不敗将軍
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第一章
不敗将軍
ナポレオンの将軍の中ではだった。
ルイ=ニコラ=ダヴーという男は冴えない外見だった、髪の毛は禿げ上がり顔立ちもぱっとしない。軍服も今一つ似合わない感じだ。
だがどの国の者達もこう言った。
「あの男が一番厄介かもな」
「フランス軍第一の将軍かもな」
「ダヴ―将軍がいればこそだ」
「ナポレオン=ボナパルトはかなり助かっている」
「若し彼がいなければどうか」
「ネイ将軍やベルナドット将軍もいるが」
「やはりダヴー将軍だ」
フランス第一の将軍はというのだ。
「あの将軍の存在は実に大きい」
「攻撃も防御も抜群だ」
「特に守らせれば右に出る者はいない」
「よくフランス軍にいるものだ」
「非常に素晴らしい将軍だ」
こう言うのだった、そうしてだった。
どの国の者達もダヴーを警戒しかつ敬意さえ持っていた、だが。
フランス軍の若い士官達はこんなことを話していた。
「ダヴ―将軍の下にはいたくないな」
「全くだな」
「軍規軍律に厳し過ぎる」
「特に我々厳しい」
士官達に特にというのだ。
「言葉使いもな」
「冷たいしな」
「しかも粗野な感じだしな」
「あの人あれで貴族出身だろ」
ダヴーの出自のことも話された。
「確か」
「下級でもな」
「代々軍人の家だったんだよ」
「それで士官学校にも入ってるよ」
フランス王国陸軍士官学校にというのだ。
「そうしてるよ」
「それで共和主義に賛同してだったな」
「共和主義の為に働いていたんだな」
「そこは立派だがな」
それでもとだ、彼等は言うのだった。
「あの厳しさは嫌だ」
「言葉使いもどうかって思う」
「しかも服装に無頓着で臭いしな」
その服がというのだ、あまりにも古く。
「ああした人の下にはいたくないな」
「何かと大変だからな」
「幾ら有能でもな」
「あの人の下にはいたくないよ」
「全くだよ」
こんなことを話していた、そしてだった。
フランス軍の士官達はダヴーの下につくことを嫌がっていた、また同僚の一人であるベルナドットは同じく同僚であるネイに忌々し気に言っていた。
「卿は違う考えだが」
「ダヴー卿のことか」
「そうだ、私は彼は嫌いだ」
心からの言葉だった。
「彼の真面目さと公平さ、無私の気質は認めるが」
「それでもか」
「彼は嫌いだ」
これまたはっきりと述べた。
「どうしてもな」
「好きになれないか」
「あの口調、厳し過ぎるところがだ」
「嫌いでか」
「私は彼とは距離を置いている」
感情的にそうしているというのだ。
「そこが卿とは違う」
「確かに彼は付き合いにくい」
ネイもこのことは認めた。
「私もそのことは認める」
「しかしだな」
「彼は私がない」
ネイはダヴーのこの気質を大きく取り上げた。
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