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曇天に哭く修羅

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第三部
  九月院

 
前書き
_〆(。。) 

 
《島崎向子》が《矢田狂伯(やだきょうはく)》に宣戦布告された次の日の放課後。

《立華紫闇》は《クリス・ネバーエンド》、幼馴染みの《的場聖持》と下校していた。

その途中、人通りが多い街中でガラの悪い連中に囲まれている女の子の姿が目に入る。


(中1が中2くらいか?)


クリスより背が低い。

たぶん150㎝辺り。

ツインテールの黒髪が目立つ。


「小動物って感じね」

「可愛い系だな」


どうやらクリスと聖持も紫闇と同じような感想を少女に抱いたらしい。


「行くの?」


聖持の問いに紫闇がニヤリとした。


「囲んでる刻名館の連中に見覚えが有るんだよ。俺をボッコボコにしてくれた奴等だ。悪縁はここで断ち切っとかなきゃな」


紫闇は逃げる間を与えない為に不意打ちで襲い掛かると少女を囲んでいた刻名館の連中を徹底的に叩いていく。

心が折れる程に。


「これは再起不能じゃないかしら。もう魔術師としては無理でしょ。体が治っても心が応えてくれないと思う」


クリスは苦笑いしている。


「あ、ありがとうございます」

「何もされてないか?」

「良かったら送るけど」

「いえ、大丈夫です」


少女は紫闇達に礼を言うと、何処か逃げるようにして去っていく。


(あれが『彼奴(あいつ)』の妹か……)


似ていない。

今の彼奴とは兄妹に思えないほど性格がかけ離れており、血の繋がりが有ることを疑わしく思ってしまう。


「聖持、あの娘が気になってたりする? お前が女の子を、しかも特定の人物をじっと眺めるなんて珍しいぞ」


紫闇に的外れなことを指摘された聖持は思わず鼻で笑ってしまう。


「別に気にしてないって。特に気にするような子じゃないし、一般人ならもう会わない可能性の方が高いだろ」


そう言い放つ聖持だが内心は近い内に再会することになるかもしれないと思っていた。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


【領域内戦争】

これは毎年形式を変えている。

今年は市街地や魔獣領域などを舞台として利用した【5対5】のチーム戦。

紫闇は黒鋼の屋敷で夕飯を食べつつ一回戦を観戦していたのだがこれと言って感想は無かった。


「興味を持てないみたいだね」


師匠の一人であり、龍帝学園の2年生《黒鋼焔/くろがねほむら》の言葉に頷く。

紫闇が望むような強敵。

そんな者は一人も居なかった。


「市街地戦をするのに専用のバトルエリアを作るなんて、日本人は本当に【天覧武踊/てんらんぶよう】が好きよね。土地と管理コストの無駄でしょ」


クリスの国イギリスには【邪神大戦】の遺物と化した廃墟街が幾つも有り、そこで市街地戦を行う。

日本は学園領域内の特定学区で行うが、そこは基本的に立ち入り禁止となっている。

わざわざ市街地戦をする為だけにだだっ広い土地を用意するのは狭い日本だと文句を言われても仕方ない。


「次の試合には期待してるんだけどな。何せあそこにはあの人が居るし」


刻名館学園の生徒会長《矢田狂伯》

今の関東領域で龍帝学園以外の学生魔術師が紫闇を満足させられるとしたら、恐らく彼しか居ないだろう。

しかし彼は居なかった。

どうやら一回戦では出ないようだ。

紫闇は肩を落とす。

だが相手チーム5人と1人で対峙する刻名館の生徒を見て姿勢を正した。

自分と同じ総白髪の男子。

190㎝は有ろう身長に野獣めいた風貌から覗く鋭い瞳は迫力たっぷり。

にこりともしない真一文字の口と後ろに流れる獅子の鬣が如く逆立った髪。

1人で相手チームの全員を前にしているにも係わらず仲間の元へ逃げようなどという雰囲気は微塵も感じられない態度。


(こいつは強い。間違いなく。もしかしたらレックスよりも)


白髪の男子が魔晄防壁を纏い、装紋陣/サークルから魔晄外装を取り出す。

蒼穹の()と黄金の穂先の槍。


(何処かで……)


紫闇は男子の槍に見覚えが有るような気がしたが思い出すことが出来ない。

白髪の男子が動く。

右足を前に。

左足を後ろへ引く。

柄は顔ほどの高さ

穂先は地に着ける。


「あの構え、まさか……!!」


焔の祖父《黒鋼弥以覇(くろがねやいば)》は紫闇らと共に試合を見ていたが急に大きな反応を示して声を挙げた。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


圧巻。

白髪の男子は近付いてきた相手チームの3人を瞬く間に倒してしまう。

一人は間合いに入ると同時に喉を突かれ失神し、一人は攻撃を出すも回避された直後の石突きによる返しで沈み、一人は動くこともさせず眉間を弾かれ吹き飛ぶ。

遠距離から攻める残りの2人は全ての攻撃を躱して近付き一撃の下に気絶させる。

黒鋼焔が褒める程の腕前。

そんな人物の目がカメラの方を向き、画面越しに紫闇と視線が合った。

背筋が凍るとはこのこと。

紫闇は大量の冷や汗を掻く。

確信だった。

この男は紫闇(じぶん)より強い。

そして条件にも合う。

心を熱くする何かが有る。

間違いなく難敵の部類。

好敵手になり得るだろう。


「こんな強豪が今まで目を付けられずに居たなんて信じられない」


紫闇は捜していた逸材を見付けられて嬉しいが不思議な違和感を拭えなかった。

強いのに足りない。

あの白髪男子は紫闇が要求する何かが欠けてしまっているのだ。

それが何かは解らないが。


「兎にも角にも情報が要るな」


紫闇がどうにかして男子のことを調べようと考えたその時だった。


「やはり……九月院、じゃったか……」


弥以覇は心当たりが有るように言う。


「何か知ってるんですか?」

「うむ。【九月院(くげついん)】とは───」


戦国時代に生まれた槍術の一門。

知名度は極めて低い。

趣味で日本全国の特殊な武術を研究しているような物好きしか知らないという。

世界全体を見渡しても彼らと彼等の使う流派を知るのは50人と居ないとのこと。


「しかし本当の事を知っている者は総じて奴等を評価し断言する。あれは全ての武器術流派の頂点であり最強の術理であるとな」


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


「そう言えば爺ちゃんから何度か聞いたことが有るね。全盛期の『鬼神』と呼ばれていた頃の爺ちゃんを死の一歩手前まで追い込んだって」

「焔の言う通り。儂が戦ったのは[流永/りゅうえい]と言って九月院一門の槍術【天地崩穿流/てんちほうせんりゅう】の正統後継者じゃったんじゃ」


流永は一門の中でも最強の使い手に与えられるという【瞬崩/しゅんほう】の称号を受け継いだ天才でもあった男。


「あやつは秘境の出身だからか地方の(なま)りみたいなものが酷く、何を言うとるのか少し理解が難しかったのう。が、死合った強者の内でも五本の指に入る」


弥以覇によれば、白髪の男子がしていた動きからして流永の弟子であることに間違いないだろうとのこと。


「あやつめ。くたばっておらんかったか。久方振りに()うてみたいと思うとったが」


試合が終わった後であの男子生徒の名前が《九月院瞬崩》と紹介された。

しかしそれはリングネームとのことで、本来の名前が有るという。


《佐々木青獅/ささきあおし》


龍帝の一年だった男であり、紫闇に魔術学園での敗北を与え、紫闇に敗北した男。

紫闇もクリスも驚く。

【夏期龍帝祭】までは小学生なみの体格しか持たず、大した戦闘技術も無かった。

そんな彼が紫闇より20㎝ほど大きい190㎝程になり、筋骨も別人のように隆々。

戦闘技術も破格の高さ。

生物的に原形も面影も無い。


「何が有ったんだ佐々木……?」


紫闇は立ち上がり黒鋼の屋敷を出た。
 
 

 
後書き
_〆(。。) 
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