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足は三本でも

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第一章

                足は三本でも
 若松光一は勤めていた会社が倒産し今は次の仕事先を探している、だが失業だけでなく父も亡くなり恋人が結核で長期療養となり。
 かなり気落ちしていた、それで家でもだ。
 俯いて落ち込んでいた、それで母や妹も心配していた。
「何とかね」
「気を取り直して欲しいわね」
「ええ、お父さんのことは仕方ないし」
「前から癌だったから」
「仕事先だってね」
「また見付かるし」
「咲子さんのことも」  
 光一の恋人の彼女のこともというのだ。
「発見が早かったから」
「ちゃんと療養してれば完治するし」
「結核はもう死ぬ病気じゃないから」
「大丈夫よね」
「だからね」
 それでというのだ。
「流石に辛いけれど」
「気持ちを落ち着けて」
「元気になって欲しいわね」
「そうよね」
 二人でこう話してだった。
 光一を見守っていた、だが彼は就職先は探していても。
 それでも気落ちしたままだった、そんな中で。
 彼は会社の面接の帰りに一匹の柴犬に似た茶色の毛の犬を拾ってきた、母はその犬を見て彼に尋ねた。
「その子は」
「帰りに川の土手で見付けたんだ」
 細面で切れ長の目と細く長い眉を持っている、黒髪は七三にしていて一七六程のすらりとした身体をリクルートスーツで包んでいる、その姿で犬を抱きつつ母に話した。
「前足、右足が悪いみたいで」
「放っておけなくてなの」
「あの、俺失業中だけれど」
 それでもとだ、光一は母に頼み込んだ。
「まだ貯金あるし」
「就職もよね」
「探してるし絶対に就職するから」
 だからだというのだ。
「面倒も全部見るから」
「だからなのね」
「飼ってもいいかな」
「いいわ、ただね」
「ただ?」
「そのワンちゃん汚れてるからね」
 だからだとだ、母は息子に言った。
「お風呂場で洗ってあげて」
「奇麗にして」
「あんたのその服も」
 今着ているリクルートスーツもというのだ。
「ワンちゃん抱いて汚れてるから」
「クリーニングに出して」
「そしてね」
 そのうえでというのだ。
「奇麗にしなさい」
「わかったよ、じゃあ」
「ええ、その子頑張って世話してね」
「そうしていいんだな」
「それであんたが少しでも気が晴れて元気になったら」  
 それでというのだ。
「いいから」
「それでか」
「いいと思うわ」
「犬飼うだけで変わるのかよ」
 今の落ち込みきった気持ちがとだ、光一は母に疑問の言葉で応えた。
「そんなのな」
「それはわからないでしょ、とにかくね」
「ああ、こいつをか」
「面倒見て幸せにするのよ」
「わかったよ」
 光一は母の言葉に頷いた、そしてだった。
 彼はすぐに犬を風呂場で洗い奇麗にしてリクルートスーツはクリーニングに出した、幸い服にスペアがあったので問題なかった。
 だがその犬の右の前足は。 
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