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戦国異伝供書

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第八十九話 初陣での大手柄その十二

「一応猿渡城が居城でな」
「この吉田郡山城には詰めていた」
「そうなっておったが」
「正式にですね」
「この城に入ってな」
 そうしてというのだ。
「家中と領地を治めていく」
「そうしていきますね」
「そしてじゃ」
 元就は妻にさらに話した。
「お主にもな」
「これからは」
「色々と頼む」
「わかりました、それでは」
「その様にな、では喉が渇いたからな」
 それでというのだ。
「水を飲むか」
「もう夜ですからお酒は」
「今宵はよい」 
 それは笑ってよしとした。
「別にな」
「だからですか」
「うむ、それではなくな」
「お水ですか」
「それにする」
「お茶でもなく」
「あれは高価であるからな」
 それでというのだ。
「よい、しかも飲むと目が冴える」
「そういえば僧籍の方が飲まれます」
「寺でな、あれは修行の時眠気を覚ます為じゃ」
「それでお茶を飲みますか」
「それでじゃ、夜はじゃ」
「お茶は飲まれず」
「水を飲んでな」
 そうしてというのだ。
「それでな」
「休まれますか」
「水が最もよい」 
 元就は笑ってこうも言った。
「飲むには」
「特に夜には」
「そうじゃ、ではな」
「はい、今宵は」
「水を飲んでじゃ」
 そのうえでというのだ。
「休もう」
「わかりました、では持ってきます」
 妻は自ら言って元就に水を持ってきた、そして元就はその水を飲んでから休んだ。毛利家の主に正式になる前のことだった。


第八十九話   完


                  2020・3・8 
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