| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

ペルソナ3 ファタ・モルガーナの島(旧版)

作者:hastymouse
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
< 前ページ 目次
 

前編

 
前書き
これまでにP3の話をいくつか載せてきましたが、新島真の出る話の閲覧数が多いようです。やはり今はP5の絡んでいるものが、食いつきがいいのかもしれません。そんなわけ今度のゲストはモルガナです。
そもそもモルガナがいつ誕生したのかは明確ではないのですが、P5開始時点では、かなり経験を積んでいるようでもあるので、P3に絡めたっていいかもと思いました。まだ名前も無い頃のモルガナの活躍をよろしく。 

 
「猫だな」
真田がぼそりと言った。
「猫・・・なのか?」
美鶴は判断に迷ってつぶやいた。
確かに猫と表現するしかない姿だが、しかしこんな猫はいない。子供向けの漫画か、ゆるキャラのような姿と言ったらいいだろうか。それがタルタロスの中で大の字になって倒れているのだ。
「シャドウ・・・じゃないですよね。死んでるのかな。」
ゆかりがそっと弓でつついていてみるが、全く身動きしない。
「ひょっとしてぬいぐるみ?」
【ゆかり ちゃん。なんだかわからないけど生きている反応はあるよ。気を失っているだけ見たい。】
風花から通信が入った。
「生きてるの? ・・・どうします?これにあんまり時間取られてると、死神が出てくるかもしれないですけど。」
ゆかり が当惑したように美鶴に尋ねてきた。
「そうだな・・どうするか・・・」
常にはっきりした決断をする美鶴ではあるが、さすがに判断に困り言いよどむ。
「ほっとけばいいだろう。こんなとこにいるこんな猫がまともな存在なわけがない。相手にしないほうが得策だ。」
真田は無視を決めたようだ。
(正論で言えば明彦の言う通りだろう。これ以上に関わることはリスクが大きい。)
しかし、この猫もどき の愛嬌のある顔を見ていると、このまま捨て置くことに迷いが生じてくる。
「どう思う?」
困った挙句、美鶴は『彼』に意見を求めた。しかし『彼』はその問いには答えず、無造作に『猫』を抱き上げた。
幼稚園児並みのサイズで軽そうだ。毛がふわふわしている。
「大丈夫なのか?」
「まあ、大丈夫そうです。とりあえず次のフロアへ移動しましょうか。」
彼は穏やかにそういうと、平然と階段の方に歩き出した。つられたように皆が後に続く。
階段を上ってさらに上のフロアへ。
そこで一同はさらにあっけに取られることになった。
外に出ていたのだ。
空には星が光っている。波の音に目を向けると海が見えた。海岸がすぐ目の前だ。緩やかに風が流れ、潮のにおいがする。
「えっ?なにここ。」ゆかり が驚きの声を張り上げた。
美鶴もあり得ない光景に呆然とする。
『彼』がスッと腕を伸ばし、前方を指さした。
「ムーンライトブリッジが見える。」
対岸に見慣れたフォルムの橋がかかっていた。
「そんな・・・ここはタルタロスの外なのか。・・・あれだけ塔を上ってきたのに、その上が地上に繋がっているというのはどういうことだ。」
美鶴は困惑して声を洩らした。
「風花。何かわかる?・・・・・・・風花?」
ゆかり が風花に呼びかける。しかし返事はない。通信は途絶えていた。
ゆかり が「だめだ」というように首を振って、みんなを見まわした。
「くそっ。どうなってる。嫌な予感がするな。」真田が眉をひそめる。
美鶴も予想外の事態の連続に戸惑い、不安を覚えていた。この状態での不用意な行動は危険だ。
「いったん戻りましょうか?」
『彼』の言葉に、美鶴は反射的に「そうだな。」と応じて、もと来た方に振り向いた。
そこで一同は再び驚きの声を上げた。
たった今、上ってきたはずの階段がどこにもなかったのだ。そこはただ砂浜が広がっているだけだった。
「わけわかんない。どういうこと?」ゆかり が嘆く。
「わからない・・・が・・・どうもここはタルタロスではないらしいな。」美鶴はそう答えることしかできなかった。
「というか、影時間が終わってないか?」
真田の指摘に周りを見回すと、月は影時間とは異なり、ごく当たり前の光を放っていた。
「そんな、いくらなんでも早過ぎじゃあ・・・。」ゆかり が言う。
「ともかく現在地を確認しましょう。ムーンライトブリッジが見える位置なら、すぐに場所が確認できるはずです。」
『彼』の言葉に皆がうなずき、海とは逆方向に歩き出した。
そちらは真っ暗だ。緩やかな傾斜を登っていく。不思議なほど人家も街の明かりも全く無い。この大都会に、こんな場所があることが信じられなかった。
しばらく上ってから『彼』は振り向き「ここ、島なんじゃないですか?」と言った。
見回せば、確かに今いる場所を海がぐるっと取り巻いているようだ。
「でもこんなところに島なんか・・・いや、うちらの学校が人工島にあるのは知ってるけど、こんな無人島じゃないし・・・」
その ゆかり の言葉にかぶせて『彼』が言う。
「・・・と言うより、さっきから気になってたんだけど、あのムーンライトブリッジの見え方は、月光館学園の屋上からの見るのと同じじゃないかな。」
あらためて見ると、確かにその通りだった。
「つまりここは月光館学園のあるはずの場所。ということは、やはり我々はタルタロスがあるはずの場所にいるわけだ。」
美鶴が確認するように言うと、真田がうなずいた。
「現実にこんな場所が存在するはずがない。俺たちは今なお非現実な場所にいる。」
「幻の島か・・・まるでファタ・モルガーナだ。」美鶴がそうつぶやいた。
「ファタ? なんです?」ゆかり が聞き返す。
「ヨーロッパでは蜃気楼のことをファタ・モルガーナと言うんだ。
かつて北極海にあると噂され、目撃例が多数あったにもかかわらず、度重なる探索でついに発見することのできなかった島があってな。その幻の島のことを、ファタ・モルガーナ・ラネズと呼んだんだ。」
「ここも現実ではない幻の島ってことですね。」ゆかりが不安そうに言った。
「山岸との通信は途絶えたままだ。それでも、もしここが現実なら影時間が終わっていれば携帯電話が通じるようになるはずだ。だが、ここが依然としてタルタロスだというなら・・・」
「電話なんか使えねーよ。」
美鶴の言葉を遮って、ふいに聞きなれない高い声がした。全員がびくっと身構える。
「誰だ。」真田が鋭く問いただす。
「吾輩だ・・・名前は・・・思い出せない。」
先ほどまで『彼』の腕でぐったりしていた猫のような生き物が身を起こしていた。
「猫がしゃべった!」ゆかり が驚きの声を上げる。
「猫じゃねーよ!。猫がしゃべるわけねーだろ。」猫もどきは怒ったように返した。
「それじゃあ、なんなんだお前は。」真田が続けて詰問する。
「人間・・・のはずだ。なんかおかしなことに巻き込まれて、こんな姿になっちまったんだ・・・と思う。」
一同は顔を見合わせた。
「どうも記憶がはっきりしないんだが、ここが現実ではなくて異世界だってことはわかる。」
猫もどき・・・はそう言うと、『彼』の腕から飛び降りて、すくっと地面に立った。
「異世界か。とんでもない話だが、こんな島の存在すること自体が不自然だからな。一概に否定もできん。タルタロスとも違うようだしな。」
美鶴が言った。
「そのタルタロスってのはなんだ?それは知らないぞ。」猫もどきが訊き返してくる。
「影時間にだけ現れる迷宮の塔だ。」真田が答えた。
「意味が解らない。影時間ってなんだ。」猫もどきが興味津々な様子で尋ねた。
「夜0時から1時間ほど、普通の人間には感知できずに存在する時間を我々は影時間と呼んでいる。」
「なんだそれは!そんなの知らないぞ。」
「じゃあ、ここがどこだかは知っているのか?」真田はいらついたように質問を切り返した。
「ここは言わば人間の頭の中だ。人の心の歪みが生み出した異空間だ。」
猫もどきの言葉に、一瞬沈黙が訪れ、皆が顔を見合わせた。
「そっちこそ意味が解らない。」真田がため息をついた。
あまりの話のかみ合わなさに再び沈黙が訪れる。
「とりあえずお互いの情報交換が必要なようだな。」猫もどきが提案した。
「猫の言うとおりだ。」真田も同意する。
「だから猫じゃねえって・・。」
「じゃあ、何と呼べと? 名前、思い出せないんだろう。」
「なんか適当につけてくれ。」猫もどきがぶっきらぼうに言う。
「なら猫でいいだろう。」真田がぶっきらぼうに返す。
「猫じゃねー!!」猫もどきがまた声を張り上げた。
「まあまあ、真田さん。」
にらみ合う二人を取りなすように、ゆかり が口をはさんだ。
「じゃ、じゃあ、さっきのファタモンガー・・・なんでしたっけ?」
「ファタ・モルガーナか?」美鶴は助け舟を出した。
「そう、それから取って、モルガーナ・・・モルガナってどう?」
猫もどきはキョトンとして、それからうなずいた。
「いいぜ。気に入った。」
モルガナはもともと人名でもある。悪くないネーミングだ。
「では当面の間、モルガナと呼ばせてもらおう。」
美鶴がとりあえず話をまとめた。

特別課外活動部の一行は、影時間とタルタロス、そしてシャドウについてモルガナに説明した。
モルガナは本当に初耳だったらしく、それにいちいち驚いた反応をしてみせた。
一方、モルガナの説明によると、メメントスという人の意識を共有した世界があり、その中でも特に歪んだ心の持ち主は独自の異空間を作り出すらしい。
「そういうヤツは大概ひどく歪んでいて、手前勝手な心が生み出した宮殿でそこの王様になっている。」
「人の心の中にあるパレスというわけか。」美鶴が言った。
「いいネーミングだ。まさに歪んだ心が生み出したパレスだ。そこではその人間の歪んだ認知が形をとっている。今、この場所も島だけではなく、周りに見える景色から空の星まで含めて全てパレスなのさ。誰かがそのタルタロスっていう塔をこういう風に認知しているんだろう。」
「途方もない話だな。」真田がため息をついた。
「歪んだ認知か・・・難しい話になってきたね。」
ゆかり が首をかしげて『彼』に同意を求め、『彼』は「そうだね。」と静かにうなずく。
「しかし、俺たちはどうしてそんなところに迷い込んだんだ?」
「それは吾輩にもわからない。吾輩は元の姿と記憶を取り戻すために、メメントスを、そしてパレスを探し回っているんだ。そうしてこのパレスにもやってきた。」
「それなのに、どうしてタルタロスの中に倒れてたんだろう・・」ゆかり が不思議そうに言う。
「この島の主がいるパレスを探索している時、いきなりパレスが崩壊したんだ。慌てて脱出しようとしたんだが、その後のことはさっぱりだ。」
「この世界から弾き飛ばされて、タルタロスに出現したわけか。しかしパレスが崩壊したというのなら、なぜ今この場所が存在してる。」
美鶴が問いかける。
「さあな。しかしこのパレスの主はこの島の中央にいる。そこに答えがあるはずだ。一緒に行って確かめてみるか?」
モルガナが島の奥を指さした。

モルガナの後についてちょっとした森を抜けると、やがてかなり大きな洋風の宮殿、といってもいい建物が現れた。
巨大で豪奢な建物。正面の門にはかがり火がたかれている。
「まさにパレスだ。非現実感がすごいな。」美鶴が呆れたような声を洩らした。
「で、どうする?探ると言っても何をどう探ったらいいんだ?」真田が言う。
「それはだな・・・」モルガナが語りかけたところで
「あれ?あの門のところに立っているの、アイギスじゃない?」と、ゆかり が指さした。
正面門の脇、守衛のように立つ姿は、アイギスの特徴的な姿をしている。
「確かにそうだ。・・・しかし何かおかしいな。」美鶴が答えた。
そもそもこんな場所にアイギスがいるわけがない。
「行ってみるか。」真田はそう言って歩みを進めた。
木立の中を近づいていき、適度な距離で真田が木陰から手を振って合図してみる。
それに気づいたのか、アイギスはいきなり一直線にこちらに向かって駆け出した。
両手を広げた独特の走り方はまさしくアイギスだが、接近してくるとその顔には、シャドウのごとき仮面をつけているのが見えた。
「危ないぞ。そいつはお前らが知っているヤツじゃねえ。」モルガナが警告を発した。
身の危険を感じて、真田は突進してくるシャドウ・アイギスからかろうじて身をかわす。
かわされたアイギスが止まって反転した瞬間、モルガナが飛びかかってその首にしがみつき、「正体を見せろ」と叫んで顔から仮面を引きはがした。
途端にシャドウ・アイギスは異形の怪物に変貌する。
「やはりシャドウか!」
真田はすかさず召喚器を頭部に向けた。
「カエサル!」
呼び出されたペルソナが、シャドウにジオダインを放つ。
シャドウはその一撃で黒い塵となって消し飛んだ。
「お前、その力は!」真田のペルソナを見て、モルガナは驚きの声を上げる。
「この力はペルソナと呼ばれている。俺の心の力が形になった、言わば俺の分身だ。」
「すげえ力だな。お前らみんなできるのか。」
モルガナが見回すと、一同がうなずく。
「これは心強い。吾輩、ついてるぜ。」
モルガナが満足そうにニヤリと笑った。
「しかしこのシャドウ、なぜアイギスの姿をしていたんだ?」
美鶴が不思議そうに言った。
それに対してモルガナが答える。
「こいつはこのパレスの主の歪んだ認知が生み出したものだ。つまりこのパレスの主は、そのアイギスという奴を知っていて、こういう風に認知していたってことだな。本人ではなくてまさに影・・・シャドウとは言い得て妙だ。」
「このパレスの主がアイギスのことを知っている?」
改めて全員が顔を見合わせた。

 
 

 
後書き
今回は、会話に加わるメンバーが多いため、会話劇になりがちです。もともとドラマCDのような話を目指して毎回書いているのですが、本当にドラマCDのように会話で進む話になってしまいました。必然的にドラマCD同様、主人公の影が薄くなりますね。
次回はいよいよパレスの主の登場です。(まあ大体想像つくと思いますが・・・) 
< 前ページ 目次
ページ上へ戻る
ツイートする
 

全て感想を見る:感想一覧