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戦国異伝供書

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第九十話 尼子家の謀その十一

「しかしじゃ」
「その安芸の国人衆は」
「大内家の家臣ではない、だから先陣を務めておるだけでな」
「本陣の軍議にもですか」
「入っておらん」
 元就は断言した。
「先陣におるだけでな」
「では軍議は」
「大内殿と陶殿そして大内家の家臣達だけでじゃ」
「行っていて」
「安芸のことは知らぬ、大軍であっても」
 それでもというのだ。
「地の利はない」
「この安芸の」
「しかし我等はな」
「地の利がありますな」
「我等はこの国の者達じゃ」
「まさにこの国で生まれ育ってきた」
「それを活かす、この安芸は山が実に多い」
 そうした国だというのだ。
「そして山の中には道がある」
「山道が」
「その場所もどういった道かもわかっておる」
「まさに地の利は我等にありですな」
「左様、その分我等は有利じゃ」
「数が少なくとも」
「数が少ないなら少ない奈良で戦い方があり」
 そしてというのだ。
「勝ち方もじゃ」
「あるのですな」
「この度は別に敵を皆殺しにする戦ではない」
 元就はそれは断った。
「一撃を浴びせ帰ってもらう」
「そうした戦ですな」
「だからじゃ」
 それ故にというのだ。
「この度はな」
「地の利を活かして戦い」
「そして勝つ」
 その様にするというのだ。
「よいな、だからな」
「それがしもですか」
「その武勇は必ず役立ててもらう故」
「血気に逸らずに」
「そしてじゃ」
「勝手に動かぬことですな」
「若し先駆けなぞしては」
 どうなるか、元就は弟に告げた。
「お主でもな」
「切られますか」
「そうする、言った通りにな」
「はい、それがしも兄上に切られたくありませぬ」
「わしもじゃ、味方は切りたくないが」
「特にですか」
「左様、お主はな」
 元網、弟である彼はというのだ。
「特にじゃ」
「左様ですか」
「だからくれぐれも頼むぞ」
「はい、家中は一つであれ」
「毛利家はそうでなけばならぬ」
「だからですな」
「お主はその武勇から九郎判官殿の再来と言われておる」
 源義経、鮮やかなまでの戦いぶりで知られたこの者の様だというのだ。これはこれ以上はないまでの誉め言葉だ。
「しかしわしはな」
「鎌倉殿にはですか」
「なりたくない」
 こう言うのだった。
「決してな」
「だからですな」
「それでじゃ」
 まさにというのだ。
「くれぐれも頼むぞ」
「はい、それがしもまた」
「九郎判官殿の再来と言われてもじゃな」
「九郎判官殿の様なことにはなりたくありませぬ」
「あれは惨い話だ」
「全く以て」
「わしはどうしても鎌倉殿は好きになれぬ」
 源頼朝、彼はというのだ。
「そう言う者は多いであろうが」
「兄上もですな」
「そうじゃ、だからな」
「鎌倉殿の様にはならぬ」
「子達もじゃ」
 自分の子である彼等もというのだ。
「一つにまとまる様にな」
「その様にですか」
「育てていく、幸い奥は多産の様でじゃ」
 それでというのだ。
「子は多い、ならな」
「それならですな」
「その子達にもな」
「一つになる様にですな」
「言っておく」
 こう元網に話した、そしてだった。
 元就は自身が率いる安芸の国人衆達の軍勢を秘かに進ませた、彼等の前には主力を置いて自分は元網と共にだった。
 精兵を率いて進んでいた、そうしつつ会心の手の用意をするのだった。


第九十話   完


                     2020・3・15 
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