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おっちょこちょいのかよちゃん

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56 森の石松の物語

 
前書き
《前回》
 夏休みの宿題を進める為に図書館で杉山と出会ったかよ子は三年生になった時の自分を思い出す。その時はまる子とはとんだすれ違いがありながらも杉山に自分に想いを伝える事ができた時だった・・・。 

 
 夏休みが終わった。かよ子にとって2学期の始まりだった。それにしてもかよ子にとっては長いような短いような夏休みだった。夏休みの宿題に明け暮れ、東京から自分が所持する「杖」と同じく、異世界の「杯」を所持する少女と同盟を組むと共に楽しく遊んだ。さらに昨日は自分の宿題は終わったというのにヘトヘトな事態だった。なぜなら友人の「まる子」ことさくらももこが夏休みの宿題を全くやっていないという事で電話で助けを求められ、わざわざ彼女の家まで行って手伝ってあげた。なお、この時、たまえととし子も来ており、自分を含めて三人はまる子の家族共々彼女によって夏休みの最後の日を潰されてしまった。
 それで若干疲れ気味の状態で登校した訳ではあるが、それでもクラスメイト達にいつもの教室で再会できた事は嬉しかった。
 間もなく体育館で始業式が始まる。そんな時、まる子は大慌てで教室に入ってきた。案の定、いつもの寝坊だろう。
 始業式で校長の20分以上にも及ぶ話を終え、教室に戻った3年4組の皆は宿題提出に明け暮れる。山田が「オイラ、しゅくだい、ぜ〜んぜんしてないもんね〜」と笑っては先生を困らせていた。その後、大事な話などを終えると、この日は学校は終わりとなり、解散となった。
「なあ、山田あ!」
「す、杉山君!」
 かよ子は好きな男子に呼ばれてどきっとした。
「午後なんだけどさ、俺達と一緒に久々に秘密基地に行こうぜ」
「え、いいの?」
「ああ、俺達『次郎長』と一緒に行こうぜ」
「うん、ありがとう!」
「え、えええ〜、皆行くのお〜!?」
 急に冬田が割り込んできた。
「ふ、冬田さん・・・」
「私も連れてってえ〜」
「お、おお、分かった。大野達にも聞いてみるよ・・・」
「ありがとう〜」
 冬田は午後は大野と共に楽しく過ごせると思うとワクワクするのであった。

 大野は冬田も秘密基地に行きたがっていると杉山から聞いた。
「ええ〜、冬田も〜!?」
「冬田が行きたいって言ってんだ」
「そう言われてもなあ・・・」
「ええ!?そんなに私がいるとだめなのお!?ねえ、大野くうん!!」
 冬田が暑苦しく近寄ってきた。そして、今にも泣き出しそうな顔だった。
「わ、分かったよ、お前も来いよ・・・」
「ありがとう!」
 大野は冬田の強引さに承諾するしかなかった。

 家に帰り、昼食を食べ終え、かよ子は大野、杉山、ブー太郎、そしてまる子からなる組織「次郎長」が造った秘密基地のある丘へ向かった。そこには「次郎長」の皆、そして冬田、さらには一時基地を乗っ取り、対立したが後に同盟を組む事になった隣町の小学校の組織「義元」もいた。
「あれ、皆集まったんだね!」
「ああ、俺達の学校も丁度今日が始業式で午前で終わったんだ」
「そうか、まあ、兎に角、基地に上がろうぜ!」
 皆は基地に登った。清水市の眺めはいつでも美しい。
「それにしても大雨が降ったときはどうなるかと思ったけど、あっという間に干上がったな」
「ああ、それね、私の隣の家に住んでるおばさんの所のお姉さんが干上がらせてくれたんだよ。異世界からの『護符』の能力(ちから)を使ってね」
「そうだったのか・・・」
「そうなんだ・・・。あ、そうだ・・・!」
 すみ子は持っていた手提げから袋を取り出した。
「夏休みに奈良へ旅行に行ってきたんだ・・・。これ、お土産の鹿サブレだよ・・・」
「お、サンキューだブー!」
 皆は鹿サブレを食べ、同じくすみ子が持ってきたジュースを飲みながら談笑した。
「それにしてもこの夏休みは『(あいつら)』は来なかったな。お前達の方は何かあったか?」
 山口が聞く。
「そうだな、この山田の杖と同じ強さを持つっていう異世界の『杯』の持ち主と会ったんだ。そいつは今東京に住んでて、夏休みに静岡に遊びに来てたんだ」
「それで、おばあちゃんの家に遊びに来て、教会のピアノで練習してたんだよ。私、その子と今後協力する事を約束したんだ」
 かよ子が杉山に続いて説明する。
「そうでやんすか」
「もしかしたら他にも俺達に協力できる人がいるかもしれねえな」
 川村はそう思う。
「楽しそうだな、お主ら」
 スッと森の石松が現れた。
「森の石松!?」
「さよう、お主らも充実した余暇を過ごしていたようだな」
「う、うん・・・」
「山田かよ子、お主が江戸から来たという女子(おなご)と同盟を組んだ事は御穂津姫から聞いた。彼女もお主らの良き味方となるであろう。この動きは今日本中で動き出しておる。某がいる世界も協力をしなければな」
「ありがとう。あの、石松さん・・・」
 かよ子は石松に聞いてみる。
「異世界には二つあるけどそれぞれどう言う関係なの?」
「ほう、お主がそのような質問をするとはな」
「俺も知りたくなって来たな」
「オイラもブー!」
「アタシも〜」
「はは、そうだな、お主らも知る権利はあるからな。では教えよう。確かに平和と抗争、二つの異世界がある。お互いは理念が全くの正反対なのだ。この世の世界を調律させる為に動いているのだが、某がいる平和を司る世界は治安の安定化を行う事を要として動いているのだが、争いを司る世界は多くの戦、及び武力を振りかざす事を要として動いているのだ。それ故に協力する事ができずに対立しあっているのだ。そもそもこの世界はよほどの事態でなければこの世に干渉する事は頻繁には起こりえない。日本赤軍とか名乗る過激派が無理に異世界と繋げる行為を行った故にこのような異常事態が起きているのだ」
 かよ子は気づいた。ではあの時の地面の揺れは日本赤軍が異世界とこの世を無理矢理繋げた事によるものだと。
「そうなんだ。石松はどうしてその平和の世界にいる事にしてるの?」
「それはだな、某には我が親分・清水次郎長の意志である義侠心(ぎきょうしん)を持っているからなのだ」
「ギキョーシン?何それえ?」
「弱気者を見捨てておけぬ(さが)という事だ。それが故に平和を司る世に呼ばれたという事だ」
「そうか。なあ」
 大野が質問しようとする。
「お前は実際にこの世にいたんだよな。死んでからはどうしてたんだ?」
「そうだな。教えるとするか。お主らにも大事な事かもしれぬからな」
 騙し討ちに会って斬られ、異世界へ辿り着いた後の石松。彼の物語が皆に今、語られる。 
 

 
後書き
次回は・・・
「昇天後の地」
 石松は自身の死後の後に起きた過去をかよ子達に語り始める。昇天後に辿り着いたその地で石松は本当の平和というのは何なのかを学び直し、そして第二次世界大戦による日本の敗戦を知る事に・・・。
  
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