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戦国異伝供書

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第九十一話 会心の夜襲その六

「よかったわ」
「左様ですな」
「敗れましたが」
「それでもです」
「殿はご無事でしたし」
「七百程の兵が死ぬか傷付くかしたが」
 陶は死傷した彼等の話もした。
「死んだ者は百位でな」
「多くは傷付いただけ」
「手当が出来まする」
「安芸を攻められませんでしたが」
「これ位ならですな」
「よい、しかしな」
 ここでだ、陶はこうも言った。
「敵の総大将は毛利殿か」
「あの吉田郡山のです」
「毛利殿です」
「あの御仁です」
「初陣で武田家を破り次は当家か」 
 陶はその顔を険しくさせて言った。
「少しな」
「考えるべきですか」
「この度は」
「そうすべきですか」
「智勇兼備の御仁の様じゃ」
 元就を見抜いての言葉だった、今のそれは。
「だからこれよりな」
「どうされますか」
「この度は」
「どの様にされますか」
「うむ、殿にお話したい」
 義隆、彼にというのだ。
「毛利家とは今は争うべきではない」
「お強いので」
「迂闊に攻めるとですか」
「この様になりますか」
「だからな」
 それ故にというのだ。
「毛利殿とは手を結ぶべきか」
「そうされますか」
「この度は」
「そうされますか」
「是非な、ではな」
 こう言ってだ、そしてだった。
 陶は軍膳をまとめて戻った、そうして義隆に対して毛利家との和を話した。そのことは元就も忍の者達から話を聞いてわかっていた。
 それでだ、元就は家臣達に話した。
「ではな」
「では?」
「ではといいますと」
「大内殿と和を結ぼう」
 こう家臣達に話した。
「大内家がそう動くならな」
「そうされますか」
「ここで」
「その様にされますか」
「そうする、その証に人質を送る」
 今度は笑って言った。
「そうする」
「左様ですか」
「その様にされて」
「そしてですか」
「和を結ばれますか」
「手は打つ」
 和の為のそれをというのだ。
「ここでな」
「ではその人質は」
「どなたにされますか」
「その方は」
「太郎じゃ」
 嫡男である彼をというのだ。
「そうする」
「ご嫡男を送られるとは」
「それはまた」
「何、そこまでしてこそじゃ」
 元就は嫡男を人質に送るという自身の言葉に驚く家臣達に笑ったまま話した、彼だけは落ち着いている。 
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