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SAO--鼠と鴉と撫子と

作者:紅茶派
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15,新たな武器

 
前書き
久々に来たら、サイト名が変わってた(笑)
春風の方に入っていたらしい。 

 
いつもなら10分の道を一時間もかけ、俺とヤヨイは主街区へと到着した。
正門から入ってくる俺達を見て、道行くプレイヤーが、次々と道を開けてくれる。

最近、転移門がアクティベートされたばかりの第24層は観光客や攻略組を含め、多数のプレイヤーが行き来している。
その中をモーゼのごとく人を割って進む俺達は注目の的となっていた。
お陰で直径5メートルはあろうかという大きな荷物には、今のところ誰にもぶつかっていない。

一歩踏み出す毎に膝関節が軋みをあげる――気がする。
SAOの設定に膝関節耐久値のパラメーターがあれば、俺の膝は間違いなく全損中だろう。
ただ幸いにもそういうパラメーターも信号入力もない。

ただ、あまりにリアルな重みでそういう気分になっているだけなのだ。

「ふぅ、やっと終わった」
「ぇぇ……本当に疲れました」

息を吐いて、大荷物を街の一角に置く。ドスン、とSAO内での脚色された音声が主街区のBGMを通り越して、広場中に響き渡る。
その音で目の前にいた老婆が眼を開いた。
このNPC、俺に馬鹿でかい荷物を渡したら、ワープして寝てましたってことだよな?
設定とはいえ、さすがに許しがたい。

「いやぁ、最近の若い子は関心だねぇ。これはお小遣いだよ」

ふぉふぉっふぉ、と婆さんは笑いながらバックから次々と物を取り出していく。
ポーションから始まっていき、モンスターの素材、転移結晶と高級品ばかりがずらりと姿を表していく。
報酬は確か低確率で結晶やら高級インゴットやらももらえたはず。思わず、舌なめずりをした。

バッグが大分小さくなった所で、謎の石像を満足そうに取り出す。そこで、婆さんの動きがピタリと止まった。
なぜだかコチラを向いて、ニッコリと微笑む。

「この石像がピッタリだねぇ。お前さん達、大事にしておくれよぉ」

次の瞬間、他のアイテムが次々とバックの中に収納されていく。思わず俺は転移結晶に手を伸ばしたが、あざ笑うかのように結晶はバッグへと吸い込まれていった。
バックは俺が持っていた時の3分の1程度の大きさになり、婆さんはそれをヒョイっと担ぐと圏外の方にとことこと歩いて行った。

きっと、また圏外の安全地帯で荷物運びのクエストを受け付けているのだろう。他のプレイヤーがやるとは思えないけど。

クエストの結末を見守っていたプレイヤー達が三々五々に散っていく。
攻略本の更新を待つまでもなく、あのクエストは外れだと流通するだろう。なんせ強制オブジェクト化された大荷物を運ぶクエストなんて誰もやりたがらない。

「クロウさん、どうしますか?この……コボルト像」
「いや、ワーウルフとかじゃない……多分?」

動物の耳がついているあたり獣人系のモンスターだとは判別できるのだが、それ以上にはわからない。
とりあえずストレージに入れてみると、アイテムの名前もモンスター像となっていて、結局ナニかわからなかった。

よく言えば抽象的、悪く言えば下手くそだ。

「ストレージ圧迫するだけだし、売ろうぜ。ついでに装備新調しない?」

この24層には攻略最前線ということもあり、多くの職人プレイヤーが滞在している。
市場自体の大きさは小さいが、それでも品揃えは現在最高に近い。

ヤヨイの同意を得て、俺達は市場へと繰り出した。



市場は恐ろしいほど盛況で、所狭しとプレイヤーショップが軒を連ねていた。
武器に防具に、装飾・服飾。果ては食事まで様々な生産系プレイヤーが声をはりあげている。

一軒一軒をゆっくりと回っていくが、これという逸品には巡りあえていない。

「う~~ん、なかなかイイのがないなぁ。ヤヨイは?」
「ブーツはそこそこのものが。ただ、今日は武器を探しに来たので」

どうやらお互いに不調なようだ。

プレイヤー市場でアイテムと巡りあうなんてリアルラックもいいところだ。こればっかりはカーディナルシステムだろうが何だろうがどうしようもない。
これさえ解決してくれれば、MMO固有のでの市場巡回がなくなって画期的だったのに。

「……物欲センサーを解除するバフとか茅場作ってくれなかったのかなぁ……」
「物欲センサーって何ですか?」

ヤヨイは手に綿飴らしきお菓子を持って、首を傾げている。

「探しているときは全く見つからず、探していない時とかに見つけることのネットスラングだよ」
「ああよくありますね。探していた古刀を諦めて新刀を買ったら、次の月くらいに古刀を見つけてしまった……とかですね」

よくは分からないが、納得してくれたみたいだ。
……というか、もの凄い事をサラリと言った気がする。気のせいだろう、うん。

「まあ、とにかくそろそろ戻ろうか。市場も終わりみたいだし……ん?」
俺は市場の端に何やら強烈な違和感を感じ、立ち止まった。

ごく一般的な商売用の絨毯に幾つかの武器が並んでいる。
片手剣から両手剣・斧・ナイフに至るまでプレイヤーメイドでありながら何処か洗礼されたデザインの品々。
モンスタードロップの商品と違い、プレイヤーメイドの商品は腕によりその光沢が微妙に変わる。
この店の商品達はどれも他の商品たちとは一線をかしていた。

そして、なぜか店先にいるのが少女だという点も妙な違和感を覚えてしまった原因だろう。
ショートカットに切りそろえた髪をピンで止めただけの茶髪。
幼さの残る顔つきは、客がいないにも関わらず強張っている。
両手もしっかりと閉じた足の上でグッと握りしめてしまっていて、とても商人とは思えない。

「ちょっと行ってみよう」
ゆっくりとした足取りで近づいていく。店の前に止まった所で、少女はハッと顔を上げた。

「ッツ!!い・・い・・・らっしゃい……ませ」
唇が奇妙な形に釣り上がる。眼は俺の顔を中心にとんでもないスピードで動きまわっていて、見ているこっちが気疲れしそうだ。

「ちょっと商品見せてもらっていい?」
俺の提案に少女はブンブンと首を縦にふる。曖昧に笑ってお茶を濁しながら、俺は商品に手をかけていく。
商品には鑑定スキルがなくてもわかるようにタグが取り付けられている。どれもこれも他の店の能力を軽く上回っていて、作り手の腕が伺えた。

数本あった短剣を見聞し、その中で性能が最も俺好み――速さと鋭さに特化されたものを選び出す。
商品を見せながら

「これなんだけど、あと5本くらい作れない?」
と声をかけた。

「ェ……お、同じ材料でも……性能は一緒にならないわよ……ですよ」
「ああ、わかってる。俺はどんどん武器を切り替えるからできるだけ近い性能の武器を何本も揃えたいんだ。材料費は全て出すし、要らない性能のはそちらに返す。だから生産してくれないか?」

トレードタブを出して、金を設定する。さっきの石像を売った分に自分の貯金の半分を足して設定すると、少女の顔つきが驚きに変わった。

「こ、こんなに…」
「別に構わない。どれ位に取りに来ればいい?」

少女は唇に手をやり、しばし黙りこむ。すっかりとぎこちない商人から熟練した顔に変わった彼女は明日の朝には、としっかりした声で返事した。
「ありがとな。俺はクロウ。あんたは?」

「――リズベット」
「ああ、よろしくな。リズベット」

商談成立に手を差し出すと、リズベットは一瞬躊躇した後、握手に応えてくれた。
やや遅れて、ヤヨイの方も後ろから声をかけてくる。

「リズベット。私はヤヨイと言います。私の方も一振り作っていただきたいのですが」
そう言って、ストレージを開いてリズベットの方に見せる。リズベットの顔が緊張から驚き、そして再度緊張へと変わった。

「これ、作ったこと無いけど……いいの……ですか?」
「ああ、ここの商品を見ればわかる。あなただからこそ愛刀の生産を託したい」

リズベットの顔が朱に染まる。誇らしそうにゆっくりと頷いた。

「代金の方は……これくらいでいいですか?」
「……いらない」

俺もヤヨイも思わず身を乗り出した。いらない、ってのは要するにタダか?タダなのか。
「タダで構わないわ。そっちの――クロウから多くもらってるし、その、さ。初めてのお客さんだからね」


リズベットは第一号・二号のお客様を最高の笑顔で出迎えたのだった。



「しかし、頼んだけど大丈夫なのか?初めてのお客様って」
「接客が苦手な方が原因では?武器の品質も良かったですし、彼女の眼は澄んでいました。信用に足りる女性です」
「――まあ、情報も無い鍛冶屋だからナ。オイラも知らないネ」

寒々とした天気の中、朝日がさす市場をゆっくりと三人で歩いて行く。
なぜアルゴがいるのかといえば、情報交換で夜に来たときにリズベットの話が出て、興味が湧いたらしい。
そう言えばこいつ最近、攻略本だけじゃなく情報誌も書くようになったしな。

「ウィークリー・アルゴ」だったっけか。

まだ朝が早いため、市場は人が閑散としていた。僅かに残る職人プレイヤー達はみな片付けの準備をしているか、はたまた開店準備中だ。
飯売りのプレイヤーたちだけは声を張り上げ、熱々の汁物を売りさばいている。

「ホントにこんな早い時間からやってるのカ?」
「メッセージもきたし、間違いない。確か、このアタリ――」

いた。という声は口を開けた瞬間にどこかにいってしまった。代わりに、ああという声が漏れていく。
リズベット商店は確かにあった。市場の外れに。昨日と全く同じ場所に。

リズベットは今もなお、一心不乱にハンマーを振るっている。
疲労の色こそ、見えているがその正確さも真剣さもまるで初めて武器を鍛えあげるかのようだ。

「リズベット」
声をかけると、少女はびっくりとした顔でコチラを見上げた。ややあってにい、っと笑顔を見せてくれる。

「ああ、二人とも早いわね。ちょうど出来たところよ」
疲れの余り、ざっくりとした口調でリズベットが挨拶をする。昨日までの片言の日本語ではなく、まるで友達と話すかのようだ。

少女は交換ストレージを開いて、アイテムを見せてくれる。

計8本の短剣がストレージに並ぶ。どれを選んでも昨日見た商品を全て上回ったパラメーターなのは間違いなかった。
これを作るために、この少女はここに留まり続け、武器を作り続けたのか。

「オマエ、なんでそこまで……」
笑わないでね、とリズベットはすました顔で言った。
「初めてのお客さんだから、かな」

ああ、リズベットはこの世界で生きているんだ。唐突にそんな当たり前のことが胸をよぎった。
だからこそ、こんなにも真剣に俺達の命を造ってくれる。

「ありがとな、リズベット。あと、そこのコートも買わせてもらう」
強引にトレード欄に更にコルを増量して、有無を言わせずOKボタンを押す。
短剣もブルーリザード系のレザーコートもその場で装備してお披露目した。

レザーコートはブルーリザードマンらしく水色を基調としながらも所々に装飾が施され、オレンジのアクセントが入っている。
敏捷値の要求値も低く、衝動買いの割には俺のスタイルに合っている。

「こっちこそ、アリガと。あ、ヤヨイのほうも出来てるわよ」
そう言って、ストレージから一本の長剣を取り出した。

鞘は純白、鍔には純和風な刺繍が施された和を感じる拵え。
ヤヨイが抜き放つと純白の刀身にはうっすらと紫色の波紋が移っていて、高貴な印象を漂わせている。
その武器は反りこそ曲刀と同じように入っているが、西洋風の作りではない。それは、むしろそう――

「重さも刃長も期待通り、ありがとう。<シデン>か、いいカタナだ」

ヤヨイは自分の新たな武器――カタナをしっかりと腰に結えるのだった。
 
 

 
後書き
カタナをいつか使うと思っていた皆さん、お待たせしました。
そして、リズを早めに登板させときます。

だって他の鍛冶師なんて思いつかないし。ここはリズかなっと。

最後になりますが、更新遅れ申し訳ないです。

そして戦闘がなくて、申し訳(ry)

年明け位には攻略戦をやる予定ですが、しばらくはこんな感じの日常回(作者の設定回収回とも言う)が続きます。。。


 
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