戦国異伝供書
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第八十五話 四万十川の戦いその八
阿波に出陣した、だが。
元親はまだ本城にしている岡豊城を出た時点で思わぬ報を聞いた、その報告はというと。
「何っ、織田家がか」
「はい、都に淀川を遡って攻めてきた三好家の軍勢を退けてです」
報を届ける旗本は元親にさらに話した。
「そして水軍を出してです」
「淡路を手に入れてか」
「さらにです」
そこからだというのだ。
「讃岐に上陸してきました」
「まさかな」
元親はその報をここまで聞いて唸って述べた。
「こうも速く織田家が四国に来るとは」
「思いも寄りませんでした」
「流石に」
「三好家が動くとも思いませんでしたが」
「それ以上にです」
「織田家が四国に来るなぞ」
「これはまずいのう、織田家の兵は今や十万を優に超える」
そこまでの兵を持っているとだ、元親は家臣達に述べた。
「その織田家と戦うとなるとな」
「流石にですな」
「当家の軍勢では」
「勝ち目はないです」
「どうもな」
「うむ、しかし阿波は手に入れかつ織田家の力を観たい」
元親は家臣達に確かな声で言った。
「だからな」
「この度はですか」
「阿波に進み」
「そのうえで、ですか」
「戦われますか」
「そうしよう、そしてな」
そのうえでというのだ。
「よいな」
「このままですな」
「織田家が阿波に来れば」
「その時はですな」
「一戦交えますか」
「そこで負ければ降る、わしの首が欲しいなら」
その織田家がというのだ。
「喜んでやる、ではな」
「それではですか」
「このまま阿波に進みますか」
「そうしますか」
「そうする」
こう言ってだ、元親は阿波に進み続け織田家の軍勢と一戦交え敗れた、そうして降ると許されてだった。
土佐一国を安堵された、それで元親は自軍の陣に戻ってから言った。
「わしはここまでか」
「土佐一国だと」
「そう言われますか」
「うむ、これも天命じゃな」
あっさりとした声での言葉だった。
「わしはやはり土佐一国の器であった」
「では四国は」
「讃岐と阿波は織田家のものとなった」
元親は親貞に答えた。
「そして当家自体もな」
「織田家に降ったので」
「そのうえで土佐一国を任されたからな」
それでというのだ。
「四国の統一もじゃ」
「ないですか」
「左様、そのわしについていきたくない者は去れ」
元親は家臣達に明るく笑って告げた。
「わし以上によい主のところに行け、わしは咎めぬ」
「そう言われますか」
「殿は」
「殿の器に不満なら」
「去れとですか」
「そうせよ、お主達の思うままにな」
こう言う、だが。
長曾我部家の紫の衣の者達は一切動かない、それで自分達の主に微笑んで言うのだった。
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