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ペルソナ3 幻影少女

作者:hastymouse
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中編

 
前書き
中編です。この話はテレビでやっていた「劇場版 若おかみは小学生」を観ていて、インスピレーションを得ました。えっどこが?って感じですが、書いているうちにどんどん違うものに変わっていって、結果的に全然違うものになってくれましたね。それこそ最初は美紀ちゃんを幽霊にしようかとも思ったのですが、それってあんまりペルソナらしくないし、辛い話になってしまいそうでしたのでこんな風になった次第です。 

 
真田は美紀とともに、自分たちの部屋に入った。
なぜか無性に懐かしく感じた。自分が毎日暮らしている部屋がなぜこんなに懐かしいのか。
何かがおかしいと思っているのだが、その何かがわからないままどんどん流されている気がする。
窓際に真田の机。イスの背に掛けられた黒いランドセル。机の脇の2段ベット。上が真田の場所で、下が美紀だ。
美紀のベッドの枕元に、薬局で処方された風邪薬の袋が置いてある事に気が付いた。
「風邪をひいてるのか? ・・・そうだ、あの時、美紀は風邪をひいて寝込んでいたんだ。」
記憶を探っていた真田が頭に浮かんだことを言葉にすると、
「あのときって?」と美紀が訊き返した。
それに答えようとしたが、頭に浮かんだことは、かき消すようにどこかへ行ってしまった。
「・・・何を言おうとしたのかな。・・・思い出せない。」
「へんなの。」
気づくと、いつの間にか美紀はパジャマ姿で布団に横たわっていた。
顔が赤くほてっていて、目が潤んでいる。ひどくダルそうだ。
また違和感。美紀は最初からこんな様子だったろうか・・・?
「具合、悪そうだな・・。」
真田の問いかけに、小さな声で「うん」と美紀が答える。
「ともかく薬を飲んで、安静にしているのが一番だ。何か食べられそうか?」
「食欲ない。」
美紀は辛そうに鼻をすすった。
「ゼリーとかプリンとか、口当たりのいいものでも買ってこようか。」
美紀は小さくうなずいた。
「早く元気になって『はがくれ丼』を食べたい。」
「はがくれ丼?」
巌戸台駅前のラーメン屋「はがくれ」の裏メニューだ。
しかし、なぜ美紀がそんなものを知っているのか?
また頭の片隅で何かがおかしいという赤ランプが激しく点滅する。しかしどうしても頭が働かない。
「元気になったら一緒に食べに行こう。」
真田はただそう答えることしかできなかった。
「約束だよ。」と美紀が小さな声で言った。

『彼女』が巌戸台駅を出たところで、ばったり荒垣と出会った。
ラーメン屋の「はがくれ」に入ろうとしていたらしい。
「今帰りか・・・」
荒垣が声をかけてきた。
「はい。荒垣さんは夕食ですか。」
「まあ、なんか作るような気分でもないしな。気晴らしに外で食うことにした。」
『彼女』はちょっと考えてから、「私も一緒に食べて行っちゃおうかな。」と言った。
「・・・おう。まあ、好きにしな。」
荒垣は少し戸惑ったようにぶっきらぼうに言うと、店の引き戸を開けた。
店は7割程度の混み具合だった。
ちょうど空いたテーブルに向かい合わせに座ると、荒垣は特製ラーメンを、『彼女』は好物の「はがくれ丼」を注文した。
「こんな時によくそんな重たいもんを食えるな。」
荒垣が呆れたように言うと、「大変な時だからこそ、しっかり食べなきゃ力が出ません。」と『彼女』が にかっと笑って答える。
「・・・ったく。」荒垣は苦笑して、『彼女』のその笑顔を見つめた。
食べ終えて一息ついたところで、『彼女』が荒垣に問いかけた。
「美紀さんって、真田さんの妹さん。荒垣さんもよく知っているんですよね。」
「まあ、ガキの頃はあいつと美紀と、いつも3人でいたからな。俺にとっても妹みたいなもんだった。」
荒垣は少し表情を硬くして答える。
「火事で亡くなったって聞きました。」
荒垣はジロッと『彼女』の顔を見た。普通の人なら身がすくむような目つきだが、『彼女』は動じずに真剣な表情で見返してくる。
荒垣は軽くため息をついて語り出した。
「あいつが真田の家に引き取られる直前の事だった。あの時、美紀は風邪をひいて一人で寝込んでいた。出火原因はストーブだったそうだ。寒い日だったからな。もしかすると美紀が自分で火をつけようとしたのかもしれないが、そこははっきりわかっていない。古い木造だったんで、あっという間に燃え広がったらしい。孤児院の先生が気が付いた時には、もうあたり一面 火の海だったそうだ。被害者が美紀一人で済んだのが奇跡みたいなもんさ。」
そこで、荒垣はコップに水をつぎ足し、一気に飲み干した。そして口を拭うと後を続けた。
「俺はアキと一緒に買い物に出ていた。具合が悪くて食欲のない美紀に、ゼリーかプリンでも買ってこようとしていたんだ。騒ぎに気が付いて慌てて戻ったときには、孤児院は炎に包まれていて、もうどうにもならない状態だった。」
荒垣は辛そうに眉をひそめ、息を吐いた。
「たった一人の血のつながった家族。真田さん辛かったでしょうね。」
『彼女』も深刻な表情を浮かべてそう言った。
「しばらくはひどい状態だったよ。もし自分が外に出ないで美紀のそばにいたらって言ってな。俺はなんとかあいつを元気づけようとしたが、本当はどうしてやったらいいのかまったくわからなかった。ただ、あいつのそばにいないとダメだと思って、ひたすら声をかけ続けた。
しばらくして、あいつにようやく気力が戻ってきてからは、・・・あれだ。取りつかれたように体を鍛え、強くなることを目指し始めた。大切な人を二度と失わないためだと言ってな。それだけがあいつの心の支えになったんだろう。」
『彼女』は荒垣の話を聞いて、他の人とは比べ物にならない「真田との強い絆」を感じた。
「人を守るために強くなること。それはあいつが自分に果たした『業』みたいなもんだ。」
荒垣の言葉に『彼女』は静かにうなずいた。
「真田さん・・・タルタロスで戦闘中に、なぜ美紀さんの名前を呼んだんでしょうね。」
「さあな・・・何かを見たのか、聞いたのか・・・」荒垣がぽつりとそう言った。
『彼女』はテオドアのいう「敵」のことを思い浮かべた。
「もしかしたら、何かが真田さんの心の傷につけ込んだのかも。」
「・・・だとしたら・・・」
ふいに荒垣が立ち上がった。
「一番触れちゃいけない傷をえぐるような仕打ちだ。俺が絶対に許さねえ。」
彼は厳しい表情を浮かべ、吐き出すようにそう言った。

(美紀にゼリーでも買ってこよう。)
真田は財布を持ち、上着を羽織ると、薄暗い廊下に出た。
(シンジがいれば声をかけて一緒に行くか・・・)
そう思ったところで、デジャブに襲われた。
(確かシンジと買い物に出て・・・)
(ゼリーでも買ってこようって言って・・・・・)
(それで・・・その後この孤児院は・・・・・・・・・)

火事だ!

火事で、美紀が!!!

真田はその場に凍り付いた。突然蘇ったその記憶に衝撃を受け、たまらずに部屋に取って返した。乱暴にドアを開けて部屋に入ると、美紀がベッドから出て、ダルマストーブに火をつけようとしているところだった。
「美紀、下がれ!」
思わず怒鳴りつける。美紀はびっくりしたようにストーブから離れた。
「ストーブをつけようとしたのか。それで火事になったのか?」
真田は美紀に歩み寄ると、厳しい口調で問い詰めた。
「火事?何を言っているの?」
美紀が困惑したように聞き返す。
「火事だ。俺が買い物に行っている間に孤児院が火事になって、それでお前は逃げられずに・・・。」
自分でも支離滅裂なことを言っていると思った。しかし止まらなかった。
「火事なんて、まだ起きてないよ。」
真田の剣幕に、美紀は身をすくめて怯えた表情で必死に答える。
「まだ?」
その言葉に引っかかって真田が訊き返した。美紀があっと口を開けた。失言だったようだ。
「まだってことは・・・つまり、これから起きるんだな。」
真田が絞り出すような声で尋ねた。
「そうだね。」
急に無表情になった美紀が、ぽつりとそう言う。
しばし、沈黙が訪れた。
そして真田が重い口を開く。
「お前、本当に美紀なのか?」
違和感がどんどん増していく。
しばらく黙ってうつむいていた美紀が、不意に顔を上げた。
「うーん。ある意味、そうかな。」
唐突に美紀は、にかっと笑った。先ほどまでの具合悪そうな様子は微塵もない。まるで別人のようだ。
真田はその表情に、誰かを思い出しかけた。
「ある意味?・・・どういうことだ。」
「そうねえ。たとえば、・・・。前にお兄ちゃんが迷子を保護して警察に連れて行って、そのお母さんからお礼にシュークリームを貰ったことがあるでしょ。 孤児院のみんなで分ける数はないからって、夜にこっそり二人で食べたよね。みんなには内緒だよって言って・・・。誰も知らない二人だけの秘密。それを知っているんだから、私は美紀だっていう証明にならない? 」
「確かに・・・。」
すっかり忘れていたが、そういえばそんなことがあった。夜、寝静まった後で、みんなに隠れて二人でくすくす笑いながらこっそり食べたのだ。美紀はとてもうれしそうだった。
懐かしい思い出だ。それを知っているのは美紀だけ・・・ということはやはり美紀は本物なのだ。
真田は妙に安堵した。やはり美紀を疑いたくなどなかった。
「そうだな。おかしなことを言って、疑って悪かった。」
悪びれずに頭を下げると、美紀が声を立てて笑った。
「ええー?これで納得したの?甘いなあ、先輩は。」
また違和感。美紀はこんな笑い方をしただろうか? こんな笑い方をするやつは・・・。
「どういうことだ。」
困惑して問い返す。
「お兄ちゃんと『美紀』しか知らないことを知っているからって、私が『美紀』だとは限らないでしょ。」
美紀がまるでダメな生徒に問題の解き方を教えるような口調で言った。
違う。美紀はこんな話し方はしない。いつも自信の無さそうな口調でもじもじと話す子だったはずだ。
「何を言ってる。美紀でなければ誰だというんだ。」
「私が『美紀』じゃないなら、この話を知っているのはお兄ちゃんだけ。つまり私はお兄ちゃんなのかもしれない。」
「意味が分からない。」
真田は混乱して頭を振った。
「つまり、私はお兄ちゃんが頭の中に描いた『美紀』だっていうこと。お兄ちゃんのイメージした『美紀』だったら、お兄ちゃんの知っていることなら何を知っていてもおかしくないよ。」
美紀が自信たっぷりに言う。
「お前が俺の頭に描いたイメージ? いや、しかし・・・お前はもっと控えめで気弱な性格だったはずだ。」
真田の問いかけに、美紀は少し困ったような顔をした。
「それが、なんだかお兄ちゃんの中で、イメージが少し混ざっちゃってるみたいなんだよね。」
(イメージが混ざる?)
真田の脳裏におぼろげに誰かの顔が浮かんで消えた。
「仮にお前の言うとおりだとして・・・イメージであるはずのお前が存在しているなんてことが、どうして起きてるんだ?」
「誰かがもう一度、私が火事で焼け死ぬところをお兄ちゃん見せようとしてるんだよ。」
「・・・!」
「お兄ちゃんの心を痛めつけて、自分の思い通りにするためにね。」
殴られたような衝撃だった。
この事態は何者かの悪意によるもの。真田に狙いを定め、彼の心を打ち砕こうとしているのか。いったい何者が・・・何のために・・・。
考え込む真田に、美紀が明るい口調で言った。
「ほらっ。ここはもうすぐ火事になるんだから、お兄ちゃんは早く外に出ないと、美紀が焼け死ぬとこ見られないでしょ。」

真田の捜索には全員で挑んだ。
タルタロスは常識外の迷宮で、何が起きるかわからない。通常なら、何か起きた時に備えて必ずバックアップ要員を残す。風花以外のバックアップが無いというのはリスクがあるが、限られた時間で手がかりを見つけるにはどうしても人手が必要だ。
タルタロスの迷宮は、訪れるたびにその内部構造を変化させる。昨夜、真田が消えたのと同じフロアに入っても、消えた場所を特定することは困難だ。
しかも、タルタロスにはシャドウが徘徊している。出会えば戦闘もしないわけにはいかない。
戦闘時のことも考えて4人ずつの2チームで動くことにした。
リミットまで1時間。あせって探すが、時間はどんどん過ぎていく。
『彼女』のチームも、極力 戦闘を回避しながら、しらみつぶしに迷宮を進んでいた。
しばらく探索を続けたところで、ふいにアイギスが足を止めた。
「ここに何かあります。」
「何かって?」と『彼女』が訊く。
「何も見えませんけど・・。」
天田があたりを見まわして不思議そうな顔で言う。
「どう言ったらいいか・・・私のセンサーが何か歪みのようなものを捉えているであります。」
アイギスが何もない場所を凝視しながら言った。
「歪み?」荒垣が眉をひそめる。
「ここに別の空間への入り口があるっていうこと?」
そう言いながら、『彼女』はその位置に手を伸ばしてみたが、なにも異常は感じられない。
「だとして、どうすりゃいいんだ。」
荒垣がいら立ったように頭を抱えた。
(どうすればいいの? テオ。何とかして!)
『彼女』が心の中でつぶやく。
「ともかくここがどこかに繋がってるかもしれないんだな。」
荒垣が確認するようにアイギスに言った。
そしてその前に立つと、「おい、アキ!! そこにいるのか。アキ!!」と大声で呼びかけた。
「荒垣さん・・・」
みんなが驚いて荒垣に視線を集中させる。
「聞こえねーのか。アキ!!!」
荒垣が必死の形相で叫ぶ。
「美紀、お前なのか? アキを連れてったのか? 俺もそっちに行く。ここを開けろ。聞こえるか。美紀!!!」
 
 

 
後書き
真田の話は、この話の前に二度ほど書きかけて、うまく進まずに中断しました。その時、困ったのは孤児院の描写。今時、こんなタイガーマスクみたいな孤児院なんてないんですよね。正しくは児童養護施設というべきらしいです。でも私のイメージがどうしても古臭い孤児院から離れてくれないんですよ。今回は少しぼかして書いてみましたが、古臭さはまあ笑って許してください。
さて、次でラストです。真田は無事救出されるのか・・・。美紀はどうなるのか・・・。
次回「後編」をよろしく。 
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