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MOONDREAMER:第二章~

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第二章 勇美と依姫の幻想郷奮闘記
  第9話 新生勇美+α:後編

 魔法の森の入り口付近に一軒の万屋があった。
 その店の名前は『香霖堂』。このような辺鄙な場所にあるこの店は当然客足は少なかったのだ。
 だが、今その数少ない客が来たようであった。カランコロンと風情のある店お約束のメロディーを奏でて扉は開かれたのだ。
「いらっしゃい」
 カウンターの前で読書していた店主は客に対して挨拶をした。だが、店の対応としてはいささか素っ気なくではあるが。
 彼の名前は森近霖之介(もりちか・りんのすけ)。白髪に眼鏡をかけた理知そうな男性である。
 服装はゆったりとした昔の商売人と言った感じであった。
 実は彼は人間と妖怪のハーフなのであるが、今はその事は話題ではないだろう。今話題にすべき事は……。
「おや、見ない顔だね、お二人とも」
 香霖堂にやって来た二人の客であった。
「依姫さん、ここですよ」
「勇美、ここが香霖堂ですか」
 そう、他でもない、黒銀勇美と綿月依姫の二人であった。
「ゆっくり見ていくといいよ」
 霖之助は珍しく来店した客、それも初顔であってもそっけない態度を崩す事はなかった。
「ありがとうございます。あなたが店主さんですね?」
「いかにも、僕がこの香霖堂の店主の『森近霖之助』だよ」
 勇美に尋ねられて霖之助はそっけない態度を少し崩し、やや笑みを称えて対応した。
「霖之助さんですか、いい男ですね~」
 勇美はうっとりとしながら、霖之助を舐めるようにしながら漏らす。
「そうかい、それはどうも」
 霖之助は頬を掻きながら、平静でいながらもまんざらではない様子を見せる。
 それを見ながら依姫は微笑ましい心持ちとなっていた。勇美とて女の子であるのだと。普段はどこかふざけた所がありながらも、彼女も格好いい男が好きだというような発言に安堵を覚えるのだった。
「どうです? 私のお尻のなかでお……」
「てやああああー!」
 依姫は不謹慎な発言を今せんとばかりになった勇美の脳天に綺麗にチョップを入れた。
「あだ~~~!」
 頭に打撃を喰らいしゃがみ込み悶絶する勇美。
「何するんですか依姫さん~!?」
「黙らっしゃい! 貴方こそ何を言おうとしているのよ!」
 依姫も負けじと暴走しかけた勇美を窘めるべく反論する。
「だって、いい男はお尻の中で……」
「しゃら~っぷ!」
 依姫の二度目のチョップが勇美に炸裂した。
「うぐぅ……」
 勇美はまたもうずくまった。
 ……前言撤回だったようだ。勇美はいい男からそういう『くそみそ』な発想に至るような子だったのだと、脳内修正しなければならないだろう。
「……僕を置いてきぼりにやり取りしないで欲しいものだね」
 霖之助は突如勃発した来客のショートコントに、頭を掻きながら呆れて言った。
「これは失礼しました」
「ごめんなさ~い」
 振る舞いは違えど、勇美と依姫は謝った。人物像のまるっきり違う二人ではあるが、内心素直である所は共通しているのだろう。
「分かってくれればいいよ。ところで、自分でも言うのは何だけど、こんな風変わりな店に一体何のようだい?」
「惜しい、霖之助さん。そこは『なんの ようだ!』じゃないといけませんよ♪」
「それは店の対応として大問題だよね……」
 霖之助は項垂れた。自分が店の主人としての対応にいささか問題がある事をやや棚上げしつつ。
「このお店に来た訳ですよね」
 勇美は自分からこじらせていた話を自分で修正した。
 そこに依姫が入り込む。
「元々は私がこの子に服を買ってあげようって話だったのだけど、この子が『それなら香霖堂に連れていって下さい』と言うものだからここに来た訳よ」
「ほう、それは……」
 霖之助は嬉しくなる一方で、疑問も当然起こってくる。
「何で香霖堂で服探しをする気になったんだい?」
 それが一番彼が思う所であった。
「それはですね、香霖堂は外界から珍しいアイテムを仕入れて売っているって噂に聞きまして、それでどうせならそこで私の服を一風変わったものから選ぼうって思ったんです」
 勇美はそう答えた。奇をてらう意味合いも多少はあったが、新しい道を歩く自分を鼓舞する為に奮発しようという心意気もあったのだ。
「勇美ちゃんと言ったね、君はチャレンジャーだね」
「そ、そうですか?」
「勿論良い意味でだよ。その気持ち、忘れては駄目だよ」
「……はい!」
 霖之助に言われて一瞬迷ったが、勇美は良い返事で返したのだった。
「それじゃあ、店の中の物をじっくりと見て回るといいよ」
 霖之助にそう薦められて、勇美と依姫の店内探索が始まったのだ。

◇ ◇ ◇

「うわあ、これは『ファミコン』だね~、懐かし~♪」
 香霖堂内部巡りをしている勇美は、とあるゲーム機を発見してはしゃいでいた。
「さすがは外の世界で幻想になった物が流れ着いて来た物を売っているだけあるね~」
 勇美はもう目にしないだろうと思った代物との再開によってノスタルジーに浸っていた。
「勇美、買うのは服だけよ」
 依姫は、羽目を外す勇美に対して釘を刺した。
「安心して下さい、さすがに今これを使って遊ぼうとは思いませんから」
 あくまで浸っていただけだと勇美は付け加えた。
 それに対して依姫はそういう心も大切かと思って聞いていた。過去に捕らわれずに未来を見据えるのが自分の信条であり、それがレイセンを受け入れるという行動に反映されているのだ。
 だが嗜む程度に過去を味わう事も大切だろう。ガチガチに未来ばかり見ていては心にゆとりがなくなるのだから。
 しかし、それはそれだろう。そう思い依姫は口を開く。
「それで、良さそうな服は見つかったのかしら?」
「それならバッチリ♪ こっちですよ」
 勇美はそう言って依姫を案内した。
「これ……?」
 その服を見た依姫に微妙な空気が流れていた。
「そうですよ、和服を着ながらメカを操るアンバランスさって面白いと思うでしょう?」
 そう、勇美の言葉通り、それは和服だったのである。
「黒は貴方の好きな色なの?」
「はい! だから私の名字の『黒銀』も気に入っているんですよ」
 依姫に聞かれて、勇美は意気揚々と答えた。
「色は……まあ問題ないでしょう」
 それは問題ではなかったのだ。問題は。
「和服なのに、この丈の短さなの?」
 それが問題なのであった。本来和服は丈が足下まで来るものだが、これはミニスカート程のものしかなかったのだ。
「はい、前々から着たかったんですよね~『ミニ和服』って」
 そう勇美がそう言い表した通りの服なのであった。
「寧ろ、普通の和服の丈で弾幕ごっこする方が大変じゃないですか?」
 負けじと勇美は依姫にミニ丈のメリットを訴えかける。
「確かに」
 それに折れて、依姫は納得したのだ。白玉楼の亡霊姫のように普通の丈の和服で戦える猛者はいる事はいるのだが。
「貴方がそれを選ぶのならそれでいいわ。でもまずは……店主さん!」
 そこで依姫は店主である霖之助を呼ぶ。
「何だい?」
 呼ばれて霖之助が向かってきながら聞いた。
「この店に試着室はあるかしら?」
 それが論点であった。いくら見た目が気に入ろうとも、ちゃんと本人が着られる物でなくては意味がないのだから。
「ああ、こっちにあるよ」
 そう言って霖之助は二人を案内したのだった。

◇ ◇ ◇

「どうですか、依姫さん?」
 そう言って勇美は着替えて試着室から出て来たのだ。和服だから着付けが面倒だろうと依姫は踏んだのだが、勇美は難なく着てしまったようだ。サイズも丁度良い具合であった。
「……」
 依姫は無言だった。それに対して勇美は不安を覚える。
「もしかして、似合ってないとか?」
「いいえ、その逆よ。とても似合っているわ」
 勇美に言われて依姫は慌てて首を横に振った。
 依姫が暫し呆けていたのは、似合いすぎていたからであった。
 勇美の艶やかな黒のショートヘアと黒いカラーリングは見事にマッチしていたし、彼女のやや小柄な体躯と、悪戯っぽく短い丈から生えるスラリとした脚線が妙に相性が良かったのだ。
「うん、僕も可愛いと思うよ」
 試着室の前で待機していた霖之助も賛同して言った。
「二人とも……ありがとうございます」
 褒められて嬉しくない者はいないだろう。勇美もその例に漏れず嬉しくなるのだった。
「依姫さん、これを着ながらマッくんを発動させていいですか?」
「ええ、いいわ」
 寧ろ依姫もそれを見たかったのだ。和服を着ながら機械の分身を操る様がどう映るかを。
「それじゃあ、マーキュリー様、お願いします」
 勇美は依姫の神降ろしの力を借りて以前呼び出した神に呼び掛けたのだ。
 そして、勇美の側に金属の断片が次々現れると、ガチャガチャと音を立てて組み合わさり形が造られていった。
 それはダチョウ型の二足歩行の機械。以前メディスン戦で見せた『エルメスの靴』の状態であった。
「どうですか依姫さん? 和服着た人がメカを召喚する様は?」
「ええ、いい意味で意外性があるわね」
 と、依姫も賞賛した。
 その側で唖然としていたのは霖之助である。何しろ勇美のメカ召喚を始めて見たのだから。
「僕は寧ろ君がそんな芸当が出来た事に驚きだよ……」
 彼はそうぼやくしかなかった。
「私だけの力じゃありませんよ。依姫さんと神様の力を借りて出来るようになったんですから」
 勇美は胸に手を当ててしみじみと言った。その事をこれから忘れる事はないだろう。
「ところで霖之助さん」
「何だい?」
「聞いた話では、あなたの能力はアイテムの用途が分かるってものでしたよね?」
「ああ、そうだけど」
 突然自分の能力に話題を持っていかれて、何事かと霖之助は勇美に聞く。
「そこで、霖之助さんにこのマッくんの用途を見てもらいたいんです」
「その機械をかい?」
 首を傾げる霖之助だったが、すぐに気を持ち直した。彼自身、目の前の少女が作り出した機械の用途は何と出るか見てみたくなったのだ。
「分かったよ。やってみるからね」
 そして霖之助はそのダチョウ型の機械に手をかざして念じた。
 それを30秒程行っていた霖之助は、その手を引いて首を振った。
「駄目だね、この機械の用途が何なのか、まるで分からなかったよ」
「分からないんですか?」
 顔に少し落胆の色を見せて勇美は聞き返した。
「うん、こんな事は初めてだよ」
 彼は遠い目で言う。
「やっぱり、マッくんはアイテムとしては扱われないって事でしょうか?」
 勇美は可能性の一つを口にした。自分が作り出す分身だから、生物として扱われ、アイテムではないのだろうと。
「そうかも知れない、でも……」
 霖之助は勇美の意見に同意しつつも、別の可能性をあげる。
「この機械の用途は……『君が決めていく』って事なんじゃないかな?」
 つまり、マックスがどういう存在になっていくかは、勇美次第だという意味を霖之助は込めたのだった。
 それを聞いて勇美は、はっとなってしまい、そして言う。
「そっかあ、マッくんの役割は私が決めるのかぁ~……」
 感慨深そうに勇美は言った。
「霖之助さん……うれしい事言ってくれるじゃありませんですか」
 染々と呟く勇美。そこに依姫がキッときつい視線を送る。
「ひぃぃ」
 勇美はそれに戦慄した。
「勇美……」
「依姫さん、落ち着いて下さい。今の発言には断じて『くそみそ』的なニュアンスは含まれていませんって」
「……本当ね?」
「本当も本当!」
 等と、再び二人はギャーギャーとしょうもないやり取りを再開していた。
 そこに霖之助が「オホン」と咳払いをした。
「それで……君達の用は済んだかい?」
「勇美、これでいいのね?」
「はい。でもどちらかというと『そんな装備で大丈夫か?』って聞いて欲しかったですね」
「それで貴方は『大丈夫だ、問題ない』って答える訳?」
「はい」
 また変なやり取りが始まった。霖之助はまた頭を抱えつつも言う。
「君達は本当に仲がいいね」
 その霖之助の指摘に二人は、はっとなり、そして互いに顔を見合わせた。
 そして、どちらからともなく吹き出してしまったのだった。
「依姫さん、私達仲が良いって」
「本当ね、まだ会ってからそんなに経ってないのに不思議ね」
 そう言って二人は微笑み合った。そんな二人の雰囲気に霖之助も満更でもない心持ちとなる。
 だが、話は進めなくてはいけないので彼は続きを促した。
「それで、どうなんだい?」
「はい、これにします」
「勇美も気に入っているみたいだし、これを頂くわ」
「毎度あり」
 ここに商談は成立したのである。
 依姫が霖之助に代金を支払う傍らで、勇美は話かけた。
「依姫さん、これ着たままで帰りますね」
「ええ、どうぞ。余程気に入ったのね」
「はい、とっても♪」
 依姫の指摘通り、勇美はとても嬉しそうにウキウキしながら言う。
「それで、和服を着たからには……」
 そこで勇美は一呼吸置き、依姫は何事だろうかと続きを待った。
「パンツ脱いでいいですか?」
 その瞬間時が止まった。そして再び時は流れ出すと。
 プシュッ。霖之助は鼻血を吹き出してしまっていた。彼とて沈着冷静に見えても男という事だろう。異性のそういう破廉恥な発言は刺激が強かったのだ。
 一方で同性、しかも既に既婚者である依姫は霖之助よりも冷静であった。そして冷静に勇美を羽交い締めにしたのだ。
「勇美、何を言い出すのよ」
「うぐぅぅぅ……」
 綺麗に技を極められて呻き声を漏らす勇美。
「だ、だって和服って西洋の下着は着けないものですよねぇ~」
 極められながらも勇美は反論する。
「そういうのは今の時代、きっちり守らなくてもいいのよ。第一その丈の短さだと危険極まりないわ」
「そんなぁ……」
 依姫に指摘されて勇美はがっくりと首を落とした。彼女は和服を着る時はノーパンをきっちり守ってやろうという野心を今まで抱いていたのだ。それが今砕かれてしまったのだった。
「店主さん、お聞き苦しい発言済みません」
「ああ、気にしなくていいよ。僕は少し気にしてしまうだろうけど」
 依姫に代わりに謝られて、霖之助は気にしないように言う。しかし、少なくとも彼は今夜ぐっすり眠れないだろうというリスクを負ってしまったのだ。彼の鼻に詰められたティッシュが痛々しい。
「まあ、お買い上げ頂いてありがとう」
 ティッシュのせいで締まりがなくなりつつも、霖之助は店主としての最後の対応を行っていた。
「霖之助さ~ん、また来るね~」
「ああ、ありがとう。でも今度はああいう発言は抜きだと助かるよ」
 明るく振る舞う勇美に、霖之助は礼を言いつつも本音を漏らした。
「それでは、また機会があったら」
 依姫も勇美に続いて別れの挨拶をして店を後にするのだった。

◇ ◇ ◇

 そして勇美と依姫は永遠亭に戻って来ていたのだ。
「勇美ちゃん、似合ってるわよ」
 後に永遠亭の住人の多くに賞賛される事になる勇美だが、まず最初に言ってくれたのは永琳であった。
「ありがとうございます、八意先生」
 自分の晴れ姿を永琳程の人に褒めてもらえて、勇美は誇らしげになった。
 しかし、彼女は他に思う事があったのだ。
「ところで依姫さん」
「何かしら?」
 突然勇美に呼び掛けられて、依姫は疑問符を頭に浮かべた。
「私がコスチュームチェンジしたんだから、依姫さんもいかがですか? 寧ろお願いします! 更に言い換えるとオナシャス!」
「何故そういう話になるのよ?」
 少なくとも最後の言い換えは必要ないと付け加えながら依姫は聞いた。
「依姫さんは今、幻想郷を巡って人々と触れ合う為に来ていると聞きました」
「確かにそうだけど、これとどう関係あるのかしら?」
 未だに勇美の話の要点を掴めない依姫は尚も聞く。
「いえ、だから依姫さんにとっても新しい道なのではないですか?」
「!」
 その勇美の言葉に依姫は意識を覚醒させられるような感覚に陥った。
「……確かに貴方の言う通りね。私の負けだわ」
 勇美の真摯な思いに、依姫は観念する事にしたのだった。
「私の主張を聞き入れてくれるんですね? それじゃあ我がままついでに……」
 そこで勇美は邪な笑みを浮かべていた。
「依姫さんには巫女装束を着てもらいます」
「な、何言っているのよ!?」
 一度は折れた依姫であったが、さすがにその要望を受けるのは阻まれたのだ。
「だって、依姫さんは神をその身に降ろせる女性でしょ。つまり、正真正銘の巫女だからですよ」
「だからって、その服装は目立つでしょ」
 勇美に言われても、依姫は乗り気ではない。
 そうしていると勇美の様子に変化が見られた。
「お願いします! 霊夢さんも早苗さんも巫女装束からかけ離れているんですよ。だから、最後の頼みの綱は依姫さんだけなんですぅ~」
「何も泣く事はないでしょ……」
 勇美に泣き付かれて、依姫は呆れ顔になっていた。
「絶対依姫さんに似合うと思いますのに。ちなみに豊姫さんは白のノースリーブワンピースにケープの組み合わせがいいですね。豊姫さんの綺麗な金髪とあの帽子にとても合うと思うんですよ」
「私のみならず、人の姉まで巻き込むのはやめなさい」
 それこそ問題だと依姫は思った。幾ら何でも勇美の趣味に走りすぎだと。
 そんなやり取りをやる二人と、それをどこか無駄に暖かい目で見守る永琳。そこに新たなる来客が現れたのだ。
「依姫、お久しぶり。八意様もお元気なようで」
「あ、久しぶりね、豊姫」
 それは今し方話題にあがった豊姫であった。月の守護に就いている所であったが、暇を見つけて師や妹のいる永遠亭を訪れたようだ。
「勇美ちゃんは初めましてよね、よろしくね」
「こちらこそお初にお目に掛かります、豊姫さん」
 そこで初対面の二人は固く握手をした。
「お姉様もお久しぶりね……と言いたい所だけど」
 依姫はそれを言うべきか迷いがあったが、敢えて踏み込む事にした。
「何で、『着ている』のですか?」
 そう、依姫の指摘通り、豊姫は慣れ親しんだ自分の服との色違いのものではなく、先程勇美が豊姫の服装としてリクエストした白のノースリーブワンピースにケープの姿だったのだ。
「あら、似合ってないかしら~?」
「そういう問題ではありません」
 依姫は首を横に振った。論点はそこではないし、更に似合っているかいないかで言えば文句なく似合っているのも問題だったのだ。そこはかとなくエロティックだし。
「豊姫さん~、とても似合ってますよ~」
 そりゃそうでしょうよと依姫は思った。勇美の趣味の産物そのものなのだから。
「ありがとう、勇美ちゃん♪」
 豊姫はニッコリと微笑みながら勇美に返した。
 だがその後、笑みを歪なものにして依姫に顔を向けた。
「さて、依姫……」
「な、何でしょうか……?」
 依姫は嫌な予感がして冷や汗を顔に浮かべた。
「私も勇美もコスチュームチェンジしたんだから、貴方だけしないなんて許されないわよ」
「うっ……」
 そう豊姫に詰め寄られて依姫は言葉を詰まらせた。ちなみに永琳に助けを求める意図で視線を送っても「あらあら、うふふ」と言わんばかりに優しく微笑んでいるだけで助け舟は渡してくれなかったのだった。

◇ ◇ ◇

 ──後日、永遠亭にて。
「ど、どうかしら?」
 そう言う依姫の出で立ちは、清楚な白の小袖に艶やかな緋色の袴のコントラストが愛らしさと妖艷さを醸し出す──紛れもない正真正銘の巫女装束であった。
「ヒャッハー! ……ええ、文句なしに最高です」
 当然勇美は歓喜し、ここに新しさが加わった勇美と依姫が揃ったのだった。
 ──ちなみに依姫は緋袴の形状を明治時代以降に作られたスカート状の物を選んだのである。理由は過去に縛られずに未来を見据えるのが依姫の信条だから、より先の時代に作られた物に習うべきだというものだった。
 気が余り進まないながらも、こういう所も真面目になってしまうのが依姫らしかったのだった。 
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