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ソードアート・オンライン~漆黒の剣聖~

作者:字伏
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アインクラッド編~頂に立つ存在~
  第二十九話 剣の頂に立つ者vs冥界を統べる王

扉をくぐった先は、緑あふれる自然があり、穏やかな川が流れ、心地よい風が吹き抜けていた。その中を自由に飛び交いながら美しいさえずりをしている小鳥たち。周りを見渡せば所々にいろいろな動物たちが戯れていた。まるで楽園というべき場所であった。

「・・・・・アルルだとでも言いたいのか?」

アルルとは、古代エジプト神話における死後の楽園のことである。しかし、古代エジプト神話のアルルとは、永遠のナイル川三角州の土地の様な葦原であるため、伝承とは全然違う。おそらく、高嶺恭介なりの楽園とはこういうものを言うのだろう、とソレイユは勝手に結論付けると 、とりあえずいくあてもなく歩き出した。どこに行けばいいのかわからないが、じっと していても埒が明かないと思い行動を起こすことにしたのだ。

「・・・・・のどかだな」

歩きながら周りを見渡して一言ポツリとつぶやいた。立ち止まり、近くにいた動物たちに向かっておいでと手招きすると、何の躊躇もなく動物たちはソレイユの足元に群がってきた。その中の猫らしき一匹を抱き上げ、歩き出すと動物たちまで一緒についてくる。結構な数の動物を従え(?)ながら森の中を歩いていくと、開けた場所に出た。

「・・・ずいぶんと呑気なものだ」

その中心にある大樹の根元で動物たちと戯れている姿のオシリス。そんな光景を見てソレイユはため息交じりに呟いた。遠くから眺めていても仕方がないので、とりあえず 大樹の根元の方に歩いていく。ソレイユが近づいていくと、オシリスは動物たちと戯れながらソレイユに話しかけた。

「いい場所だろ?」

「・・・そうだな」

訪れる沈黙。オシリスは穏やかな表情で動物たちの相手をしている。それに毒気を抜かれたのか、大樹の根元に腰を下ろし動物たちと戯れていく。そんなとき、オシリスの方から話しかけてきた。

「今、他の扉に入った二人が戦い始めたぞ」

「ふぅ~ん」

オシリスの言葉にそっけなく返すソレイユ。そのソレイユの態度に疑問を感じたオシリスは質問を投げかけた。

「心配じゃないのか?相手は・・・」

「アヌビスとアミメットだろ?死者の書に登場する冥府の神官と魂を喰らう幻獣だ」

「・・・・・・よく知ってるな。それでも心配とかしないんだな?」

「ああ、これっぽっちもね」

薄情とも、信頼しているとも取れること言葉を述べるソレイユ。そんなソレイユにオシリスは唖然とするが、今度はソレイユから口を開いてきた。

「次はこちらからの質問をいいかな?」

「ああ、どうぞ」

「ここはなんだ?」

ソレイユの質問にオシリスは普通に答える。

「死後の世界とはどんなものかを考えた結果がこれだ」

「・・・・・そうかい。なら、あんたはさしずめ冥府を統べる王ということだな」

言い終えるのと同時 に再び沈黙が訪れる。心地よい風がオシリスとソレイユの頬を撫でていくなか、急にオシリスとソレイユの周りで戯れていた動物たちが森へと消えていく。まるで何かにおびえるように。
その原因は、ソレイユだった。アポカリプスと戦った時のような闘気を放っていたが、オシリスはそれを受けても平然と言った。

「もう少しゆっくりしていてもいい気がするんだが?」

「・・・そうしたいのはやまやまなんだがな。さっさとルナのもとへ帰ってやんないといけないんだよ。あんまり遅くなると、寂しくて死んじゃうらしい」

「・・・・・案外、可愛いとこあるんだな、あの娘」

面倒を見ていた娘の意外な一面を知って驚くオシリ ス。それにソレイユは苦笑いしかできなかった。出会った当初は、文武両道でしっかりとした女の子というイメージがあったが、恋人として付き合っていくにつれ、寂しがり屋なあまえんぼうだということが分かった。それでも、以前と変わらず公私はしっかりと分けているので、その姿を知っているのはソレイユのみとなっている。

「・・・・・だから、ルナに死んでもらっては困るのでさっさと帰んないといけないんだよ」

「・・・・・そうか。ちなみに聞くが、あの娘はこのことは?」

「知らないよ」

「・・・・・そうか」

立ち上がりながらウインドウを操作して大剣を装備するオシリス。ソレイユは大樹から少し 離れたところで刀は抜かずに長刀を抜き、目を瞑り悠然と構えをとる。今までを見てもあまり構えたことのないソレイユだが、今回だけは違った。本気だ、ということが雰囲気を見ただけでわかる。そんなソレイユに向かい合うとオシリスは大剣を構える。こちらもさっきまでの雰囲気とはまるで違った。
風が頬を撫でる中、気を張り詰め相手の出方をうかがうソレイユとオシリス。刻一刻と時間が過ぎていくが、二人は全く動かない。

少し強めの風がソレイユとオシリスの頬撫でた。

「っ!?」

仕掛けていったのは―――――ソレイユだった。
一瞬でオシリスとの間合いを詰め、袈裟斬りを放つがオシリスはそれを大剣で受け流し、カウンタ ーを仕掛けていく。だが、いまさらそんなカウンターを喰らうソレイユではない。放たれたカウンターをあっさり躱し、再び斬りかかっていく。袈裟斬りからの右切上げ、そこからの唐竹割りを繰り出していくが、その悉くをオシリスは防いでいく。舞い踊る長刀と大剣。奏でるは金属同士の甲高い衝突音。幾度となく繰り返し打ち合うその姿は、まるで演舞をしているか、と言いたくなるようなPvPであった。このゲーム内において最高峰に高められた実力者同士の均衡した闘いが行われていた。しかし、その均衡は簡単に崩れ去り、新たな演舞を披露していく。

「埒が明かないな・・・」

一言呟いたのはソレイユ。すると、長刀を振りかぶるのではなく、刀身の峰へ左手を添え、刀をもった右手を強く引き絞った。次の瞬間、閃光もかくやという凄まじい速度で刺突がオシリスの意表をつくかたちで放たれた。

「なっ!?」

驚きに声をあげてしまうオシリスだったが、そこは熟練のプレイヤーであった。とっさに大剣で防ごうとする。しかし、ソレイユの方が一枚上手だった。
放たれた刺突が、防御に使われた大剣をすり抜けるように軌道を変えた。その先にはオシリスの顔面がある。咄嗟に顔を横にそらしたが、頬の辺りを掠めてしまう。

「ちっ!?」

舌打ちをして距離をとるために後方に向けて地面を蹴った。ソレイユは追撃する様子を見せず、残心を行っていた。ある程度距離が空けるとオシリスは 口を開いた。

「流石はレジェンド・クエストや三界の獣神を単身でクリアしただけのことはあるな」

「つかれたけどな」

「二つほど聞きたいんだが、どのクエストをやった?どの界位を相手にした?」

「レジェンド・クエストの方はフェニックスの守護、三界の獣神の方はクリスタル・オーシャンだ」

「・・・・・道理でな。アポカリプスがきみを選ぶわけだ」

「何がだ?」

オシリスの言葉に疑問を感じるソレイユ。オシリスは感嘆した様子で説明を始める。

「きみが≪剣聖≫を発動させたことに納得がいったんだよ。剣聖の発動条件は二つ。一つ目は全ソードスキルをある程 度マスターしているということ。もう一つがこの世界で一番の使い手だってこと。つまりはこの世界で最強に与えられるユニークスキルが≪剣聖≫ってことだ。まぁ、それはアポカリプスの独自の判断によるものなんだがな。それで、アポカリプスが≪剣聖≫を持つにふさわしいかを判断するために戦いを仕掛けるという訳だ」

「・・・・・なるほど、だからあの時アポカリプスは現れたわけか。だが、おかしいな、あの時はまだレジェンド・クエストはクリアしてなかったぞ」

「変わりにフロアボスを単独で撃破しているだろうが。その後、レジェンド・クエストを単独で突破できるほどの実力を持つきみとシリウス、ベガ。その中でアポカリプスと邂逅し、ソードスキルをほとんどマスターしているのはきみだけだからな。だから、ソレイユ、きみに≪剣聖≫が宿ったというわけだ」

「ふぅ~ん」

興味がないというような感じで頷いたソレイユはオシリスに斬りかかっていく。しかし、何の変哲もない袈裟切りを喰らうほどオシリスは甘くない。ソレイユの斬撃を受け止め、鍔迫り合いになっていく。そんなとき、鍔迫り合いをしながらもオシリスはソレイユに向かって疑問を投げかけた。

「不思議だな。きみの剣からは憎しみも怒りも感じない」

「・・・・・ずいぶん難しいことを言うんだな」

「君ならわかるはずだよ。剣で語る、ということが」

「・・・・・・」

オシリスの言葉にソレイユは無言を貫くが、オシリスは言葉を続けていく。

「きみはおれが、おれたちが憎いとは思わないのか?自分勝手な理由でこんなことになり、きみたちの時間を奪っている。きみたちの命をもてあそんだに等しい。なのにきみは怒りも憎しみも抱いていない。なぜだ?」

「・・・・・ハァ。そんなことか」

「そんなこと?」

呆れを含むソレイユの言い草に眉をひそめるオシリス。ソレイユは一瞬だけ力を込めて、鍔迫り合っていた刃を弾く。弾かれた力に逆らわず、後退するオシリス。少しばかり距離が開いたところで、ソレイユはオシリスの質問にどうでもいいというような感じで答えていく。

「ああ。ぶっちゃけた話、そんなことはどうだっていい。死にたくないのなら剣を持たなければよかったんだ。剣を持った奴はその時点で死と隣合わせだ。それで死んだ奴は実力がなかっただけ。それだけだ」

「ずいぶんドライな考え方をするな。じゃあ、きみはおれたちには何も感じていない、と?」

「・・・いや、感謝してる」

「感謝?」

意外な言葉が出てきたため驚くオシリス。そんなオシリスを見たソレイユは人を食ったような笑みを浮かべている。

「ここに来なければおれはルナと出会うことはできなかった。笑い合うことも、幸せを感じることも、愛することさえもできなかった。ルナだけじゃない。シリウスともベガともキリトやアスナ、エギルやクラインたちとも出会うことはできなかった。だから、感謝してる。ここに来たことで、おれはかけがえのないものを手に入れられた」

「・・・・・・・」

呆然となるオシリス。それもそうだろう。憎しみを抱かれたり、罵られてもおかしくないことをしているのに、そういったものとは無縁の言葉を言われたのだ。予想外もいいところである。

「オシリス、高嶺恭介。おれはお前に刃を向ける。だがそれは、決して憎しみや怒りを抱いているからではない」

「・・・・・なら、何を持ってきみはおれの前に立ちはだかる。他にとらわれている人達のためか?」

「そんな正義感はおれにはねぇよ」

「では、なぜ?」

おれはヒーローでも英雄でもない、と苦笑いしながら言い張るソレイユに疑問を禁じ得ないオシリスは問い掛けた。そんなオシリスにソレイユは至極当然といった感じに答えていく。

「“わたし”の剣に善も悪も存在しない。ただ、“わたし”が貫き通す信念のために振るうのみ―――」

純粋な言葉がソレイユの口から漏れる。

「―――それが“わたし”の剣の在り方」

刀の切っ先をオシリスに突き付けながらソレイユはなおも言葉を紡ぐ。

「善も悪も関係なく。ただ、“わたし”が剣士であるが故に――――
Auf Wiedersehen――――安らかに眠ってくれ、オシリス・・・高嶺恭介」
 
 

 
後書き
さぁ、はじまりました!因縁(?)の対決、ソレイユvsオシリス!!
この先どんな展開が待っているのか、こうご期待!!

ソレイユ「やっと決着がつけられる相手だな」

まぁ、いつぞやのとき以来ですからね~
今回はこの程度にして、また次回を楽しみにお待ちください!
では、感想などがありましたらお待ちしております!!

あ、あと最後に第二十五話を少しばかり変更したことをここにお知らせします 
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