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曇天に哭く修羅

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第二部
  八方塞がり

 
前書き
_〆(。。) 

 
襲い掛かってくる6体の人形。

彼等の武器が紫闇に迫る。

しかし攻撃される直前で再度【珀刹怖凍/びゃくせつふとう】の時間圧縮が掛かり時間が凍結して人形の動きは停止。

紫闇は人形でなくレックスを見た。


(さっきのは彼奴の【異能】だよな?)


合宿で教官の《桐崎美鈴》から教えられた《レックス・ディヴァイザー》の【魔術師】として有した第一の異能【魔晄外装/ファーストブレイク】は『己の立ち位置をコンマ数秒前に戻す』というもの。

しかし明らかに違う。


(【魔晄神氣/セカンドブレイク】か)


まるで時が止まっているかのように圧縮された時間の中でレックスが紫闇の動きを認識する事ができる筈が無い。

恐らく自動で発動する異能。

しかしどれだけ強力無比であろうとも、魔術師の使う異能であるのなら、必ず共通する弱点が存在している。

それは外装の破壊。

魔術師の異能は魔晄外装に宿る。

つまり外装が無いなら異能も無い。


(てことは6体の人形(がいそう)を壊しゃ良いわけだ)


紫闇は近くの人形に攻撃。


「げっ!!」


戻った。時計の針が逆回転するように。

また珀刹怖凍が解除された。

そして紫闇が攻撃する前の状態へ。

再び人形が(むら)がる。


「もう一度!」


また解除されてしまう。

殺到する人形の攻撃。

紫闇は【盾梟(たてさら)】で魔晄防壁を強化。

攻撃に耐えながら考える。


(レックスへの攻撃だけじゃなく、人形を攻撃しても俺が力を使っても戻るのか)


エリザを連れて安全な所まで避難したクリスも紫闇の手詰まり感が伝わってきた。


「レックスの魔晄神氣ってあんな強いの?」

「私も見るのは初めてよ」


エリザは改造されたクリスが新たに覚えた黒鋼流の練氣術【氣死快清】で全快しており紫闇に加勢しようと思っていたがレックスの異能が厄介で手を出せない。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


「私の【魔晄神氣/セカンドブレイク】に弱点は有りません。【唯一無二ノ最低ナ行為(ザ・パーフェクト・マリガン)】は『時間の逆行』を起こす力。私か外装がダメージを受けるとオートで働き相手の行動を無かったことにする。そして『触れた対象』の時間を任意で逆行させ精子と卵子にまで戻すことも可能です。しかし後者については時間系能力を有する紫闇(あなた)には効果が薄い。ここは予想通りなので良いでしょう。それに一番問題だった時間停止のような力を潰せた」


レックスの解説に紫闇は思った。

これ程の力は消耗も激しいはず。

ならば粘って戦闘を引き伸ばせば。


「魔晄が切れるまでの長期戦は無駄ですよ。私の魔晄神氣は強力な割りに燃費が良いので。其方(そちら)を始末する前にエネルギーが底を突くことは無いでしょう」


その時だった。

クリスが立ち上がり武台に飛び込む。

そして紫闇を攻撃する人形達と戦い出す。


「レックス! あんた何で諦念に呑まれてんのよ! どうして自分を信じないの! これだけ強いのは努力を続けて信念を貫いたからでしょうが! 異能が最弱でも不屈の意思があんたを強くしたんじゃない!」


レックスはクリスに答えなかった。

淡々と人形を操作。

じわじわ二人を追い詰める。

6体の人形は一体の攻撃を躱しても狙い澄ましたように別の人形が奇襲し反撃してもレックスの読みと高速かつ精密な人形操作で回避したり、大盾の人形が攻撃を受け止めてしまう。

距離を置いても時間が戻され移動前の状況となり攻撃を浴びせられる。

どんな行動を取っても手詰まり。

八方塞がりの状況を作り出していた。

昔は異能に頼れず外装の複数召喚も制御が難しい為に扱えなかったレックスが魔術師ではなく人間としての力を積み重ねた結果が今の強さ。

それが伝わるような戦い方である。


紫闇とクリスは悲しかった。

かつてのレックスを知るクリス。

自分と同じだったと解る紫闇。

諦めを拒絶して誰よりも上へ行くことを願い、挫折を繰り返す地獄の道程を歩み続け、乗り越えてきたレックスを本当に尊敬する2人。

その表情を見たレックスは人形を止める。


「御二人の疑問に答えましょうか。なぜ私がこうなってしまったのか」


彼は髪の長い女剣士の人形を見た。


「外装の形状はそれを出した魔術師本人の精神を表すという説が有ります。……事実なんでしょうね。でなければこの外装はこんなにも私の『母』に似ている筈がない」
 
 

 
後書き
_〆(。。) 
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