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戦国異伝供書

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第八十四話 安芸家との戦その五

「よいな」
「わざとですな」
「その様にして、ですな」
「敵に我等の姿を見せる」
「そうしますか」
「実際に安芸城に向かう」 
 このことは変えないというのだ。
「そしてじゃ」
「その動きをですな」
「安芸家の軍勢に見せる」
「そうしますな」
「わざとでもよい、我等の紫の衣や具足や旗は山の中では目立たぬが」
 緑が深くなると紫に近い色に見えてしまう、その為長曾我部家の色である紫は山の中に溶け込んでしまうのだ。
 だがそれでもとだ、元親は言うのだ。
「声を挙げて足音を立てればな」
「それで、ですな」
「目立ちますな」
「その目立つ姿を見せる」
「あえてですな」
「その様にしてじゃ」
 そしてというのだ。
「敵を惑わすぞ」
「わかり申した」
「それではです」
「我等の姿見せてやりましょう」
「敵に対して」
「その様にな」
 こう言ってであった、元親は安芸城に向かう動きを敵の軍勢にあえて見せた、そしてほぼ同時にだった。
 海の方から漁師達が法螺貝を鳴らした、するとだった。
 元親の読み通り安芸家の兵達はにわかに浮足立った。
「長曾我部の軍勢が城に向かっておるぞ」
「数は少ないがな」
「そうなっておる」
「しかも海の方から法螺貝の音が聞こえる」
「敵が舟に乗って我等の後ろに回り込んだのか」
「まさかと思うが」
「そうしてきたのか」
 こう話すのだった。
「若しや」
「そうなると我等は挟み撃ちになるぞ」
「しかも城も狙われている」
「まさかと思うが城を攻め落とされるとどうなる」
「我等は完全に袋の鼠になるぞ」
「そうなっては終わりだぞ」
 この言葉が出た、それでだった。
 彼等は浮足立った、まさに元親の言う通りに。そしてその彼等を見てだった。
 親貞はまさにとだ、兵達に告げた。
「槍を前に出して弓矢もじゃ」
「放つ」
「そうしてですか」
「敵を攻めるのじゃ、突き崩す感じでじゃ」 
 その様にしてというのだ。
「敵を倒すぞ、よいな」
「承知しました」
「それではですな」
「これより敵軍を攻める」
「そうしますな」
「そして勝つぞ」
 こう言ってだ、そしてだった。
 親貞は法螺貝を鳴らさせて軍勢を前に出させた、そうして。
 安芸家の軍勢の彼等のそれよりも長い槍を突き出しその後ろから弓矢を放った、只でさえ長曾我部家の軍勢より数が少なくさらに浮足立っていた安芸家の軍勢はそうして攻められるとひとたまりもなかった。
 彼等はすぐに逃げ出した、親貞はその彼等を見て言った。
「うむ、これでじゃ」
「よいですな」
「敵は崩れましたな」
「そうなりましたな」
「そうなったからじゃ」
 それ故にというのだ。
「ここはじゃ」
「兵を進めますな」
「安芸城に向けて」
「そうしますな」
「これよりな」
 こう話してだ、そのうえでだった。 
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