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儚き運命の罪と罰

作者:望月
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第二章「クルセイド編」
  第十五話「お尋ね者 フェイト・テスタロッサ」

 
前書き
新年初投稿です!あけましておめでとう! 

 
次元輸送船プルート…
本来は戦闘に縁のない筈の輸送船は今嵐が訪れていた。

「ヒイッ、来るな…!た、頼む、こないでくれぇ!」

船員達は皆倒れていた。戦闘の素人には気絶と死の見分けはつかない。
教えてやってもコイツは拒むだろう。やれやれ、

「抵抗しなければ、直ぐに楽になれるのにな。残念だ。」

「や、やめろ、止めてくれ。頼む!」

「もうおせぇ。…ラピッドファイア!!」

俺のデバイス…ドラゴンソウルの銃身から二発の魔力弾が放たれた。
当てもしなかったのに船員は泡を吹いて気絶した。無理も無いだろう、非殺傷設定かどうかも向こうには判別する術も無いから自分が死ぬかも知れないって恐怖があっただろうし、俺の魔力弾はそんじょそこらの物とはわけが違う。

「悪いな。」

心の底からそうは思う。この船員を含めこのプルートの人間に罪はない。殺さないとは言えそんな恐怖を味あわせるのはもう立派な犯罪だ。俺はクルクルと銃剣を回した後一閃した。

「ていやぁっ!!」

ライフルでの射撃は基本。それだけじゃあ足りない。俺には接近戦の心得も有る。
今の一撃でプルートの通信機は全て破壊した。

「お見事です、マイロード。」

「よせやい、朝飯前だ今のは。先行くぞ。」

「了解です。」

この広い次元世界で魔道士に勝る戦力は基本的には無い。だけど魔道士は数が少ない。それだけではこんな輸送船の警備にはまるでならないのも事実。

「だからってここまで用意するかね…」

俺の眼前には警備用の自動機械が山のような数の銃口を俺に向けている景色が合った。その数およそ50。

「シンニュウシャノゲキタイヲハジメマス」

「機械的だよなぁ…本当に。何言ってるのかさっぱりだぜ。」

凄まじい集中砲火は俺のその台詞が終わる前から始まっていた。
それにたいして俺はドラゴンソウルの中心をもって高速で回してその玉を弾き落とす事で対応した。カカカカカと廊下に響く。

「……見つけた!」

回るドラゴンソウル越しに俺はその弾幕に僅かな穴があるのを確かに見た。

「そこぉ!」

コンマ一秒の間にカートリッジをロードする。魔力が弾け手に力が伝わる。
それらを一気に解き放つようにして俺は放った。

「ソリッドバレット、シュート!!!」

尾を引く流星の如く、凄まじい速度で魔力弾を連射する。
奴らの弾幕の穴を縫い、弾丸は俺の叫びと共に炸裂する。
自動機械達は砕けて消えた。

「…そんなもんだよな。」

所詮警備のための最低限の武装しか積んでいない自動機械。火力の低い俺でも一撃でアレだけの数を全滅させる事ができた。念のため『天上眼』を使って確認する。

「反応は…無し。」

「お疲れ様でした。マイロード。」

「いや、まだ終わってないだろ、帰るまでが戦いだ…ジャック。」

最後は通信機に向けて言った。

「もう準備はできてる。ずらかるぞエレギオ。」

「早くしないと置いてくぜぇ。」

「おいおい、そりゃ勘弁だっての。」

そう言って最後にもう一度船内を見た。罪悪感などは感じない。
そんな物感じても今更どうしようもない。もう引き返せない所の…その最果てまで行っている。
だがー

「………チッ。」

俺は転移魔法で輸送船プルートを脱出した。



「コイツを見ろ、リオン。」

なんだ、と車椅子の上で言った。

「これはフェイトちゃんだよな?」

銀髪のとても優しい医者は…それでも似合う険しい顔をしてリオンに新聞を突きつけた。
反管理局連合日報。「プレシアの娘のクローン現れる 至急捕縛されたし」
そんな見出しがでかでかと載っていた。
至急捕縛されたし。
口の中で僕は反芻した。

「エドワード。」

「俺の事をそう呼ぶのはお前だけだぜ…何が聞きたい?」

「これは何の冗談だ?」

エドワードは悲しげに笑った。

「冗談だと思うか?」

到底思えない。僕はこの次元世界の情勢を知ってしまっていた。どこでどうやってフェイトの事を醜い山犬が掴んだのかは知らない。だが反管理局連合とプレシアの間でいざこざがあったというのは誰でも知っている常識。
…それをフェイトにも擦り付けるのか。

「反管が追ってるってことは間違いなく管理局も追ってる。」

「だろうな。」

車椅子の上で、エドワードに新聞を投げ返した…正直なところ引き裂かなかった自分を褒めてやりたい気もする。

「けどこれはそれだけじゃねえよな。『お前』、何を隠している?」

………ここまでか。いや、だがその前にせめてこれは。

「このことはあいつらには?」

「伝えてねえ。もっとも時間の問題だろうけどな。」

「そうか、じゃあお前が僕に言った事をそっくり返そう。お前…いや、お前達は何を隠している?
次元宇宙賊ツァーライト一味のお得意様の医者らしいな、エドワード・クリスティ。」

結局の所闇医者と言うのは当たっていたのだ。気付かない振りを保ちつつ治療を受けていたが…こうなってしまえばもうなりふり構っている事はできない。
ピクリとエドワードの太い眉が動いた。

「………訳知りじゃねえか。」

「最初に貴様はエレギオの名前を一瞬だけ出したな。そんなにいる名前じゃない。決定的だったのはジャック・サリヴァンが居たことだがな。」

「ジャックの顔は手配書にはないぜ。エレギオと違ってあの名前はそこら中にいるのに名前だけで推測したのか?」

「操縦士、指のタコが手袋越しでもわかるくらいの。騙せるとでも思ったか?」

気難しい顔のままエドワードは低く唸った。

「ならお互いに隠し事なしで行こうや。その方がお前にもよさそうだ。」

「僕がそれにのってやる道理は無い。」

「その足でか?」

…それだけが問題だった。もし足さえ動かせればこんな所早々に別れを告げてどこか別の場所に行く事を目指しただろうが。ままならない物だ。だがエドワードは意外なことを言った。

「悪い、今のは失言だ。忘れてくれ、患者の怪我治すのが医者だ。その患者がどんな奴だろうと。」

「なに……?」

「今の話は無しで良い。患者でいる内はお前とフェイトちゃん達の安全は俺が保障する。」

「患者でいる内は、か。」

「ああそうだ。」

暗に話せと言っているのだろう。クルセイドはただでさえ厄介な土地。そこで何の後ろ盾もなしに生きていく事はきっとできない。いや僕だけなら何とかなるだろうがフェイトとアルフがそこに加われば…いやどちらか一人でも危うい。それをこの男は見越している。
…だがこんな回りくどい手を使う必要は本来は無い。この聡い男がそれに気付かないとは思えない。
だとしたらそれはこの男の医者としてのプライドか。それとも優しさか。
僕は其処に賭けて見ることにした。

「いいぞ、話してやろう。」

「なに?」

「貴様がそう仕向けたんだろう?」

「まあそうとも言うが…意外にあっさりしてるな。」

「そう思うならお前から話してくれると助かるんだがな。」

髪を書き上げて、まっすぐに医者を見た。彼は何となく気まずそうに目を逸らして一言。

「先に言っておくが俺は一味の一員じゃあねえぞ。」

本当にただちょっとした縁があっただけ。エドワードもそれだけで光から堕ちていった者だった。


「なあ、リオン。目の前に極悪な犯罪者がいたとするよ。お前はどうする?」

「どうするって…」

「ソイツを捕まえるか?」

リオンは直ぐには答えられなかった。
エドワードは極悪な犯罪者と言った。それはエレギオ・ツァーライトの事なのだろう。
決して悪人とは言わなかった。

「俺は、あろうことかソイツに興味を持ったのさ。何でそんな事をやってのけたのか…俺はその時大学を出て医者になったばっかりだった。人の命云々ってな…重いとか軽いとかまるで知りもしなかったんだよ。」

「…エレギオ・ツァーライトの初犯は管理局要人の殺害だったな。」

「詳しいな、プレシア・テスタロッサから聞いたのか?」

「まあそんな所だ。」

本当の所「プロジェクトF・A・T・E」について調べる過程でリオンは知ったのだが。否定するのも面倒でそう言った。エドワードもそれで納得したのか深くは追求せずに話を続けた。

「俺は興味が出たのさ。人を殺すってどういう事なのか、殺した奴の命も俺が見てる患者のそれと同じに尊いのか…だからボロボロになってたエレギオとジャックを匿って治療した。」

だがその当事隠蔽の方法など欠片も知らない若者が隠しとおせるものではないと言うのはすぐに創造できること。数日もたてば直ぐに管理局クルセイド支部から出頭の命令が来たとエドワードは語った。

「だが俺はそれを突っぱねた。僅か数日間の間に俺は10も年下のあいつ等に兄弟みたいな情が移ったらしい。幸い手配はされずに済んでるけど医者になんかなれるはずも無いよな。」

「それで闇医者を?」

「クルセイドは行き詰った世界………闇医者を求める声は余りに多い、と言うことを俺はなってから初めて知った。」

「知ってからわかる…本末転倒も良い所だな。」

苦笑いをした後エドワードは「そう言うな」と言った。

「表にいる奴には闇がどれだけ叫んでもその声が届く事は無い。魔道士の念話が凡人(おれたち)に聞こえないのと同じように、それはお前だって知っていると思うが?」

「……何の根拠を持って。」

医者は鼻をこすった。…その意味することはリオンもわかる。闇に生きるものには独特の臭いがする。犬でも嗅ぎ当てる事ができないが同じ者にはわかる。リオンがエドワードからそれを嗅ぎ取ったのと同じ様に彼もまたリオンから嗅ぎ取ったのだろう。
…もっとも、気持ちの良い臭いではない。何かを諦めてしまった臭い。

「だから結構儲かってるんだぜ。連中の事抜きにしてもな。」

「だろうな。であれば患者とは言え僕達の衣食住を完璧にまかなう余裕も無いだろう。僕たちはお前達に払える金など無いからな。」

「わかってるとは言え威張って言われると微妙だなそれ…」

「貴様の話を聞く限りでは僕達で始まった事じゃない様だが…?」

「はっはっは、違いねえ。エレギオに言わなくちゃいけねえなその台詞。」

何時の間にかエドワードの手には紅茶のポッドが握られていた。砂糖は何粒?と訊く。
3、とリオンは答えた。

「お前は執事の経験でもあるのか?」

「似たようなモンならあるぜ。」

「ふーん……」

エドワードも自分のカップに紅茶を入れて息を吹いて冷ますこともせずガブリと一口。コーヒーも紅茶もそう飲む男だと知っていた。
知っているほどにもう付き合いは安い物ではなくなっていた。

「さて、俺が話せることはここまでだ。」

一口で飲み終えた紅茶を置く。

「お前は、何を話すんだ?」

「…その前に、フェイトと話をさせて貰えないか?」

「いいだろう、魔法関係者でなきゃわかんないこともあんだろ?俺もエレギオ達を待つことにする。」

「悪いな。」

「気にするな。それにそれはお前でなけりゃあできない事だ。」



「ほらここはこうやって結べば……(ほど)けないでしょ?」

「うわぁ…すごいねマーク。」

その頃フェイトはあの日料理を運んできた少年…マークとすっかり仲良くなっていた。
マークはフェイトより三つも年下なのに物知りで、紳士的だった。
もっともそう言うと決まってはにかみながら「ちょっと器用なだけだよ」と答えるような少年なのだが。

「この位は直ぐにフェイトちゃんもできるようになるよ。」

「そうかなぁ…」

今、マークがフェイトにやって見せているのはクレストループと呼ばれるクルセイドの綾取りみたいな物だった。フェイトは綾取りも知らないのだがリオンがそう教えてくれたのだから間違いない。

「まあでも今日はこの辺でね。クレストループは雨の日でもできるから。」

「そうだね。じゃあ次はどうする?」

「次は……」

その時ドアがバタンと開いた。

「あ、リオンさん。どうした…の?」

少なからずフェイトは驚いた。実際彼女がそこそこ明るく振る舞えていたのはリオンの推察通り空元気もあったのだがそれはここで過ごす日々が安寧に満ちていたからだ。
だがリオンの表情は、地球にいた頃のそれと何ら変わりない…いや、より険しい。
嫌な予感を感じて立ち上がった。

「フェイト…話がある。」

「なに?」

空気を読んだのかマークは席を立っていた。

……数秒後、私は絶句することになる 
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