巻の言葉に応える様に。
 荒巻と伊丹はそんな彼を見て笑顔になった、二人共そこに幸せを確かに見ていた。


幸せを招く猫   完


                  2020・6・19 
次ページ > 目次
ページ上へ戻る
ツイートする
 

全て感想を見る:感想一覧