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ペルソナ3 ファタ・モルガーナの島(旧版)

作者:hastymouse
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後編

 
前書き
さて、黒幕についてですが、実は以前書いた「夢幻の鏡像」からの再登場です。(別にそちらを読んでなくても支障ないです。)
毎回、敵が雑魚シャドウというのもさみしいので、ちょっと大物っぽいオリジナル敵として考えました。ニュクス関連の神様の中に「苦悩の神オイジュス」というのがいましたのでこれをピックアップ。ニュクスの滅びを助けるために暗躍し、主人公の邪魔をするという設定です。気が向いたらまたいつか使うかもしれません。 

 
いっせいに振り向くと、扉を失った空間から何か巨大なものが膨れ上がるように出てきつつあった。
「あれは・・・」
その姿を見て『彼』が眉をひそめて考える。
「・・・オイジュス?」
「知っているの?」ゆかり が訊いた。
「いや、でも・・・頭に浮かんだんだ・・・たぶんどこかで出会ってる。」
『彼』の表情が険しくなった。
【思い出したか・・・我はオイジュス。苦悩の神である。】
ふいに頭の中に重々しい声が響き渡った。
ただならぬ重圧感に ゆかり の表情がひきつる。
「・・よく思い出せない。でも・・戦った記憶がある。誰かと一緒に・・・そして倒したはず。」
『彼』が記憶をさぐりつつ声を洩らした。
【神は簡単に滅びはしない。】
ドアから抜け出た巨大な姿。大きさの異なる無数の青黒い球の塊。体から更に次々と新たな球が膨れて巨大化し、3メートルほどの高さで止まった。その球の一つ一つに目のようなものが一つずつ赤く光っている。
うごめきながら前に進んでくると、そのままそこにうずくまった幾月をじわじわと飲み込んでいく。
「何が目的だ。」『彼』が叫んだ。
【お前たちの排除だ。人間は滅びを望んでいる。その望みをかなえるため、まもなく大いなる神が降臨する。神の降臨とともに人間は安らかな終焉を迎えるであろう。そして人間は生きる苦悩から解放されるのだ。我はそれを速やかに進めるため、この男の意思に介入した。】
「つまり幾月を操っていたってことか?」
美鶴が驚いたように言った。
【もともとはこの男の中にあった願望である。理性を抑え、その欲望を歪め膨らませてやった。この男は歪んだ欲望に駆られて全てのアルカナのシャドウを集め、人類の終焉に向けた下準備を行った。最後にはお前たちも排除する予定であったが、あいにく先にこの男の方が死んでしまった。そこで、この男の歪んだ心が消え去る前にその歪みをここに固定し、お前たちを誘い込むことにした。人類の終焉を邪魔するお前たちを排除するために。】
「死んだ人間の心まで利用するのか。」真田が怒りをこめて叫ぶ。
【全ては人間を苦悩から解き放つため。これは救いである。それが理解できない愚か者は、全て排除する。大いなる夜の神 ニュクスの為に。】
オイジュスから強烈な圧が押し寄せてくる。全員が足を踏ん張り、顔を歪めてそれに耐える。
「吾輩は・・・吾輩もその為に利用されたのか・・・」
ゆかり に支えられて起き上がりながら、モルガナがうめくように言った。
【お前の役割は、こやつらをこの場所への連れてくる為の道案内。既に役割は終えた。消え去れ。】
「そんな・・・吾輩は・・・吾輩はいったい何者なんだ。」モルガナが悲痛な叫び声を上げた。
【その答えはない。お前の存在に意味などない。】
「嘘だ・・・。」
呻くようにそう言うと、モルガナはその場にうずくまった。
「結局、幾月の裏切りは、ニュクスの下っ端であるこいつの仕業ということか。美鶴、お前の真の仇もこいつというわけだ。このままでは済まされないな。」
真田は美鶴の横に並んで立ち、彼女に語りかけた。
筋道が立った気がした。すべては人間を滅ぼすために仕組まれたことだ。幾月もそのために利用されたに過ぎない。
美鶴の心が一つの決意に集束した。倒すべきは目の前にいる邪悪な神だ。
「そのようだな。けじめはつけさせてもらおう。」
美鶴はオイジュスに向き直ると、召喚器を引き抜いた。
「ペルソナ!」
美鶴と真田、二人が同時に上げた声とともに戦闘が開始された。
『彼』も召喚器を握り締め先輩たちに並ぶ。すかさず ゆかり が弓を引き、援護に入った。
真田の電撃攻撃と美鶴の氷結攻撃。
対してオイジェスから放たれる攻撃を『彼』がペルソナの防御魔法で防ぐ。
その合間を縫ってゆかりの疾風攻撃が繰り出される。
連携の取れたフォーメーション。しかし相手は打たれ強かった。
特に電撃に耐性があるらしく、真田には不利な相手だ。
一方、疾風攻撃と物理攻撃は効果があるようだ。真田は物理攻撃主体に切り替えた。
その時、連続してガルダインを繰り出す ゆかり に向けて電撃が走り、もろに食らった ゆかり が倒れる。
「ゆかり!」美鶴が叫ぶ。
すかさずカバーに入った『彼』がタナトスを呼び出す。
さらに3人での激しい攻防が続けられるが、ついに敵の強力な攻撃に美鶴が倒れ、真田も膝をついた。
戦いは、敵の攻撃を『彼』一人で食い止める苦しい展開となった。

その戦いの背後で、うずくまったモルガナは自問していた。
「吾輩が・・・何者でもない? 吾輩の存在に意味がない? ただこいつらを罠にかけるための案内役?」
『本当にそれでいいのか?誰かにそう言われたら、それで納得できるのか?』
頭の中で何かがモルガナに語りかけてくる。
「冗談じゃない。吾輩がそれだけの存在であって堪るものか。」
モルガナは歯を食いしばり反論した。
「自分が何者かになろうとしている限り、可能性は無限大だ。意味が無いなどとは絶対に言わせない。」
皆の激しい戦いを見ながら、モルガナは気を奮い立たせる。
「吾輩だってこいつらのように自分の意思で立てる。戦える。吾輩は吾輩だ。」
『よかろう。その言葉を待っていた。』
何者かの声とともに、モルガナの目の周りを覆うように仮面が現れた。
『それでは契約だ。我が力を存分に使うが良い。』
「うあああああ。」
モルガナは叫び声を上げながらその仮面を力いっぱい引きはがした。
同時に、モルガナの背後にマスクとマントの剣士が出現する。
『お前の存在を決めるのは他者ではない。己を信じることこそが己を己たらしめる。
我は汝、汝は我。己が信ずるものの為に、茨の道を進む者よ。このゾロが茨を払う剣となろう。迷わず道をつき進むのだ。』
「吾輩のペルソナ? あいつらと同じ力が吾輩にも?」
急に体に力がみなぎってくる。
モルガナは迷うことなく、一人でオイジュスと戦い続ける『彼』のもとに駆け寄った。
「我が決意の証を見よ!威を示せゾロ!」
モルガナのかけ声とともに疾風攻撃がオイジュスに襲いかかり、その攻撃を留める。
「いけ、セト!」
さらに『彼』のペルソナが追撃する。
モルガナはさらに続けてゾロを呼び出した。
その隙にようやく電撃のショックから復帰したゆかりが、美鶴と真田に回復スキルをかける。
モルガナの参戦で形勢が変わってきた。
【なぜだ。なぜただの人間がここまで戦える。】
「貴様は人間をなめすぎなんだ。」モルガナが叫んだ。
「人間はしぶとい。立ち止まることは有っても、そんなに簡単に生きて前に進むことをあきらめたりしない。」
ゾロが疾風攻撃を繰り出す。
「そうだ。それを俺たちが証明してやる。人間には立ち上がる力があることを。」復帰した真田が物理攻撃を放つ。
「私も一度は絶望した。しかし仲間に力を貰って再び立ち上がることができた。一人ではできないことも仲間とならできる。」
美鶴の氷結攻撃。
「そうよ。くじけた人がいたら、私たちがひっぱいてでも立ち直らせてやるんだから。」ゆかり のさらなる疾風攻撃。
オイジュスの体が萎縮していく。攻撃も弱まり、明らかに力を失って弱体化している。
「終わらせる!」美鶴が声を上げる。
『彼』がセイテンタイセイを呼び出した。
「決着はニュクスと付ける。下がれオイジュス。お前の出番はない。」
『彼』の叫びと共に、強烈な物理攻撃がオイジュスを粉砕する。
【おおおお‥‥】
オイジェスが唸り声を上げ、そして黒い塵となって消えていった。

長い戦いが終わり静寂が戻る。全員が力を使い果たしてその場に崩れ落ちた。
美鶴がふと顔を上げると、オイジュスの消えた後に、茫然と立ちすくんだ幾月が残っていた。
「幾月・・・」
声をかけられて、幾月が美鶴に顔を向ける。
「君たち。悪かったね。僕は何かおかしな妄想に囚われていたようだ。こうしてみるとなぜあれほど執着したのか、自分でもよくわからないよ。」
夢から覚めたような口調で幾月が答えた。
「理事長。あなたはタチの悪い奴に利用されていただけだったんです。」
美鶴が声を上げた。
「それも自分の意思をしっかり持っていなかったからだ。僕に、そこの猫くんほどの強さがあれば、抗うこともできたろう。僕の弱さのせいで大変な迷惑をかけてしまった。本当に申し訳ないことをした。」
幾月が頭を下げた。
「いえ、その言葉で充分です。おかげで私も心のわだかまりが解けました。これであなたを許すことができます。」
美鶴が涙ぐみながらうつむいた。
「ありがとう。でも残念ながら、君たちはこの出来事を記憶に留めておくことはできないよ。僕自身、今は仮そめの存在で、まもなく消えてしまうだろう。でも生きている君たちは、なんとか未来を勝ち取って欲しい。それを心から願っているよ。」
「任せてください。俺たちは負けません。」
真田が力強く答える。
それを聞いた幾月は、嬉しそうに微笑んだ。
「さあ。もう行った方がいい。この場所は、そろそろ消滅するはずだ。」
周囲が歪み、宮殿が徐々に崩れ始めていた。
オイジュスが固定していた世界が、再び崩壊しようとしていた。
「時間が無い。行くぞ。」
モルガナが声をかける。
「では、行きます。」
『彼』はそういうと、立ち上がった。
みんなで幾月に頭を下げ、そしてホールの外へと向かう。
去っていく姿を見送った後、幾月の姿は静かに消えていった。

宮殿が崩れ去る。
モルガナの導きで、まわり道をせず真っすぐに外へ抜けたため、かろうじて脱出に成功した。
しかし崩壊は宮殿のみにとどまらず島全体に広がり始めていた。
モルガナの後に続いてさらに海岸まで走ると、タルタロスから上ってきたと思われる階段が再び出現していた。
「ここでお別れだ。吾輩はメントスに戻る。幾月の言葉が本当なら、お前たちの事を覚えておくこともできないだろう。」
モルガナは振り向くと、みんなに向かって言った。
「それはたぶん本当だと思う。僕は以前にもオイジェスと戦ったはずなのに、そのことがほとんど思い出せない。」
『彼』がそう返した。
「残念だな。本当に世話になった。ありがとう。お前はいい仲間だった。」美鶴がモルガナに声をかけた。
「まったく見上げた根性だ。猫にしておくのがもったいない。」真田もそう言った。
「だから猫じゃねーって。」
モルガナがそう返し、そしてみんなで笑った。
「いつか吾輩もお前らみたいな仲間を見つけるよ。一人でできることには限界があることがよくわかったからな。」
「ああ、頑張れ。」真田が応えた。
「いつか人間に戻れるといいね。」ゆかり が涙ぐんで言う。
「ありがとう。じゃあな。お前らも頑張れよ。」モルガナが手を上げる。
「じゃあ。」
真田はそう言って手を上げてあいさつすると、先頭をきって階段を降りていった。みんなその後に続く。
そしてタルタロスの元のフロアに帰ってきた。
【みなさん聞こえますか?】すかさず通信が入った。
「風花?」
【ああ、良かった。今ちょっとの間、皆さんを見失ってしまっていて、通信もつながらないし、何かあったんじゃないかと・・・】
「大丈夫だ。全員無事にそろっている。ただちょっとおかしなことに・・・」
美鶴は言いかけて眉をひそめた。階段を上って以降のことが思い出せない。しかし激しい戦闘の後のように極端な疲労感がある。体は傷だらけで服もボロボロだ。
「何か忘れている気がするな。」真田が自信なさそうに言った。
「そういえば、私らなんで階段を降りてきたんでしたっけ?」ゆかり も不思議そうな顔をする。
【ともかく影時間がもう間もなく終わります。そろそろ引き上げてください。】
「そうですね。転送ポイントへ行きましょう。」
『彼』が声をかけ、タルタロスから引き上げることとなった。

結局、その日の探索について、メンバー4人に奇妙な記憶の欠落があるものの、それが何かはわからないままだった。
寮に戻る途中、彼らは道を横切る一匹の黒い猫を見かけた。道の中央で猫は立ち止まり、こちらをじっと見つめる。
一瞬目が合った後、猫はそのまま闇の中に走り去っていった。
4人は何も言わずにその姿を見送った。  
 

 
後書き
モルガナとの共闘がこの話のメインテーマですが、実は裏側で美鶴と幾月の和解もテーマにしてます。
P3、P4、P5にはそれぞれ裏切りキャラがいて、P4、P5に出てくる二人はなかなかの人気です。この二人は戦いに敗れた後、主人公たちに歩み寄る描写もあるのですが、幾月だけはただの裏切り者として死んでしまいます。おじさんだし人気無いし、比べるとちょっと可哀そうなキャラかなーと思ってたので、こんな展開だったら良かったね、という思いを込めています。いかがでしょうか。
それでは今回は終了です。また別の話で。 
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