CM猫
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第一章
CM猫
峠谷克己はこの日通っている高校の授業を遅刻した、一限の化学の授業に遅れてきた。それで化学の教師伊藤正晴は彼に言った。
「自転車で学校に通える距離なのに遅れるか?」
「実は事情がありまして」
峠谷は教師に答えた、背は一七四程ですらりとしたスタイルで髪の毛は右で七三に分けていて細面で和風の昔で言う醤油顔をしている。黒の詰襟もよく似合っている。
「それで遅れました」
「家庭に何かあったのか」
「千曲川の方をいつも通りに進んでいたんですが」
そうして登校していたがというのだ。
「川に流されている段ボールを見付けて」
「段ボールに何かあったのか」
「はい、三匹の子猫がいて急いで保護しまして」
「それで遅れたか」
「それでどうしようかと考えたんですが」
「川に戻したりどっかに放り捨てたりしていないな」
「学校に連れて来ました」
峠谷は教師に答えた。
「そうしました」
「学校にか」
「はい、ここに」
ここでだ、峠谷は。
両手に抱える段ボールを出してきた、見ればその中にだった。
三匹の小さな、まだ生まれて少ししか経っていないと思われる子猫達がいた。
一匹は少し灰色がかったキジトラ模様でもう一匹は黒猫、そして最後は吊り目で顔の上や背中は黒で顔の鼻の辺りから口にかけて三角に白くその白は腹まで続いていて尻尾や足の先も白い、そんな猫達だった。
その猫達を見てだ、教師は言った。
「その猫達は先生が預かる」
「そうしてくれますか」
「そしてだ」
そのうえでというのだ。
「飼い主を募集する」
「学校でそうしてくれますか」
「それまでは生物部に預けてな」
「飼い主が見付かるまで」
「そうしてもらってだ」
そしてというのだ。
「育ててもらう」
「飼い主が見付かるまで、ですか」
「何なら君が飼ってもいいが」
「そう出来たらしてまして」
峠谷は教師に難しい顔で返した。
「うちマンションですが」
「ペットは飼えないか」
「ですから」
「そうか、それは残念だな」
「金魚は飼えて飼ってますが」
「金魚と猫は違うからな」
「はい、ですから」
そうした理由があってというのだ。
「学校にも連れて来ました」
「そういうことだな、だが学校に連れて来たのは正解だった」
教師は冷静な声で言った。
「ではだ」
「先生が預かってくれますか」
「そして生物部で大事に育てながらな」
そうしてというのだ。
「飼い主を募集するぞ」
「有り難うございます」
「じゃあ授業に入れ、遅刻は不問にする」
教師はこの件についてはあっさりと述べた。
「理由が理由だからな」
「それで、ですか」
「それはいい、とりあえず子猫達は今から先生が職員室に連れて行って事情を話す、すぐに戻るから君はクラスに入って授業を受けろ」
「わかりました」
「ニャア」
「ナ~~オ」
「ニャン」
猫達も応えてだった。
峠谷は教師の言葉に笑顔で頷いてだった。
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